健康の三原則

明治の知の巨人・安岡正篤先生は御著書『運命を創る』の中で、「何か人知れず良心が満足するようなことを、大なり小なりやると、常に喜神を含むことができます」、と述べておられます。此の喜神の「神」とは「精神の神、つまり心の最も奥深い部分を指す言葉」で、先生は次のようにも言われています――人間は如何なる境地にあっても、心の奥底に喜びの心を持たなければならぬ。これを展開しますと、感謝、或は報恩という気持ちになるのでありましょう。心に喜神を含むと、余裕が生まれ、発想が明るくなります。また、学ぶ姿勢ができます。

安岡先生は、人生を健康に生きて行く上で大事な三つのことに、「心中常に喜神を含むこと」「心中絶えず感謝の念を含むこと」「常に陰徳を志すこと」、を説かれているのです。しかし例えば、「いつも感謝していることで健康になるのか?」とか、「この三つは本当に全て健康に結び付いているの?」とかと、思われる人が沢山いるのではないでしょうか。私見を申し上げれば此の「健康の三原則」皆夫々は、ストレスを溜めぬようすることと関わっているのだと思います。

第一に「心中常に喜神を含む」。ある面で喜びまで含まずとも「天は常に味方してくれるんだ」といった一つの安心感を持っていれば、余りくよくよせず齷齪(あくせく)せずにゆったりと居られるのではないでしょうか。人間にとって暗いというのは良くありません。時に生きるのもしんどくなってくると思います。常に明るい心、喜神を持たなければなりません。

第二に「心中絶えず感謝の念を含む」。「ありがとう」というのは「有り難い」ということです。私達の日常は、正に有り難いことが幾つも目の前で起こっています。それに対する感謝の念が「ありがとう」なのです。「実に有り難う」「本当に御苦労様」等々と常々感謝の念に溢れる人は、敵も然程つくることなく摩擦や争いの類も減ぜられることでしょう。

第三に「常に陰徳を志す」。「俺は世の為人の為に、之だけのことをしたんだ!」と言って回るのではなく、誰見ざる聞かざるの中で世に良いと思う事柄に対し一生懸命に取り組むのです。それにより「常に喜神を含むことができます」。陰徳を積み重ねている人は、「あの人よく頑張ってやるねぇ」と評価されることはあっても貶(けな)されることは少ないでしょう。

以上より健康の秘訣とは先ず、出来るだけストレスが溜まらぬよう生活をし絶えず前向きであることです。人間、幸福であるか否かは極めて主体的なものです。幸福を感ずるため何が必要かといった時、その一つが喜神を含むということです。そしてまた喜怒哀楽を直情的に出すよりも、詰まらぬことで腹を立てたりしないというふうに、我が道を淡々と行くようなスタイルの人が結局健康を保てるのでしょう。私なども時々ぎゃあぎゃあ言っていますが(笑)、余りにうるさく言い立てていたら長生き出来ないのではないかと思います。


編集部より:この記事は、「北尾吉孝日記」2023年3月3日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方はこちらをご覧ください。