クレディ・スイスの問題:リーマンショック級の問題になる可能性も

あまり金融の話題ばかり書きたいとは思わないのですが、次々と頭痛の種のような話が出てきており、モグラたたきの様相すら感じさせます。

クレディ・スイス、世界最大級の金融コングロマリット、本拠地はスイス、チューリッヒです。そのクレディ・スイスが一昨日のレポートで「過去の財務報告の内部報告に重大なる弱点があった」(日経)と発表しました。英語での表現は「managers had identified “material weaknesses” in the bank’s internal controls on financial reporting as of the end of last year」(CBC)です。このあいまいな表現で欧州金融業界は大混乱し、欧州金融株指標は20%下落、当のクレディスイス社の株価も一時30%下落するなどの大騒動となっています。

yuelan/iStock

同行はNY市場でも上場しており、NY時間の終値で14%安ですが、夜間トレードではプラス9%で推移しています。同行の株価が2㌦を切るのは95年まで遡れるデータでは見つけられません。世界最大級の金融コングロマリットの行方はどうなるのでしょうか?

そもそも同行はトラブルを多数抱えていました。例えばソフトバンクも影響を受けた英国グリーンシルキャピタルでの損失、アルケゴス問題では野村證券と共に多額の損失を計上しました。それ以外にも過去、トラブルは絶えません。さらには投資銀行部門の不振を含め、問題は多岐に渡っています。その中の一つで私が注目しているのは同行の不正預金問題であります。

スイスの銀行でイメージされる安全で政治的独立性があるという意味は裏返せばよくない筋のマネーもそこに集まる、とも言えます。スイスはEUに属していません。ユーロ圏のど真ん中にありながら独立独歩であります。それが美しく、素晴らしいと評価されたこともありますが、まるでケイマン島で税逃れをするのと同様にちょっと泥がついたマネーの資金洗浄をするにも都合がよかったわけです。

この不正預金問題の発端は1年前の2022年2月20日の報道に遡ります。世界48の報道機関が手掛けた共同調査で同行がタチの悪い資金を相当額預かっているとすっぱ抜いたもので「スイスシークレット」と称されています。その情報は内部告発によるものが多く、膨大な量の資料が集まったとされます。ただ、この報道内容はスイスの規制に引っかかるのであまり展開されず、日本でもほとんど報じられていません。

その分析の過程で同行は汚職に関連したマネー、犯罪マネー、人権侵害者のマネーといった泥だらけの預金を一時1000億㌦(13兆円)規模も預かっていたとされるもそれを減らし続けてきており、最近では同行には「そのようなマネーはない」と公表していました。

同行の株価を見ると2007年には70㌦を超えていたものが多少の上下はあるものの見事に15年間、下落し続けます。「スイスシークレット」発表時の昨年2月は8ドルを超えていたものの今日に至るまでほぼ直線的に株価下落して2ドルを切ってしまったのです。これが何を意味するか、といえば同行の体質が一向に改善しなかったということであります。

私が気になっているのは昨日の記者会見での「内部報告の重大なる弱点」であります。銀行経営幹部は裸の王様で実務筋は全ての事実を掌握するも開示してこなかった、つまり、アルケゴスのような問題が発生しやすい温床があり、不正マネーの件ももうないというのは疑惑でないか、という憶測は当然生まれます。

株価暴落の引き金は昨日、同行の筆頭株主であるサウジナショナルバンクがクレディ・スイスの増資要請に対して「絶対にない」と述べたことがきっかけです。筆頭株主が「絶対にない」といったその理由は制度上、法律上の問題を掲げています。それもあるかもしれませんが、莫大な損を被ったという怒りとこの経営陣は信用できないという侮蔑したものではないでしょうか?

さて、世界を駆け巡る金融業界への激震ですが、このクレディ・スイスの問題はアメリカで起きた一連の銀行倒産の話とは完全に一線を画します。つまり、そこを一緒くたにするのは筋違いです。アメリカの銀行問題が起きた先週末あたりから「第2、第3のSVB探し」があり、そこにクレディ・スイスの名前は確かにありました。が、それは不安要素がある銀行として別次元の意味合いでしたし、クレディ・スイスの経営問題はもう何年も取りざたされていたのです。

ところがアメリカで実際に複数行が破綻し、処理された中で悪者探しという点で「あれ、クレディがまだ残っているじゃないか」という雰囲気も確かにありました。そこで大西洋を渡って飛び火したというのが正しいかと思います。ただ、私には若干やらせ的な気がしないでもないのです。アメリカからすれば自分のところは目先の問題の蓋は閉めたのです。だけど、もう少し時間がかかるのでその間、アメリカの金融業界に目線が行くのをかわすために目がそちらに向くように仕向けたような気もします。

欧州ではECBの定例金融政策会合が本日3月16日に開催されます。当然、スイスなのでECBの範囲外です。ですが、欧州の金融機関に更に飛び火するのを防ぐ対策が当然議論されるはずです。既にEU側とスイス当局でやり取りが始まっています。欧州ではインフレ対策で遅ればせながら利上げを進めています。2月に2回連続の0.50%利上げを行い、3月も0.50%の利上げを見込んでいました。ではECBは今日、本当に0.50%利上げできるでしょうか?私は雲行きは怪しいという気がしています。当然、その判断は来週のアメリカのFRBの判断材料にもなります。現状、来週のFOMCでは利上げ幅は0.25%の可能性が8割、利上げなしが2割という見通しです。

クレディ・スイスにもしものことがあればそれは次元の違う大問題となります。リーマンショック級の問題になってもおかしくないでしょう。同じような話はかつてドイツ銀行でも囁かれました。同行の場合は天文学的なデリバティブの潜在的損失でした。が、その際私は潰れないと確信し、同行の株まで買ったのはデリバティブの報道が正確ではなかったからです。事実、その後、事態は時間をかけて収まりました。

では今回、スイス当局を含め、クレディを救済できるのでしょうか?できなくないでしょうが、容易くない気がします。スイス当局の体力がこの銀行を救えるほどあるのかわからないのです。とすればクレディの自助努力としてまずは投資銀行部門や傘下のファーストボストンの売却など相当具体的な再建プランの早期実行しかないと思います。時間がかかりますが、忍耐が必要な気がしています。さて、市場と当局と顧客と株主はそれだけ待てるのか、それがキーかもしれません。

では今日はこのぐらいで。


編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2023年3月16日の記事より転載させていただきました。