4月の統一地方選挙を前に、地方議会議員のなり手不足が指摘されている。そのため、昨年12月28日付の「地方制度調査会答申」は女性や若者など幅広い人材の確保を促した。
しかし、女性が立候補するうえでの障壁の一つが議会や選挙におけるハラスメントやいじめ、暴力である(たとえば、令和3年3月内閣府男女共同参画局委託事業「女性の政治参画への障壁等に関する調査研究報告書」参照)。答申はその防止のために「第三者による相談窓口の設置」を提案した。
議会内ハラスメント等は、実は日本の地方議会に限らず、世界中の議会、それも国会で横行している。こうした問題は、ジェンダー平等への取り組みが遅れる発展途上国の出来事だと考えられがちだが、欧米先進国の議会においても深刻な問題なのである。
2016年に列国議会同盟(IPU)が39カ国(地域の内訳は、アフリカ18、欧州15、アジア・太平洋地域10、アメリカ大陸8、アラブ諸国4)の18歳から80歳までの女性国会議員55人に実施した聞き取り調査によると、81.8%が言葉による暴力を受けたことがあり、うち65.5%は性差別的な発言を繰り返されていた。平手打ち、押し倒す、棒で突く・叩くなど身体的暴力を被った者は25.5%、性暴力もしくはセクハラが21.8%で、そのうちの7.3%が性的関係を迫られていた(Inter-Parliamentary Union, 2016)。
IPUは、2018年にも欧州45カ国の女性国会議員81人(18〜80歳)に同じ内容の聞き取り調査を実施し、7ポイント低かったセクハラ以外は同じような結果を得ている。すなわち、82.5%が言葉による暴力を受け、うち46.9%は殺人やレイプの脅し、身体的暴力24.7%、セクハラ14.8%であった(Inter-Parliamentary Union, 2018)。
2021年のオーストラリア連邦議会の調査では、女性議員の63 %がセクハラを受けた経験があったが、オーストラリア女性のセクハラ被害の平均は39%なので、議会内セクハラの発生頻度は著しく高い(Australian Human Rights Commission, 2021)。
いずれにしても、ショッキングな現状である。しかし、各国議会も手をこまねいていたわけではなく、徐々に防止のための対策を導入し始めている。
その嚆矢は、2015年に議員行動規範を定めたカナダ庶民院(下院)だ。その後、アメリカ連邦議会、フランス元老院(上院)、ドイツ連邦議会、スイス連邦議会、イギリス議会、ニュージーランド議会、韓国国会が続いた(Inter-Parliamentary Union, 2019)。
下表に議会(国政)におけるハラスメント等防止対策の代表例を一覧にしてみた。カナダが対策によって網羅される対象者を議員のみに限っているのに対し、他は議員から議員スタッフ、職員、関連サービス従業員まで当該議会に関係する全員、さらにイギリスでは来訪者も含めている。
対策は、大きく規範や内規(規程)等の規律によって当該行為を取り締まる「規律」型(カナダ、フランス元老院、イギリス)と被害者救済などもっぱら支援サービスを特化した「支援」型(フランス国民議会、オーストラリア)に分類できる。
さて、こうした対策に果たして効果はあるのだろうか。イギリスの苦情/不服申立て事業では、2018年7月から2019年6月までの申立て件数は285件であったが、2019年7月から2020年6月が293件、2020年7月から6月までは388件と発足以来増加傾向にある。これは、発生件数が増えたからではなく、被害者が泣き寝入りせず、堂々と訴え出るようになったためである(POLITICO, October 22, 2021)。
防止対策は、加害者を取締り、被害者を法や医療・福祉サービスによって支援するだけでなく、その対策自体がアナウンスメント効果を持ち、ハラスメント等の抑止と予防に役立つのである。申立てや相談件数が増えれば、泣き寝入りをする被害者は減少し、やがてハラスメントや暴力、イジメは直ちに告発されるという共通認識が浸透する。日本でも、地方議会だけでなく国会においても実効性のある対策の導入が急がれる。