「戦場」から地震の「被災地」へ:ウクライナが救助隊をトルコに派遣

独日刊紙ZeitOnlineから定期的にニュース版が届く。週末には過去1週間の「グッドニュース」集が配送される。戦争、地震、事故といった暗いニュースが多い中、同紙編集局は読者にグッドニュースだけを選択して送ってくる。暗いニュースは新聞やインターネット上に迅速に報道されるが、グッドニュースは案外忘れられたりして読者の手に届かない場合があるからだ。

地震の被災地カフラマンマラシュを見舞うエルドアン大統領(2023年2月8日、トルコ大統領府公式サイトから)

トルコの被災地(バチカンニュース公式サイトから、2023年2月25日、写真・イタリア通信)

ただし、グッドニュースといっても同紙編集部が選択するから、完全に純粋にいいニュースかというとそうとは言えない。例えば、25日に配信されたトップ記事は「カーディフの政府(ウェールズ首都)は、環境への懸念から、新しい橋や道路の建設を保留決定」だった。環境保護に貢献しているということからグッドニュースのトップを飾ったわけだ。2位は「1週間4日勤務」は機能する、という英国の調査報告記事だ。そして3番目は「韓国の裁判所が初めて同性カップルの権利を認めた」という記事が入っていた。LGBT支持者にとってはグッドニュースだが、そうではない保守的な読者にとっては「韓国よ、お前もか」といった感がするだろう。いずれにしても、100人全員が全て「グッドニュース」と感じるニュースは残念ながらそう多くはないだろう。

思い出す名言がある、米作家マーク・トウェイン(1835年~1910年)は、「自分を元気づける一番良い方法は、誰か他の人を元気づけてあげることだ」(The best way to cheer yourself up is to try to cheer somebody else up)と述べている。また、アルベルト・アイシュタインの「Die groste Macht hat das richtige Wort zur richtigen Zeit」(最大の力は正しい時の正しい言葉だ)も思い出す。読者に感動を与える記事もそうだろう。正しい時に正しい言葉を使った記事だ。

独週刊誌シュピーゲル(2月18日号)には心温まると共に、考えさせる記事が掲載されていた。タイトルは「戦場から被災地へ」だ。トルコ南東部とシリア北部付近でM7・8の大地震が2月6日未明、発生した。23日現在、トルコとシリアで5万人を超える犠牲者が確認された。トルコのソイル内相によると、同国で22日現在、4万3500人超の死亡が確認された。一方、在英のシリア人権監視団筋によると、シリアでの死者は6700人以上となった。

トルコ大地震のニュースが流れると、ウクライナのゼレンスキー大統領は自国の特別災害救助隊を被災地に派遣することを決め、87人からなる救助隊(救助犬8頭)を派遣した。シュピーゲル誌の記事はその活動ルポをまとめている。

青と黄の紋章を付けたウクライナから派遣された災害救援隊を見て、多くのトルコ人難民は「国でロシア軍と命がけの戦闘をしている中、われわれを救済するために来てくれた」と、深く感動したという。特に、シリア難民は「彼ら(ウクライナ人)だけだ。シリア人の窮地を理解してくれる人間は」と呟いたという。シリアでは2011年の内戦勃発以来、約660万人以上が国外に避難した。現在も約670万人が国内避難民となっており、人道支援を必要としている。10年以上の内戦を体験し、命懸けで生き延びてきたシリア難民は、ロシア軍の激しい攻撃を受けている中、地震の被災者救援に来てくれたウクライナの災害救助隊に感謝していた。

外国救助隊は倒壊した建物の下敷きとなった生存者を救出する一方、亡くなった犠牲者を運び出す。負傷者の治療も行う。長時間の救助作業後、一休みするために地べたに横になるとき、ウクライナ救助隊員は、「ここでは地雷の心配がないから安心して体を横にできる」と喜んでいた、というのが印象的だった。

ウクライナ災害救援部隊の一員で医者のイヴァンが、「どの死が無意味な死か。戦争で死ぬことか、地震で被災して犠牲になる死か」と救助犬の指導者オルガに聞いている。彼女は「戦争で死ぬことだわ。人間が人間を殺す以上に無意味なことはない」と答えた。シュピーゲル誌のルポはオルガの言葉で結んでいる。

ウクライナ災害救援隊はアンタキヤなどの被災地での救助活動を終えると、再びウクライナに戻った。ロシア軍の激しい銃弾の音が聞こえる中、倒壊した住居などで下敷きとなった国民を救う仕事が待っている。戦争がいつまで続くのか、救援隊の誰も知らない。


編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2023年2月27日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。