ChatGPTでコオロギを分析してみた

3月4日の拙稿「コオロギ食ビジネスはすでに詰んでいる」が、掲載2日目で24時間と週間アクセスランキングの両方で1位に至るという大反響を呼び、有り体に言って筆者自身が驚いている。

コオロギ食ビジネスはすでに詰んでいる
2023年2月、「Pasco」ブランドで有名な製パン会社・敷島製パンと、徳島県小松島市内の県立小松島西高校・食物科が、一部ネット界隈で炎上騒動となった。 これらの共通点が、出した食品にパウダー状に粉砕した食用コオロギを配合していたこと...

素直に嬉しいのだが、元々ゲームやWeb配信機材の紹介記事をメインに寄稿していた(前に出した記事2つはほとんど読まれなかった・・・)ので、若干複雑な気持ちではあった。

そこで今回は、私個人の好きな技術の話と、結果が出たコオロギの話を組み合わせてみたい、という願望に行き着いた。

最近アゴラを含めて話題になり、コオロギと組み合わせられるものは何かと考えて思い当たったのが、ChatGPTだった。

Galeanu Mihai/iStock

ChatGPTをどう使うか

ChatGPTとは、サンフランシスコの人工知能研究所OpenAIが、コンピューターが人間の使う自然言語を学習するプログラム「言語モデル」の1つとして開発したシリーズ「GPT3-5」を基にリリースした、チャットボット(自動応答システム)というWebアプリケーションを指す。

GPT-3.5が多数の文書から言葉や表現のパターンを学習したことで、新しい文章を生成したり、問われた質問に回答したりすることが可能となっており、コンピューターと人間が自然に会話しているかのように利用できるのだ。

IT業界では実践的な利用法が次々と考えられているホットな話題であり、コオロギをテーマにすればChatGPTについて理解するのに有効なのではないか、と思い立った。

質問したいと思ったのが、先日の記事で具体的数字が挙げられず推測の範疇を出なかった、「タンパク質変換効率の優等生であるブロイラーと比較して、単位面積あたりの収容密度といった生産効率面で優位性を確保できるとは考えにくい」という箇所である。

これにChatGPTを使えばより深い知見が得られるのではないかと考え、実際に質問してみたが・・・

最初は「コオロギがより効率的」という回答だったが、記事に書いた「ケージ毎の過密飼育に制限がある」点について突っ込むと、あっさりと回答をブロイラー寄りに翻した。

仮にこれを繰り返した場合、コオロギ→ブロイラーと回答を二転三転させ、深い分析には使えないのでは? という懸念がさっそく生まれた。

さらに念のため、似た内容でニュアンスを少し変えた質問をしてみたところ・・・

「正確な推論にはより詳細な情報が必要」と、全く違う答えが返ってきた。

どうやらこのChatGPT、回答を生成・創作することはできても一貫性のある思考には至らないらしい。

池田信夫氏がかねてより述べていた、機械学習という分野が「人工知能」になれる日は来ない、という言説の一端を垣間見た。

そこで最終的な結論は人の手で考え、ChatGPTはその材料を得る手段としようと割り切り、使い方を私なりに考えてみた。

    • 可能な限り条件を限定し、「閉じた質問(ほんの数語で返答ができる)」に近い質問をする
    • 定量的な比較を要求する、またはその材料を要求する
    • 回答に客観的な出典があるかを確認する(※あまり知られていないが、回答された情報に出典がある場合は訊けば教えてくれる)

以上のポイントを設定し、再度ChatGPTを用いたコオロギの分析に踏み切った

実際に分析してみた

最終的に、

  • 比較対象:「ヨーロッパイエコオロギ」と「ブロイラー」の2種類
  • 得たい回答:「それぞれ1㎡あたり、タンパク質を何kg得られるか」

と、前節からさらに具体化した。

これらを導くためにChatGPTから得る材料として、

  1. 養殖場における1㎡ごとの成体収容重量
  2. 可食部のタンパク質含有率
    • 前項で生きた状態での収容重量を求めるため、乾燥加工していない生体から求める。
  3. 孵化から製品への加工までのサイクル比率

の3つを質問することにした。

なおヨーロッパイエコオロギ(以降、コオロギと表記)に関しては日本での歴史が浅かったのか、英語で質問しなければ出典を備えた詳細データが得られなかった旨を記載しておく(筆者の英語が拙い点については、大目に見てもらいたい)。

養殖場における1㎡ごとの成体収容重量

上記の回答から、

  • コオロギ:2.8kg
    • 昆虫は雌雄でサイズに大きな差があるため、そちらも考慮した平均値を推定させた。
  • ブロイラー:30kg

と設定した。

可食部のタンパク質含有率

上記の回答から、

  • コオロギ:20〜22%→中央の21%
    • 可食部はパウダーに加工することを踏まえ全部位→100%
  • ブロイラー:生肉にすると仮定し20〜25%→中央の22.5%
    • 可食部は骨と内臓を除いた66〜75%→中央の70.5%

と設定した。

孵化から製品への加工までのサイクル比率

上記の回答から、コオロギ、ブロイラーとも6〜8週間→ベンチマークとしては両者同じと分かったので、比較材料としては無視することにした。

ChatGPTから計算

以上を踏まえ、最終的にそれぞれから1㎡あたり得られるタンパク質を計算する。

  • コオロギ:2.8kg×1×0.21=0.588kg
  • ブロイラー:30kg×0.705×0.225=4.75875kg

私の使い方に間違いがなければ、コオロギから得られるタンパク質はブロイラーの約8分の1に過ぎないということが、ChatGPTを使って分かった。

コオロギがブロイラーを押し除けてタンパク質危機対策の候補となるというコンセプトを叶えるのであれば、生産数を今の10〜15倍超にはできなければ厳しいのではないか。

本記事が日本で進められるコオロギ食ビジネスに対する正確な理解、そしてChatGPTの実践的利用に役立つことになれば幸いである。

せっかくなので・・・

前回の記事についてChatGPTに評価してもらった。

どこか釈然としなかった。