鈴木宗男氏との対話

RapidEye/iStock

ロシア・ウクライナ戦争について、ロシア通の政治家として著名な鈴木宗男氏は、ご自身のブログで積極的な発言をしています。あるメディア記事では、「政界きっての親露派として知られ、ウクライナ侵略開始後も一貫してロシア擁護とも受け取れる発言を繰り返してきた鈴木宗男氏」と書かれていました。私は鈴木氏に特定のレッテルを貼るつもりはありません。

ただし、彼のロシアやウクライナに対する日本外交への提言には賛成できません。なぜ私が鈴木氏を批判するのか。それは彼が国家戦略における優先順位を見誤っているからです。

現在、日本は急激に台頭する現状打破国である中国の脅威に直面しています。残念ながら、バランス・オブ・パワーは中国有利、日本不利に傾いており、我が国の自助努力では中国を封じ込めることができません。したがって、日本は賢明な同盟戦略を構築して、実践しなければなりません。日米同盟が我々にとって死活的に重要である根本理由がここにあるのです。鈴木宗男氏の日本外交の処方箋には、この点が決定的に欠けています。

鈴木宗男氏は、日本外交の針路をご自身のブログで以下のように述べています。

そもそも論として日本の国益の観点からして、ロシアとウクライナどちらが大事だろうか。北方領土問題があり、漁業交渉があり、肥料の原料、何よりも日本の一番のウィークポイントであるエネルギーの安定供給に、ロシアは日本にとって死活的に大事な国ではないか。この視点から考えてもロシアを批判、非難して何か得ることがあるだろうか。ロシアに対し、法の支配、民主主義を踏みにじると西側は言うが、民主主義、法の支配を言うのなら「約束は守る」が民主主義の大前提である。ミンスクⅠ・Ⅱを守らず、ブタペスト覚書の再協議を言い核を戻せと言わんばかりの話をしたのはゼレンスキーではないのか。約束を履行しない国のリーダーが正しいというのはいかがなものだろうか。感情論や情緒的にウクライナ問題を考えてはならない。

岸田総理がウクライナに行くと必ず資金援助の要請があることは目に見えている。自前で戦えないのに強気な発言をするゼレンスキーは常軌を逸している。行かない方が賢明である。岸田総理は13日、日米首脳会談をする。その際、バイデン米国大統領にG7の議長国として「ここは停戦だ」と強く言うべきである。岸田総理が停戦への道筋をつける決意で臨んでいただきたい。

こうした発言に対して、私は以下のように批判しました。

日本の国益にロシアが大きく関わることには同意します。同時に、日本は米国との同盟に死活的な安全保障を委ねている以上、最優先にすることは、日米関係にヒビを入れないことです。優先順位は、米国>ロシアです。この基本的前提が、日本政府の対ウクライナ支援の程度を定めて、対ロシア政策を制約します。外交の微妙な舵取りが必要です。

残念ながら、鈴木氏は私の意見に同意してくれませんでした。彼からは以下の返答がありました。

野口和彦さん、日米同盟は当然ですが、隣国であるロシア、中国、韓国、北朝鮮も地政学的に見て重要です。

政治の仕事は、我々が想像する以上の激務です。お忙しい中、私のコメントにご自身の見解を述べてくれた鈴木氏に感謝いたします。

言論の自由は、自由民主主義の根幹であり、鈴木氏の発言する権利は守られなければなりません。同時に、健全な政策論争は国家戦略の策定に必須です。私は、鈴木氏が日本外交の根本にある日米同盟の重要性とロシアとの関係に明確な優先順位をつけておらず、むしろ等価であるかのように位置づけていることから、彼の政策提言には賛成できないことを明言する次第です。