1. 海外の金融資産・負債残高:日本
前回はG7各国の政府の金融資産・負債残高についてご紹介しました。
負債のうち債務証券(国債)が大半を占め、なおかつ増えているのは各国共通のようです。
一方で政府の持つ金融資産の規模は、各国で異なります。
日本は負債に対して金融資産が51%と、比較的多い国となります。
今回は海外の金融資産・負債残高について着目してみましょう。
各国から見た海外(外国)という見方になりますのでご注意ください。
図1が日本から見た海外の金融資産・負債残高のグラフです。
金融資産はプラス側、負債はマイナス側で表現しています。
金融資産も負債も増加傾向が続いていることがわかりますね。
負債側では債務証券、株式等のボリュームが大きく、さらに増加していることがわかります。
貸出も一定の規模があるようです。
資産側では、株式等、貸出、債務証券の増加が大きいですね。
海外との対外投資が双方向で活発化している様子がわかります。
債務証券の中には、社債などの事業債のほかにも他国政府の国債も含まれると思います。
残念ながらこの統計データでは、日本の誰が、海外の誰の資産を持っているのか、など詳細まではわかりません。
差し引きの純金融負債は緩やかに増加傾向が続いています。
近年では、日本の対外純金融資産は400兆円以上になります。
2021年の負債に対する金融資産の割合は67%程度です。
2. 海外の金融資産・負債残高:アメリカ
続いてアメリカのデータを眺めてみましょう。
図2はアメリカに対する海外の金融資産・負債残高のグラフです。
非常に特徴的な傾向が見て取れます。
まず、金融資産のうち株式等と債務証券のボリュームが大きいですね。
特に株式等は近年大きく増加しています。
海外の金融資産なので、海外からアメリカ企業に対する株式投資分となります。
債務証券は主に国債と思われますが、緩やかに増加し続けていますね。
一方、負債側の株式等も大きく増加しています。
アメリカから見た海外の負債なので、アメリカの主体(企業、家計、政府、金融機関)による海外企業への株式投資分となります。
金融資産側の株式等と負債側の株式等で多くは相殺されますが、やや金融資産側の方が多いようです。
つまり、株式投資だけを見ても海外からアメリカに対する投資の方が超過している状況と言えそうですね。
差し引きの純金融資産はプラスで、かつ大きく増大しています。
アメリカは対外債務の大きな国となります。
2021年の負債に対する金融資産の割合は158%程度です。
3. 海外の金融資産・負債残高:ドイツ
続いてドイツのデータです。
図3はドイツに対する海外の金融資産・負債残高のグラフです。
金融資産も負債も大きく増えている様子がよくわかりますね。
差し引きの純金融資産はマイナスで、負債の方が超過している状況です。
金融資産側では株式等、現金・預金、債務証券、貸出などのバランスが取れている印象です。
債務証券は近年横ばい傾向ですが、ドイツ政府の債務証券(国債)が停滞している事とも関係がありそうですね。
負債側では、株式等の存在感が大きいですが、現金・預金、債務証券、貸出もボリュームがあり、かつ増加しているようです。
2021年の負債に対する金融資産の割合は79%程度で、日本を上回ります。
4. 海外の金融資産・負債残高:イギリス
続いてイギリスのデータです。
図4がイギリスに対する海外の金融資産・負債残高のグラフです。
日本、ドイツやアメリカとは少し異なる傾向のようです。
まず2008年あたりから金融資産も負債も停滞気味ですね。
金融資産側を見ると、2008年を機に現金・預金が目減りして停滞しています。
株式等は増加傾向が続き、貸出、債務証券も一定ボリュームありますが停滞気味です。
負債側を見ると、やはり2008年を機に現金・預金や貸出、債務証券が停滞しています。
株式等は増加を続けています。
リーマンショックによる変化と見られますが、イギリスだけこのような顕著な変化があったのは非常に興味深いですね。
各国の自国通貨ベースで見ると他国との水準の違いが分かりにくいのですが、イギリスに対する海外の金融資産や負債は非常に大きな規模となります。
今後対GDP比や1人あたりのドル換算値でも比較してみますので、その際に明らかになると思います。
そして、イギリスの場合は、金融資産と負債がほぼ相殺し、純金融資産がややプラスで推移しているのも特徴的です。
2021年の負債に対する金融資産の割合は103%です。
5. 海外の金融資産・負債残高:フランス
続いてフランスのデータを見てみましょう。
図5がフランスに対する海外の金融資産・負債残高のグラフです。
イギリス以上に金融資産と負債が対称的に増えていて、差し引きの純金融資産はほぼゼロです。
金融資産側では現金・預金が一時目減りしますがその後増加しています。
株式等、債務証券は増加が続いていて、この3者のバランスはドイツに似ていますね。
ドイツは債務証券が近年減少傾向でしたが、フランスは増加を続けています。
負債側を見ると最も増えているのは株式等ですが、債務証券や現金・預金、貸出もボリュームがあり増加傾向です。
2021年の負債に対する金融資産の割合は101%で、ほぼ均衡しています。
6. 海外の金融資産・負債残高:カナダ
続いてカナダのデータです。
図6はカナダに対する海外の金融資産・負債残高のグラフです。
負債のうち株式等が圧倒的に存在感が大きいのはアメリカに似ていますね。
金融資産の中では株式等と債務証券が多いようです。
純金融資産は2012年まではプラスでしたが、その後マイナスになっています。
カナダは家計の株式投資も盛んな国のようですので、対外証券投資の中には家計による分も多く含まれているかもしれません。
2021年の負債に対する金融資産の割合は81%程度です。
7. 海外の金融資産・負債残高:イタリア
最後にイタリアのデータです。
図7がイタリアに対する海外の金融資産・負債残高のグラフです。
純金融資産がプラスで、近年目減りしている点がまず目につきますね。
金融資産側の債務証券が2000年代にはすでに高い水準に達していて、2009年から停滞しています。
政府の負債のうち債務証券(国債)は増えていますので、海外に代わり国内の金融機関が金融資産のうち債務証券を増やしている事と関係があるかもしれません。
現金・預金と株式等は増加傾向が続いています。
負債側でも株式等は増加が続いていますが、債務証券が停滞しています。
2021年の負債に対する金融資産の割合は100%です。
8. 海外の金融資産・負債残高の特徴
今回は、G7各国に対する海外の金融資産・負債残高をご紹介しました。
各国とも基本的には金融資産も負債も増え続けていて、対外的な金融取引が増大している様子を窺わせます。
イギリスはリーマンショックを機に停滞傾向だったり、アメリカは株式等の存在感が圧倒的に大きかったりと、各国で特徴があるようです。
日本は基本的に海外が純金融負債を増やす存在になりますが、負債と共に金融資産も増加しています。
負債の中で債務証券の占める割合が高いのも特徴的ですね。
図8は日本の経済主体別の金融資産のうち、対外直接投資と対外証券投資です。
大きいのは金融機関と政府による対外証券投資(赤、緑)と、企業による対外直接投資(青)です。
2019年の段階で、金融機関による対外証券投資が350兆円、政府によるものが220兆円、企業による対外直接投資が140兆円ほどです。
その他はそれほど多くありませんが、金融機関による対外直接投資が40兆円、家計による対外証券投資、企業による対外証券投資がそれぞれ20兆円程度です。
日本の企業は国内への事業投資を減らしていますが、対外直接投資を大きく増やしている事が確認できます。
皆さんはどのように考えますか?
編集部より:この記事は株式会社小川製作所 小川製作所ブログ 2023年3月17日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方は「小川製作所ブログ:日本の経済統計と転換点」をご覧ください。