ガーシー議員の除名はいかがなものか? --- 田中 奏歌

ガーシー議員
NHKより

ガーシー議員が結局、陳謝に応じなかった。次の段階は除名だそうである。

エラー|NHK NEWS WEB

私は、今回のガーシー議員の行動を認めているわけではない。こと彼に限っていえば、ああいう方を国会議員にすることには賛成しないし、彼に投票した人の見識を疑うので、正直言えば国会議員なんかやめさせろ、さっさと逮捕してしまえ、と思う・・・が、私は除名はいかがなものかと思う。今回この人物を除名することで、将来、思想信条の自由が脅かされることの「前例になりうる」ということを懸念している。

多くの人はあんな人が国会議員なんて、と思っているのだろうが、そういう考え方に流されて安易に国会議員の地位をはく奪することの前に、国会には対策としてやるべきことがあると考える。

憲法58条によれば除名処分は、「院内の秩序をみだした議員」に対して可能である。参議院規則245条によれば「議院を騒がし又は議院の体面を汚し、その情状が特に重い者に対しては」とある。

国会に出席しないことが除名理由になると明示されているわけではない。ならば、ガーシー議員のやっていることは、参議院規則に合致するものであろうか。

ガーシー議員は、前回選挙で28万8千票もの得票を得て当選している。(実際には得票の多寡には関係ないが)除名という行為は、そういう国会議員の地位を奪うことになる。

彼には元々ほとんどたいした公約はなかったようで、国民がどういうつもりで投票したのかはわからないが、ひょっとしたら、「ガーシー議員ならこの腐った国会をグチャグチャにしてくれる」「グチャグチャにしろ」と思って投票したのかもしれない。もしそうであるならば、今の彼の行動はまさしくその目的にあっている(だから何だ、ということはここでは述べない、国会に出ないことで国民の負託にこたえているかもしれない、ということである)。

こういう意見の人の投票で彼が当選しているなら、彼に投票した人にとっては「その情状が特に重い者」っていったい誰が?ということであろう。

ガーシー議員が、「自分を失職させるのは投票した人のみ」というのも、(本音は別としても)彼に投票した人の負託を大事にする、という意思を明確にしたものであろう。

また、憲法50条には「議員は、法律の定める場合を除いては、国会の会期中逮捕されず」とあり、国会議員の不逮捕特権をうたっている。これは、思想信条により、不利益を被らないように保障されているわけで、ガーシー議員の思想信条がどんなにひどくても、それを理由に逮捕により国会議員の身分をはく奪すべきではないということである。

ガーシー議員は(多分やらないだろうが)ひょっとしたらあるタイミングで重要な一票を投じるかもしれない、ひょっとしたらそのために今は国外で潜伏して時期を待っているのかもしれない。国会での投票行為で国民の意見を反映させるチャンスがある限りは、(絶対に違うと思うけど)その可能性があることを認めざるを得ないのである。

今回はガーシー議員程度の話だから国民の多くの賛同を得られるだろうが、これが国論の一大事、であればどうであろうか、戦前の大政翼賛会をイメージするといいだろう。国民の多くが賛成することに竿さす意見の持ち主を抹殺しようとしても抹殺させない、と言うのがこの憲法条文の意味である。

ここで言いたいのは、政敵となる議員や少数派を、多数派が排除したり弾圧できる可能性を増やすことにつながる前例を作るべきではない、ということで、今回ガーシー議員にこれ(除名)を認めることは、その前例を作ることになるのである。安易な方向に流れた実績を作ることで、悪意のある権力者やマスコミが国民を扇動し、「前例があるから・・・」と異なる意見を持つ国会議員の地位をはく奪する可能性がゼロではない、そんなことはない、とは誰も言い切れないはずである。

民意というものは非常にうつろいやすいものである。あれだけの高支持率を誇った菅前総理が終盤どんな支持率になったか、またあれだけ低支持率になった同じ前総理がその後どう再評価されているか、をみれば、その場の民意でものごとを動かすのは危険であることがよくわかるだろう。

国会議員の地位は安易に左右するべきではなく、可能な限り投票という正式な国民の判断にまかせるべきである。

彼が不逮捕特権を利用するために国会議員になったのはけしからん、と言う人がいるが、残念ながら、不逮捕特権とはそういうものであり、えん罪が起こりうることを考えれば、殺人など、明確な重大犯罪であることが明白でない限りは簡単に除名するものではないと考える。(あれくらいの罪状なら、彼の議員の任期が切れるまで待っても大事にはならないだろう、それより除名が前例となるほうがよほど国益に反する。)

国会や自治体の議会において、しばしば現行犯でも有罪確定でもない議員の不祥事に対する辞職勧告がおこなわれている。自治体ならいいというわけではないが特に国会では、憲法50条にある法律の定め(国会法33条)にあるとおり、逮捕するためには院の許諾が必要で、それだけ重いものである。院の許諾ではなく、多数意見で辞職勧告し、その結果辞職すると、国会議員の身分がなくなって逮捕されやすくなる。軽々に辞職勧告するのは国会議員の身分を軽んじ弾圧につながることになる、ということも再度認識すべきである。

(余談になるが、「戦争しないと北方領土は帰ってこない」と言った議員は、戦争をしようと言ったわけではないが辞職勧告決議案が出されたと記憶している。この議員の本当の思想は不明だが選挙民の負託を受けた当該議員の思想信条を吐露したものだとしたら、非難はされても身分は完全に保障されるべきである。)

では、ガーシー議員に対し国会はどうすべきであろうか。

国会が優先すべき仕事は、こういう人物が国会議員であったときに、その国会議員の権利を保障しつつ、国民の被害を小さくすることである。

私は、今回のケースでは、ガーシー議員が国民に与えている被害は、多くの方が指摘するように「国会において国会議員としての仕事をしない人に対して、多額の国民の税金が使われていること」だと考える。もちろん、議員のあり方など、物議をかもすことで多方面に迷惑はかかっているのだが、ポイントを絞れば税金の無駄遣いということに絞れるだろう。

毎月の歳費とボーナスで、年間2千万円強、調査研究広報滞在費で年間1千2百万円、公設秘書がいればその費用も支払われるし、所属する会派に支払われる立法事務費が年間8百万円ほどになるらしい。これが6年間である。そのうえ、得票数に応じて支払われるNHK党の政党交付金は、今年度2億4千万円であるらしいが、ガーシー議員の得票がなければ、NHK党は政党要件すら満たせなかった可能性もあるのだ。

これらのお金は、支出総額は変わらなくとも、ほかの政党の人が当選していたりそれだけの得票をNHK党が得ていなければ、もっと別に使えたかもしれない。少なくともガーシー議員が国会議員であることによってこれだけの国民の税金が彼とNHK党に配分されているのである。

まともに活動していれば、国民の納得も行くだろうが、そうではあるまい。

国会での活動のみが議員活動ではないと思うものの、通常の政治活動とは区別して、国会議員としての活動もきちんとやってもらわなければ困る。彼が最低でも国会での投票など、国会における国会議員の仕事をしていないことは明白であり、そういう議員に我々国民の税金が、多く使われていることが最大の国益の損壊なのである。

しかも、ガーシー議員が、もし前述のように投票者の負託にこたえているのであれば、仮に今回除名しても次の選挙に出れば当選する可能性は大きい。その時はもはや除名などできず(国会法123条は民意を重視している)、税金の無駄遣いが続くことになり、国益の棄損がより増えるだけである。

もちろん、ガーシー議員の当選が国民の選択なら、税金を無駄に使うことも国民の選択だという理屈もなりたつが、国会議員としての権利は保障しつつ、国民の税金の無駄遣いを防ぐためには、これを無駄遣いと認定するあたりが、ぎりぎりの線ではないだろうか。

今、早急にやるべきは、国会議員の身分はく奪のような将来に禍根を残すことではなく、こういう税金の無駄遣いを許さない仕組みづくりであり、それをやるのが立法機関である国会のやるべきことであろう。

オンライン出席を認めず、国会への出席を前提とするなら、改めて「出席とは議場への出席である」ことを明記し、疾病などやむを得ない事情によるものではない場合は出席の割合に応じて歳費などを減額する(ゼロはまずいだろうが、かなり絞ってもいいだろう)などの立法を早急にすべきであり、それをやらずして除名云々というのは、国会議員の怠慢であろう。

会派の責任を問うなら政党交付金も減らすこともあろうが、これはそう簡単ではないかもしれない。

(オンラインによる国会出席の可否については、いろんな意見があるため、これとは改めて別に考えるべきである。現時点ではそうなっていないわけで、彼はそれを承知で国会議員に立候補したわけで、事前に宣言していたとしても国会でそれを主張しないで実行するのは、無理筋である。)

国会は、ガーシー議員の除名という将来にわたる国益の棄損に舵を切るより、議員の地位を保護しつつ国費の支出を抑えもっと損害を少なくする法律を至急作るべきである。ガーシー議員以外にも国会出席の少ない議員がいるらしいが、後ろめたいことがなければ、国会は早急に対策してほしいものだ。

田中 奏歌
某企業にて、数年間の海外駐在や医薬関係業界団体副事務局長としての出向を含め、経理・総務関係を中心に勤務。出身企業退職後は関係会社のガバナンスアドバイザーを経て現在は隠居生活。