日銀のスタンスは変わるのか?:植田新総裁=円安継続と考えたら危険

植田和男氏が所信聴取に臨みました。それを受けて直後に円安になったのは植田氏が現在の日銀のポリシーを支持すると述べたため、市場に安ど感が広がったから、とされます。円安の本当の理由はそれもありますが、むしろ、アメリカの利上げ観測により強いバイアスがかかったことであり、「ドル高他通貨安」を引き起こしたというのが正解です。よって植田新総裁=円安継続と考えたらこれは危険だと思います。

植田和男氏 NHKより

ではお前は所信聴取をどう読み取ったのか、と言われれば明白に方向修正を内包している、と断言できると思います。つまり、今の日銀の金融政策は異常であり、これをどうにかして正常化に戻す道のりを考えるということかと思います。問題はそのタイミングであり、これがいつになるか、ここまでは読み取れないですが、YCCは割と早い時期に撤廃するように見えます。国債購入も財政ファイナンスと指摘されやすいため、その次に止めたい手段でしょう。一番難解なのがETF(上場投資信託)の日銀持ち分の売却で、これは極めて困難なプロセスが起こりうるということかと思います。

金曜日に発表された日本の消費者物価指数は総合指数が41年4か月ぶりの4.2%上昇でコアコア(生鮮品とエネルギーを除く)指数も40年9か月ぶりの3.2%上昇となっています。植田氏は2%の物価上昇が実現すれば金利正常化に向かえると述べています。では今は2%の物価上昇ではないのか、といえばこれは日銀の業界用語的には違うというのでしょう。それは「コストプッシュ型ではなく、かつ安定的な2%の物価上昇」という意味合いだと理解しています。

今の日本のインフレは基本的にコストプッシュ型であり、景気の過熱感からきているインフレとは言い難いものがあります。また、黒田総裁は23年後半には2%を下回ると言い続けています。私はそれはないだろうと思いますが、ポリシーメーカーの日銀総裁の考えが揺らいでいては話にならないのでそう言い続けるしかないのだろうと思っています。

実際にはどうなるか、です。まず、2月以降のインフレ率は1月の4.2%上昇から幾分下がるはずです。それは電気代に政府補助が出るからで3%台になる公算は高いと思います。が、それもあくまでも表面的な数字遊びなのです。政府が補助しているからインフレ率が低く見えるだけ。同様にガソリンも同じです。欧米ではそんなことはしないのでインフレ率が当然高くなっているというのが実態であり、仮に日本もガソリンや電気代の補助がなければ5%は超えていた可能性はかなり高いと思います。

日銀はその特殊要因をどう評価するか、迫られると思います。

次に以前にも申し上げましたが、金利は一定水準を下回ると緩和効果が経済全体には出にくくなるとされます。概ね1%あたりがその変化点だとされます。ということは1%を下回った部分はぬるま湯ということになります。ぬるま湯を普通の湯にするとどうなるか、と言えばゾンビが暴れ、国民から強いバッシングが出るでしょう。しかし、それは黒田氏が飴玉を与え続け金利に対する耐性が弛緩しきっているともいえるのです。

とすれば黒田氏からバトンを継ぐ植田氏は嫌な役を引き受けるということです。雨宮氏が総裁のポジションを固辞したのは黒田氏の懐刀で実務派とされた人がその逆をするのは難しいと自分で考えたからでしょう。黒田氏のやり方を踏襲できるなら雨宮氏が嫌がる理由はなかったわけでそれが許されないから雨宮氏の総裁のポジションは無くなったということなのでしょう。

では日銀の定義で言う2%の安定したインフレはやってくるのか、ですが、私はあり得ると思います。日本人は過去30年以上、値上がりという言葉を忘れていたのです。いや若い方は知らなかったとも言えます。が、この1年、モノの価格は上がり、国民は確実に物価が上がったことを実感しました。その上で春闘は相当良好な結果になると予想されています。トヨタやホンダは早々に満額回答で、これが思った以上に中小企業にも伝播していく感じです。物価高で従業員からの賃上げ要求が高まり、企業は販売価格を引き上げやすい環境にあるので給与も上げられるという前向きの環境が整ってきたとみています。

日本の特徴はずっと我慢していたものがあるきっかけに「我先に」と一斉に同じ方向に飛び出す点です。それが今年の半ばに向け一斉に開花するだろうとみています。私はむしろ、日銀の金融政策が後手になりやしないかという心配すらしています。

では今日はこのぐらいで。


編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2023年2月27日の記事より転載させていただきました。