米2月人員削減予定数、前年比5倍増ー米新規失業保険申請件数も増加

米2月ADP全国雇用者数は前月比24.2万人増と、市場予想の20.0万人増を上回りました。前月の11.9万人増(10.6万人増から上方修正)を超え、2021年2月以降の増加トレンドを保ちました。パウエルFRB議長が3月7日の議会証言で、ターミナル・レートが従来想定していた水準を上回り、利上げペースを再加速する可能性ありと発言したように、引き続き労働市場のひっ迫を示唆する内容でした。

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チャート:米2月ADP全国雇用者数、25カ月連続で増加


(作成:My Big Apple NY)

以下、米2月チャレンジャー人員削減予定数と米1月求人件数などをおさらいしていきます。

▽米2月チャレンジャー人員削減予定数は前年比5倍増、2月としては2009年以来の高水準

米2月チャレンジャー人員削減予定数は前年同月比で約5倍増の7万7,770人だった。10ヵ月連続の増加となる。前月比では1月の2020年9月以来の10万人乗せだったことから24.5%減となり、5カ月ぶりにマイナスとなった。とはいえ、2月としてはリーマン・ショックが直撃してまもない2009年以来で最多を記録した。

チャート:米2月人員削減予定数は2020年9月以来の高水準、2月としては2009年以来の高水準


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チャート:過去4年間と比較すると、2019年の76,835人を小幅に上回る水準


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年初来での人員削減予定数は18万713人と、前年同期比で5倍増となった。

チャレンジャー・グレイ・アンド・クリスマス社のアンドリュー・チャレンジャー・シニア・バイス・プレジデントは、結果を受け「明らかに企業はFedによる利上げを意識し、多くは数カ月先の軽減隊を見込みコストを削減に踏み切っており、人員削減は典型的なコスト削減の手段だ」との見解を寄せた。特にコスト削減に努める業種は「テクノロジー、小売、金融」で、消費動向が経済動向に反映されやすいためと説明。ただし、人員削減自体は「2013年1月にデータを公表して以来、30業種すべてで確認できたの初めて(注:フィンテックは2019年から業種として取り込む)」だという。

人員削減が多かったセクターのランキングは、単月で以下の通り。2月はパランティア・テクノロジーズのほかヤフーなどテクノロジーに加え、メデイアのニューズコープやNPR、コンサル大手マッキンゼーやKPMG、娯楽大手ディズニーなど、幅広い業種で人員削減計画が発表された。前月は1位がテクノロジー、2位が小売、3位が金融、4位がヘルスケア、5位がサービスだった。

1位 テクノロジー 2万1,387人、前年同月は115人
2位 ヘルスケア 9,749人、前年同月は3,785人
3位 メディア 8,984人、前年同月は200人
4位 金融 6,632人、前年同月は452人
5位 サービス 5,404人、前年同月は787人

年初来では、以下の通り。

1位 テクノロジー 6万3,216人、前年同月は187人
2位 小売 1万7,456人、前年同月は761人
3位 金融 1万7,235人、前年同月は1,148人
4位 ヘルスケア 1万6,482人、前年同月は8,928人
5位 サービス 9,901人、前年同月は2,573人

州別動向は年初来で以下の通りで1、3、4位は人口別でのトップ5に入る州が並んだ。1位のカリフォルニア州が突出して多いのはIT関連の人員削減が響いたとみられる。2位のワシントン州も、テクノロジー関連の人員削減で急速に増加したもようだ。今回、ミシガン州が4位から圏外へ落ちた代わりに、イリノイ州が5位へ浮上した。前月は1位がカリフォルニア、2位がワシントン、3位がニューヨーク、4位がミシガン、5位がテキサスだった。

1位 カリフォルニア州 6万4,310人 前年同期は4,558人
2位 ワシントン州 2万4,159人 前年同期は1,908人
3位 ニューヨーク州 1万9,439人 前年同期は3,541人
4位 テキサス州 1万3,190人 前年同期は690人
5位 イリノイ州 6,016人 前年同期は1,416人

リストラ実施の理由別ランキングは、年初来以下の通り。前月は1位が市場・経済動向、2位が理由不明、3位がコスト削減、4位が再編、5位がコスト削減だった。

1位 市場・経済動向 11万8,457人
2位 コスト削減 1万5,396人
3位 理由不明 1万1,686人
4位 赤字 9,800人
5位 閉鎖 9,140人

採用予定者数は1月に前年同月比86.6%減の2万8,830人となり、3カ月連続で減少した。前月比では12%減と、2カ月連続で減少した。

チャート:採用予定者数、過去4年間と比較しても低い


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年初来での採用予定者数は、前年同期比87%減の6万1,594人だった。水準自体は、2016年以来で最低となる。

セクター別では、単月で以下の通り。どちらかと言えば、労働集約型の産業が並んだ。前月は1位がテクノロジー、2位がエネルギー、3位が非営利団体、4位が建設、5位が食品だった。

1位 テクノロジー 8,410人
2位 自動車 5,174人
3位 金融 4,100人
4位 娯楽・観光 1,438人
5位 資本財 1,062人

▽米1月求人数は市場予想ほど減少せず、解雇者数は前月比16%増

米1月雇用動態調査(JOLTS)によると、求人数は1,082万人と前月の1,123万人(修正値)を3.6%下回った。3カ月ぶりに減少した。とはいえ、市場予想の1,050万人ほど減少せず。求人数は20ヵ月連続で失業者数を上回った。

チャート:求人数と失業者数の推移


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採用者数は前月比1.9%増の637万人で、増加に転じた。ただ求人数が高水準の割りに、採用者数の伸びは極めて限定的だ。

チャート:求人数に対し、採用者数の伸びは伸び悩み


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離職者数は590万人と、前月の591万人(修正値)を0.1%下回り2カ月連続で減少した。定年や自己都合による自発的離職者が離職者数を押し下げており、前月比5.1%減の388万人と2021年5月以来の低水準だった。一方で、解雇者数は同16.3%増の172万人と2020年12月以来の水準へ膨らんだ。

チャート:離職者数は小幅減も、解雇者数が大幅増加


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求人数が減少しつつ失業者も減少した結果、求人数は失業者の1.90倍と前月の1.96倍(修正値)から低下したとはいえ高水準を保った。

チャート:22年9月FOMCでパウエルFRB議長が「労働市場を見る上で良い手段」と発言した求人数は失業者数の1.92倍に小幅低下


(作成:My Big Apple NY)

▽米新規失業保険申請件数、22年12月以来の20万人乗せ

3月4日週までの米新規失業保険申請件数は21.1万件と、市場予想の19.5万件を上回った。前週の19.0万件も超え、以来の水準へ増加。2022年12月以来の高水準となる。ただし、2019年平均の21.8万件以下の水準も保った。

2月25日週までの継続受給者数は171.8万人と、前週の164.9万人(修正値)を上回った。新規失業申請件数と同じく、22年12月以来の高水準となる。

チャート:米新規失業保険申請件数は2022年12月以来の低水準、継続受給者数は170万人超え


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――米2月ADP全国雇用者数は引き続き堅調ながら、米1月チャレンジャー人員削減予定数、並びに米1月雇用動態調査のうち解雇者数、そして米新規失業保険申請件数と、労働市場の減速を示唆する数字が届きました。とはいえ、米2月雇用統計の市場予想は20万人増で、1月の51.7万人増から既に鈍化が予想されており、想定の範囲内であれば3月21~22日開催のFOMCで0.5%利上げに踏み切る見通しです。ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)紙のFed番記者、ニック・ティミラオス氏もエコノミストのコメントを通じ「0.5%利上げを変更するのは、驚くほど弱い米経済指標のみ」と報道していたものです。

米チャレンジャー人員削減予定数と米雇用統計・NFPの乖離が気になりますが、前者は季節調整前の数字でないことが一因と考えられます。ADP全国雇用者数とNFPの乖離でいえば、過去1年間にわたりADPの数字は1カ月を除きNFP以下が続いており、その差は平均10万人。仮にこれを単純に当てはめるならば、米2月雇用統計・NFPは34万人増が見込まれる半面、1月以降、人員削減の裾野がテクノロジーから金融、娯楽、コンサル大手、資本財などに広がっていることも事実です。米労働市場が遂に減速へ向かう可能性も否定できません。


編集部より:この記事は安田佐和子氏のブログ「MY BIG APPLE – NEW YORK –」2023年3月9日の記事より転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はMY BIG APPLE – NEW YORK –をご覧ください。