金融庁が施策に掲げる資産形成は、老後生活資金の長期的な形成を主眼としたもので、豊かな老後生活のための消費を目的にした計画的な積立である。消費は夢の実現である。夢は簡単には実現しないから、夢であるわけで、また、夢は温めているうちに膨らんでいくから、夢であるわけで、それなら、資産形成を工夫して、資産と夢が並行して大きくなっていく過程を楽しむこともできるわけだ。
しかし、現実には、資産形成においては、夢ではなくて、老後生活の不安が語られている。かつて、夢をばらまくことで消費を刺激し、経済成長を実現してきたことに対比して、現在、不安をばらまくことで資産形成を刺激しようとし、結果的に消費を抑制させて、経済を低迷させていることは、極めて憂慮すべき事態である。
金融庁の施策の目的は、預貯金や保険に滞留する巨額な国民貯蓄を、投資信託等を経由して資本市場に誘導することで、市場規律による産業界の構造改革を促し、成長戦略の実現に寄与することにある。加えて、市場活性化により、形成資産の価格が上昇して、消費が誘発される資産効果も狙っていることは間違いない。
そもそも、貯蓄滞留の背景には、老後生活の不安がある。金融庁は、本当は、不安を打ち消すような明るい夢を語るべきなのである。政府は、社会保障改革の必要性を強調するなかで、意図せずして、不安をばらまいる。社会保障改革は必要だが、それは、老後生活の最低保障を放棄することではなくて、逆に、その保障を確実なものにするために必要な改革として、わかりやすく国民に説明されなければならない。
今の政府のやり方では、老後生活の最低保障を大幅に切り下げないかぎり財政が破綻するとしか聞こえないようになっていて、政府の意図は違うにしても、事実として、不安のばらまきになっていることは否めない。さすがに、金融庁は、不安のばらまきには加担していないが、老後生活資金形成の重要性を強調することは、結果的に、公的年金の補完の必要性をいうのと同じことである。
不安に対して賢く防衛することは、節約するだけのことではなく、節約した余剰を預金しておくことでもなく、それを未来の夢に投資することではないか。これが金融庁のいう貯蓄から資産形成へということの真の意味だと思われる。
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森本 紀行
HCアセットマネジメント株式会社 代表取締役社長
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