クレジットカードを使わなくなる日:売り手をバカにしたビジネスモデル

私どもで経営するマリーナ事業は特殊な業態です。停泊の契約は4月1日を年の初めとする年契約が主体でその賃料は1年分前払いが原則です。月払いなど分割にすると高い金利が付されます。支払い形態だけ見ると似ているのが保険業界で保険料は一括前払いですね。

Alexandr Lysyuk

この4月からの係留契約は全部完了しているのですが、支払いは今までは9割がクレジットカードによるものでした。カナダではクレジットカード会社に対してそのカード費用に関する集団訴訟があり、昨年結審したことを受け、カナダ税務当局が新たなルールを設定し、マーチャント(商品やサービスを売る側)は顧客に一定ルールのもと、クレジットカード使用料を付加してよいことになったのです。その為、私も係留料の支払いに際してクレジットカードで払う場合、サーチャージを付加すると発表しました。その結果、今までとは真逆で9割の人がクレジットカード以外で支払うことになったのです。

例年、この時期になると私はカード会社に対して短期間に多額の決済があるという事前通告をしています。カード会社からすれば私どもに一時的にせよ大きな金額の与信となるのでそれを担保するため、質権設定された預金を積まされているのです。その金額は800万円です。馬鹿々々しい話です。私は怒っているんです。カード会社はマーチャントをバカにしているし、儲けをマーチャントから吸い上げ、リスクヘッジまでしているのです。

クレジットカードのメリットは誰にあるか、と言えばマーチャントよりも消費者にはるかに高い便益があります。なぜならローン機能、特にリボルビングローンで限度額内で常に残高を抱えることができるからです。そういう方は高いカードローン金利を払っていますが、本来であれば30-50日程度の通常決済でもローンなのにそれに対して金利などの費用を払うことはありません。それよりむしろ、ポイントはつくし、カードの種類によっては様々なメリットや付加価値が加わります。

クレジットカードがないと確かに不便です。オンラインショッピングができないからです。クレジットカード会社はそれに対応するようなカードも発行しています。学生など信用力がない人はこのデビットクレジットカードと称するカードを持つことでオンラインショッピングができるようになっています。

クレジットカードビジネスは与信ビジネスであり、第三者がその人の信用力を推しはかる上で最もわかりやすいものであり、アメリカらしい発想です。またカード払いが普及したことで北米では小切手決済が急減しています。最近では銀行口座の種類によっては小切手入金取り扱い料を取られます。

では消費者はなぜ、デビットカードではなく、クレカを使うかと言えば発行会社が提供するポイントに拠ることが大きいでしょう。ですが、もし、この先、マーチャントがクレカ使用料を取りますよ、と言われたらどうしますか?ポイント付加は概ね使用額の1%です。それに対してクレカ使用料は1.5-2.4%です。私は個人的にもクレカ使用料がかかる支払い先はデビットカードなど他の支払い手段を使っています。

私が見るにクレジットカードビジネスの本質が揺らぐ可能性が出てきたように見えるのです。

日経ビジネスにVISAのアルフレッド ケリー会長のインタビュー記事が出ており、強気一辺倒の内容でした。その中で日本では現金決済がまだ多く、成長の可能性はあるとしながらもなぜそうなのか、わからないとコメントしています。私が考える理由は2つです。1つは安売りと価格競争でマーチャントの利益率は薄利そのものなのです。更に3.5-5.0%もかかるクレカ費用は払えないのです。もう1つは課税を逃れる現金ビジネスが未だに横行しているからでしょう。日本企業で黒字で法人税を払っているのは3割しかないという馬鹿な話はそもそもがおかしいのです。お金がザルのように抜けているということです。

私はデジタル通貨が出来た時点でクレジットカードは付帯的な意味合いしかなくなるとみています。それはカード会社もフィービジネスですが、中央銀行が発行するデジタル通貨にはフィーがないはずですのでコストがかかるクレカやQR決済では太刀打ちできなくなる、のです。

世の中のデファクトスタンダードはある日突然崩れます。何十年、盤石のビジネスをしていても崩壊することは今後、様々なシーンで起きると考えています。カードビジネスもその時代の変化にどう対応できるのか、興味深いところではあります。

では今日はこのぐらいで。


編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2023年4月4日の記事より転載させていただきました。