イタリアで極右首相が誕生した理由を日本人は何も知らない

日本ではあまり報道されませんでしたが、欧州ではイタリアで若い女性首相が誕生したことが大変な話題となりました。イタリアでは2022年9月に上下両院の総選挙が行われ、極右政党「イタリアの同胞(Fratelli d’Italia 略称FDI)」を率いる45歳で高卒、シングルマザー家庭出身の労働者階級のジョルジャ・メローニ党首がイタリア初の女性首相に就任しました。

2024年1月10日、イタリアを訪問した岸田首相とイタリア共和国のジョルジャ・メローニ首相
首相官邸HPより

私の最新書籍である「世界のニュースを日本人は何も知らない4 – 前代未聞の事態に揺らぐ価値観」 でも紹介しましたが、メロー二氏の当選は単なるポピュリズムとはいえず、現在のイタリアだけではなく欧州の世相を反映しています。

FDIはメロー二氏が10年前に立ち上げたばかりの新しい政党で、2008年の国政選挙では4.5%の得票だったのが、今回は25%でイタリア最大の政党になりました。

メロー二氏の主張の概要は以下の通りです。

  • 自然な家族に賛成
  • LGBTロビーに反対
  • 同性愛カップルが子供を持つこと
  • 性的アイデンティティーに賛成
  • ジェンダー思想に反対
  • イスラム主義暴力に反対
  • 強固な国境に賛成
  • 大量移民に反対
  • 大きい国際金融機関に反対
  • 人々に仕事を作ることに賛成
  • ブリュッセルの官僚支配に反対
  • NATOを支持

なぜ美しく若い女性政治家がこのような イタリアのイメージとかけ離れた主張をするのかということを疑問に思う方が多いかもしれません。

しかし彼女の2019年の演説の一節「私はジョルジャ、私は女、私は母親、私はイタリア人、私はキリスト教徒。あなた達はこれは奪えない!”I’m Giorgia, I’m a woman, I’m a mother, I’m Italian, I’m Christian! You won’t take that away from me!”」を知るとなんとなくイタリア人が求めることがわかります。

これはネット上でのミーム(流行の動画やコラージュやキャラ)となり、イタリアで大人気となりました。

彼らは自分達のアイデンティティーを失い、国際資本に飲み込まれていくことを恐れているのです。

メロー二氏は「伝統的な家族の価値観」を大事にするべきだという主張ですが、日本の皆さんのイメージと違い、近年のイタリアでは崩壊している家族が少なくありません。

もちろん欧州の北部に比べるとまだまだ伝統的な家族感が強い国で、 家族の結びつきは大変強固です。 ところが最近は都市部では核家族化が進んでいて、 経済的にも非常に厳しい状況で仕事を探すのが難しいところですから、 夫婦共働きが当たり前で、 長時間働く人も少なくありません。

私は国連専門機関の職員としてローマに4年間住んでいたのですが、 20年以上前からイタリアは大卒の高学歴の人でもコネがなければ正社員のポストを探すのは非常に大変でした。

イタリアの不況とコロナ禍で悪化しています。

イタリアは欧州の北部と異なり第1次産業や2次産業の割合が高く、 知識産業の発展があまり進んでいませんので、 ドイツのように工業が強いわけでもなく、 イギリスや北欧諸国のようにITや金融が強いわけでもありません。

仕事しても報酬は非常に低く、 40代でも月収が15万円などという人も少なくありません。 低学歴の人ではなく超一流大学を出た大卒の人です。

給料があまりにも安く仕事もないため結婚しない人や独身の人だらけです。

このような状況は日本に似ている部分があります。

元々家族の結びつきが強い土地ですから、 本来なら共働きなんかしないで、 奥さんは家にいて週末は家族で集まってのんびりと食事をしたいと望む人が多いのです。 ところが今の経済状況ではそれは無理だという家は少なくありません。

また海外に出稼ぎに行っている人も少なくないのです。

お金や仕事のことで揉めて離婚する夫婦も少なくありません。実はイタリアに住んでいる私の友人何名かも離婚しています。その理由はやはりお金と仕事が原因です。

そのような状況のイタリア人に「 伝統的な家族の価値観を取り戻しましょう」「家族みんなで安心して働ける社会にしましょう」 と言われたら投票しない人はいないでしょう。

シングルマザー家庭出身で、親の不仲に悩み、非正規の仕事を転々としてきた高卒のメロー二氏はまさに当事者ですから、主張には大変な説得力があるのです。