昨今、日本のスタートアップ界隈が盛り上がっています。スタートアップ情報プラットフォーム「INITIAL」によると、2022年には国内資金調達額が8774億円と過去最高を更新。政府も「スタートアップ育成5か年計画」を発表してその流れを後押ししています。
しかしながら、米国や中国、イスラエルなど先行する他国にはまだ水をあけられているのが現状です。特に、起業家志望者が少ないことが大きな課題です。Global Entrepreneurship Monitorの調査では、起業を望ましいと考える人の割合が、中国で79%、米国で68%なのに対して、日本はわずか25%となっています。
鍵を握るのは教育です。起業家人材を増やすためには、できる限り早い段階で起業という選択肢に触れること、そしてリスクを負った挑戦を許容できるマインドセットを醸成することが不可欠です。
最近、全国各地で大学生向けの起業家教育や大学内の「起業部」設立が進んでいますが、大学生でも既に遅いとでもいうかの如く、各自治体で先進的な起業家教育施策が打ち立てられています。
例えば、全国でも特にスタートアップ支援に力を入れている浜松市では、「次世代理数系人材事業」と銘打って高校生を対象に数学コンテストを行い、トップレベルの理数系人材に対してスタートアップという選択肢をアピールしました。次世代の産業を牽引する、将来のCEO、CTO人材の創出が狙いです。
2023年度の予算には高校生や大学生が参加するコミュニティ「はままつスタートアップクラブ」の設立が計上され、スタートアップ経営者によるノウハウ提供や起業支援プログラムの実施が決まっています。名古屋市でも小中学生向けの起業家育成事業が用意されており、こうした動きが各地で広がりを見せていることは日本のスタートアップ業界の活性化に資するに違いありません。
また、学生へのアプローチだけでなく、教員の意識改革も求められます。以前筆者が訪問したイスラエルの教育大学では、教員を目指す学生に対し、社会課題を見つけて解決に挑戦させるラーニングメソッドを課していました。
最大の目的は「失敗の経験を積ませること」です。失敗経験のある教師が失敗に寛容な教育を行い、それがリスクテイキングできる国民性の形成に寄与しています。イスラエルは、人口比で見たベンチャーキャピタル投資額が世界一位であり、時価総額10億ドル以上の未上場企業を指す「ユニコーン企業」の数は日本の三倍以上に達します。
デジタル化とグローバル化が加速する中で、未来が読めない時代が続いています。未来が読めないならば、読めないなりに仮説を立てて挑戦し、自ら未来を切り拓くしかありません。リスクを負って社会課題解決に挑戦するスタートアップは、まさにその精神の体現者です。
米国やフランスでは、今や新規雇用の半数をスタートアップが生み出しており、その恩恵は広く国民に広がっていきます。そしてその効果は、東京に比べて仕事の選択肢が少ない地方ほど、より大きく表れるでしょう。世界に冠たるシリコンバレーも、当初は優秀な人材が東海岸へ流出するのを防ごうと、地場産業を築き上げようとしたことが繁栄の発端でした。
出口の見えない「失われたXX年」を脱するために、経済界だけでなく、教育や行政、そして社会全体も巻き込んで、挑戦者たちを応援し、その背中を押せる国を一丸となって作り上げていくべきではないでしょうか。
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伊崎 大義(いざき たいぎ)
松下政経塾第42期生。福岡県北九州市出身。大阪大学を卒業後、関西電力、オトバンクを経て入塾。地方における多様なイノベーションこそが国家繁栄の鍵であると考え、起業や産学官連携をテーマに研修に取り組む。