独「エホバの証人」施設で銃撃事件:元信者による犯行

ドイツ北部ハンブルク市で9日夜(現地時間)、宗教団体「エホバの証人」の施設で礼拝が開かれていた時、銃撃事件が発生し、銃撃犯人を含み8人が死亡したほか、8人が負傷し、そのうち4人は重傷を負った。銃殺された1人の女性は妊婦で、胎児は7カ月目だった。ハンブルク警察関係者によると、犯人は35歳のドイツ人で1年半前に「エホバの証人」から脱会した元信者という。

宗教施設周辺を警備する治安部隊(2023年3月10日、独日刊紙「ハンブルガ―・モルゲンポスト」電子版から)

犯行は9日夜、グロースボルステル地区で起きた。犯行は当初、複数説が流れ、銃撃した犯人は逃走中といわれたが、銃撃犯は単独で、犯行直後、建物の中で自殺して見つかった。警察当局は銃撃犯の犯行動機などを捜査中という。警察の捜査員は10日午前、犯人の住居を捜査、スマートフォンや弾薬などを押収したという。ただ、犯人とテロ組織とのつながりなどは現時点では見つかっていないという。

警察のスポークスマンによると、9日午後9時頃、「エホバの証人」の宗教施設の3階建ての建物の中で礼拝が行われていた。集会には約50人が参加していたという。最初の発砲は9日午後9時頃と見られ、警察官が近くにいたので、数分後に犯罪現場に到着し、建物内で数人の死傷者を発見した。その直後、建物の最上部から銃声がし、銃撃の犯人と思われる死体が発見されたという。治安部隊は1発も発砲しなかった。そして10日早朝、爆発専門隊を含む治安部隊は宗教施設の建物周辺の全ての措置を解除した。

ハンブルク市のマイヤー警察長官は10日、記者会見で、「今年1月、匿名の電話が警察にあった。今回の銃殺犯人が不法な銃を保有していること、精神的に不安定な人間だ、という情報だった。警察側はその情報に基づいて調べたが、犯人は銃(スポーツシューター)を合法的に保有していることが分かったので、捜査はその段階で終わった」という。また、犯人が「エホバの証人」から脱会する際、教団側との激しいやり取りがあったという情報が流れている。

ハンブルク市長を務めたことがあるドイツのショルツ首相は、「ハンブルクからの恐ろしいニュースに非常に驚いている。私の思いは犠牲者とその家族と共にある」と述べている。

なお、ドイツの「エホバの証人」は声明文を発表し、「警察、救急車関係者の迅速な救援活動に感謝する。私たちは警察当局の捜査に協力していきたい。現在は、亡くなった信者とその家族に対して深い哀悼の意を表明する」と述べている。

「エホバの証人」は、19世紀に米国でチャールズ・テイズ・ラッセルらを中心に発足したキリスト教系新宗教グループ。世界本部はニューヨーク州ウォーウィックに置き、全世界で「ものみの塔」聖書冊子協会などの法人名で活動している。信者数は世界で約850万人と推定されている。ドイツでは約17万5000人の信者がいる。

教義は聖書を経典とし、創造主・神をエホバ(ヤハウェ)と呼ぶ。キリストは神の子であって神ではなく、天使長ミカエルと同一と受け取っている。人類の始祖、アダムとイブが神の戒めを破り、サタンのもとに走った結果、世界と人類はサタンの支配下にあると考える。神は終りの日に世界を救うためにキリスト率いる神の軍団を降臨させ、大戦争(ハルマゲドン)の末、地上に神の国を再建する。神の教えに従う人間のみが、救われ、復活し、永遠の命を得るという。その教えは聖書の聖句をその文字通り解釈して、実践する。神の名「エホバ」と「神の王国」がその教えの中核だ。「エホバ」と「神の王国」について語るゆえに、「エホバの証人」と呼ばれる(日本「エホバの証人」公式サイトから)

「エホバの証人」は教義に基づき、輸血を拒否し、兵役を拒否している。そのため欧米社会ではたびたび物議を醸したことがある。また、終りの日(終末)を聖書に基づいて予言してきたが、その予言が外れ、多くの信者たちが教会から脱会するということが過去、起きている。政治に対しては中立を保っている。


編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2023年3月11日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。