2027年に台湾有事は起きるのか、7つの仮説を検証する(藤谷 昌敏)

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政策提言委員・経済安全保障マネジメント支援機構上席研究員 藤谷 昌敏

3月8日、米国の情報コミュニティを統括する国家情報長官室(Director of National Intelligence、略称DNI)は、世界の脅威を分析した年次報告書を公表した。

報告書によると、「中国は、習近平指導部の3期目に入り、台湾に統一を迫るとともに、台湾への米国の影響力の弱体化を図っている。その上、2027年までに台湾有事の際の米国の介入を抑止するだけの軍の態勢を強化・整備するという目標を立てて、取り組みを進めている」と指摘している。

また、3月1日、「中華人民共和国予備役法」が改正・施行された。これには、「国が動員令を出し、国務院もしくは中央軍事委員会が法律に基づいて国防動員のための必要措置をとった後、部隊は上官の命令に従い、採用される予備役に対して速やかに採用通知を行う」、「予備役は召集通知を受けた後、要件に従い、指定された時刻に指定された場所に出頭しなければならない」などと戦時体制下の徴兵ともみられる規定が加えられた。

こうした中国の一連の動きだけで、一部のシンクタンクなどが主張する「2027年までに台湾有事がある」という見方を肯定できないが、日本の危機管理の観点から最悪の事態に備えて、あらゆる状況を常に考えておく必要がある。中でも台湾と日本との貿易が途絶してしまうことや、米中の経済制裁など様々なリスクに備えておくことは国家の危機管理として非常に重要だ。

ここで7つの仮説を立てて、台湾有事について検証する。

7つの仮説

① 中国はいつ台湾侵攻を実行するのか
② 大きな犠牲を払ってまで台湾を守るために米国は中国と戦争するのか
③ 米中の軍事衝突が起きた場合、どちらが勝者となるか
④ 台湾有事の前後において米中による経済制裁は起こり得るか
⑤ 米国の経済制裁を受けて中国は台湾侵攻を中止するか
⑥ 中国に依存している台湾経済はどうなるのか
⑦ 同様に中国に依存している米国経済はどうなるのか

①では、中国の台湾侵攻の時期については、習近平氏の年齢を考えれば、69歳と既に高齢で、2027年には4期目に入り74歳となる。経済面では、不動産不況や少子高齢化などによる経済悪化が予想され、国民の不満を外に向けさせる必要がある。軍事面では、現在の空母「遼寧」、「山東」、「福建」に加え、原子力空母の噂がある空母が建造されており、2027年までに米国海軍に対抗できる4つの空母打撃群が誕生する可能性がある。こうしたことを考えると、2027年に台湾有事が起こるという数字には一定の説得力がある。

②では、台湾付近における空母打撃群や対艦ミサイルの大量設置など軍事的に優位に立つ中国海軍に対し、米国海軍の大きな損失が予想される。米軍が台湾を守るために中国軍と戦うかどうかは、その時の米国の政治情勢や国際情勢などに大きく左右されるが、同盟国に対する盟主としての米国の自負心と世界の半導体の66%を生産する台湾の半導体ファウンドリーTSMCを守る必要性を考えれば、米国は中国と戦う道を選ぶ可能性が高い。

③では、米国のシンクタンクCSISが1月9日、中国軍が2026年に台湾へ上陸作戦を実行すると想定し、独自に実施した机上演習の結果を公表したものが参考になる。CSISの分析では大半のシナリオで中国は台湾制圧に失敗したが、米軍や自衛隊は多数の艦船や航空機を失うなど大きな損失を出す結果となった。CSISは「決定的な中国の敗北とは判断されないが中国に不利な膠着状態だ」と評価した。

④では、米国は、トランプ政権時代、中国通信機器大手のHuawei(ファーウェイ)の製品の米国政府機関での使用を禁止したのをはじめ、米国の「2020年ウイグル人権政策法」に基づく「重大な人権侵害」を犯したとして制裁を課している。米国は、台湾有事の可能性が高くなった場合、ためらうことなく対中経済制裁を課すだろう。当然、中国も対抗して米国や同盟国に対して経済制裁を行うに違いない。

⑤では、米国の経済制裁を受けても中国が台湾進攻を中止することはないと考える。習近平主席が異例の3期目を目指した時、3期目の意味は台湾統一のためだと側近らに明言しており、簡単に中止することはまずない。ただし、台湾への侵攻が行われるぎりぎりまで、米国との政治的な駆け引きを行う努力は継続していくだろう。

⑥では、台湾の貿易額について、2022年上半期の対外輸出額は2466億ドルであり、国別内訳では、中国が25%、香港が14%を占めている。輸入額は2190億ドルで、この内中国が20%で、米国は10%に過ぎない。輸入・輸出両面で台湾は中国に大きく依存しており、中国との関係が悪化すれば台湾経済は立ちいかなくなる。

⑦では、米国にとって中国は最大の貿易相手国であり、米国の貿易総額に占める中国の割合は年々高まる傾向にある。2017年には米国貿易全体の16.3%を中国が占めるに至っている。中国にとっても米国は最大の貿易相手国である。米中間の貿易は不均衡な関係にあり、米国の中国に対する貿易赤字は拡大を続けており、2017年には3,757億ドルに達した。これは、米国の貿易赤字全体の46.3%を占める額であり、中国との関係途絶は米国経済に大きな打撃を与えることになる。

それでは、まとめとして台湾有事による日本への影響はどのようなものになるのか考察してみたい。

台湾有事の日本に対する影響

日本の2020年における台湾からの輸入額は2兆9,000億円、台湾からの輸入額が日本の輸入額全体に占める割合は2019年の3.7%から4.2%へと拡大しており、今後もさらに拡大する見込みだ。

また、サプライチェーンの観点から見れば、2021年、日本が輸入した半導体の46.7%は台湾製であり、その中心は日本では製造ができないTSMC製の高性能のロジック半導体だ。

台湾からの半導体輸入がストップすると、自動車部品、ゲーム機などの玩具、パソコン、サーバー、携帯電話、家電、液晶パネル、医療用機器、ロボットなどの製造に大きな障害が出る。

2022年11月、米国務省は中国が台湾を封鎖した場合、推計2兆5,000億ドル(約356兆円)の経済損失が生じるとの調査結果をパートナー国や同盟国に伝えており、台湾有事により日本の経済に深刻な影響が出るのはもとより、全世界に大きな経済的打撃を与えることは間違いないだろう。

藤谷 昌敏
1954年、北海道生まれ。学習院大学法学部法学科、北陸先端科学技術大学院大学先端科学技術研究科修士課程修了。法務省公安調査庁入庁(北朝鮮、中国、ロシア、国際テロ部門歴任)。同庁金沢公安調査事務所長で退官。現在、JFSS政策提言委員、合同会社OFFICE TOYA代表、TOYA未来情報研究所代表、一般社団法人経済安全保障マネジメント支援機構上席研究員。


編集部より:この記事は一般社団法人 日本戦略研究フォーラム 2023年3月14日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方は 日本戦略研究フォーラム公式サイトをご覧ください。