イスラエル、ウクライナへ武器支援:中国のロシア支援も焦点に

2011年3月に始まったシリア内戦では、アサド大統領を支援するロシアのプーチン大統領はロシア軍が保有する通常兵器だけではなく、新たに開発した武器の効果を確認するためにシリア内戦に投入したことはよく知られている。シリアはロシア軍の「武器の実験所」と呼ばれていたから、国際刑事裁判所(オランダ・ハーグ=ICC)がシリア内戦時のロシア軍の戦争犯罪を調査すれば、その段階でプーチン氏に逮捕状が出ただろう。ただ、世界の政情はロシアにとって有利だった。ウクライナ戦争とは違い、どの国もロシア軍の戦争犯罪をICCに提訴しなかっただけだ。

SIPRI報告書「欧州向けの武器輸出が急増し、世界の武器貿易における米国の優位性高まる」(SIPRI公式サイトから)

どのような武器も実際戦場で使用されるまではその能力を評価できない、という点では正しい。ロシア軍が開発したミサイルをシリアの反体制派勢力の領地に打ち込まなければ分からない。表現が良くないかもしれないが、新規開発の兵器には戦争が必要となるわけだ。

最近の例を挙げてみる。イスラエル政府が対ドローン電子システムのウクライナへの納入を承認したというニュースが入ってきた。イスラエルはウクライナ戦争勃発後、モスクワとキーウの間の等距離外交を実施してきた。イスラエル空軍がロシア軍が管理するシリア空域でシリアで空爆できた背景には、プーチン大統領の暗黙の了承があったからだ。だから、イスラエルはロシアを挑発したくはなかったのだ。

しかし、状況は変わった。ネタニヤフ首相は、「イスラエルはロシアとの決別を求めていない。わが国が提供する対ドローン電子システムはあくまでもウクライナへの防衛支援だ。もう一つは、ロシアがウクライナで使用しているイラン製無人偵察機に対して、イスラエルの防衛システムがどのような効果をもたらすかを知る上でも絶好の機会となる」とウクライナへの武器支援が自国の利益にも合致していると強調している。

もう少し戦略的みれば、ウクライナ戦争で消耗してきたロシア軍はシリアへの軍事的関与を減らさざるを得ないだろう。独代表紙「フランクフルト・アルゲマイネ・ツァイトゥング」(FAZ)は3月18日付で、「ウクライナ戦争がロシアに負わせている多くの代償の1つは、中東でのロシアの地位の弱体化であり、それはロシアがこれまで努力して築き上げてきたものだ」と指摘している。

スウェ―デンのストックホルム国際平和研究所(SIPRI)は13日、最新の「国際武器移転に関する報告書」を公表したが、ロシアのウクライナ侵攻以来、欧州諸国の武器輸入が急増していることが明らかになった。

報告書によると、2018年から2022年の期間、世界レベルでは前年同期比(2013年から2017年)で5.1%減少したが、地域別を見ると、欧州では武器の輸入は、47%増加し、欧州の北大西洋条約機構(NATO)加盟国ではさらに65%増加した。

欧州の武器輸入急増の最大の受益国は米国だ。世界の武器移転に関する新しいデータによると、世界の武器輸出に占める米国の割合は33%から40%に増加した。米国は、日本(米国の武器輸出全体の8.6%)、オーストラリア(8.4%)、韓国(6.5%)に最も多くの武器を供給した。中国共産党政権の台湾進攻を防止する狙いがある。一方、2018年から22年の間に米国の武器輸出の合計23%が欧州諸国に向けられた。それ以前の4年間は11%だったから、欧州向けの武器輸出が急増している。その背景には、ウクライナ戦争の影響があることは明らかだ。

一方、世界第2番目の武器輸出国ロシアは前年同期比で世界全体の輸出の22%から16%に減少した。その理由について、報告書は、①ロシアが自国の軍隊の供給を優先していること、②ウクライナ戦争でロシアに対する風当たりが強く、ロシアに対する制裁と、米国とその同盟国からの圧力などから、ロシア製兵器の需要が低調となったと分析している。

なお、中国の習近平国家主席が20日からロシアを公式訪問する。プーチン大統領との間ではウクライナ戦争問題が議題となるだろうが、その中にはロシアへの武器支援が出てくるだろう。欧米企業との取引が断絶したロシアにとって半導体などの先端機材が必要だ。中国製の無人機も必要だ。通常の兵器用の弾薬も乏しくなっている。問題は、習近平主席が米国の警告を無視してロシアへの武器支援に踏み切るかどうかが大きな焦点だ。

戦争には武器が必要だ。武器は戦争を通じてその性能を確認する必要がある。両者は共存関係だ。うまくいけば、「シリア戦で効果があった」「ウクライナ戦で実証された」という宣伝文句を掲げて、国際武器商人が世界の紛争地を駆け巡るわけだ。


編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2023年3月20日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。