ロシア反体制派活動家の「妻」の声:刑務所に収容されているナワリヌイ氏

ノルウェーのノーベル賞委員会は昨年10月7日、2022年のノーベル平和賞をベラルーシの人権活動家アレス・ビアリアツキ氏、ロシアの人権団体「メモリアル」、ウクライナの人権団体「市民自由センター」に授与したが、その後ロシアとベラルーシでの反体制派活動家たちはどのような状況下に置かれているだろうか。

ナワリヌイ氏とユリア夫人 2014年12月19日 ナワリヌイ氏公式サイトから

ロシア第2の都市サンクトペテルブルクで2日、市内のカフェが爆破され、ロシア軍のウクライナ戦争を支持する軍事ブロガーが死亡した。モスクワからの外電によると、犯行は反プーチン政権派の組織「国民共和軍」の仕業で、爆発物を軍事ブロガーに渡した容疑者ダリヤ・トレポワ容疑者が逮捕された。ロシア治安当局は「ウクライナ情報機関が計画した上で反体制派活動家アレクセイ・ナワリヌイ氏率いる反汚職基金の協力者と共に実行した」と主張した。ウクライナ政府高官とナワリヌイ氏の側近は関与を否定している。

ベラルーシの活動家ヴィタリー・シショフ氏は2021年8月3日、亡命先のキーウで首をつった状態で死亡しているのを発見された。警察当局は当時、自殺を偽装した殺人と受け取っていた。同氏はキエフで設立した団体「ウクライナにおけるベラルーシの家」の代表で、2020年8月のベラルーシ大統領選をめぐる抗議デモに参加し、ベラルーシからの出国者の支援や、ルカシェンコ政権打倒のために活動していた。

シショフ氏と同様、ベラルーシの反体制派活動家マリア・コレスニコワさんは懲役11年の刑を受けて刑務所に服役中だが、最近手術を受けた後に集中治療室(ICU)に入っていると報じられたが、その後の情報が絶えている。ルカシェンコ大統領に反対する女性活動家の1人だ。

ところで、ロシアの著名な反体制派活動家、アレクセイ・ナワリヌイ氏(46)は大丈夫だろうか。ナワリヌイ氏は2020年8月、シベリア西部のトムスクを訪問し、そこで支持者たちにモスクワの政情や地方選挙の戦い方などについて会談。そして同月20日、モスクワに帰る途上、機内で突然気分が悪化し意識不明となった。飛行機がオムスクに緊急着陸後、同氏は地元の病院に運ばれた。症状からは毒を盛られた疑いがあったが、病院では代謝障害と診断。ナワリヌイ氏の家族がドイツで治療を受けさせたいと要求したが、「患者は運送できる状態ではない」と拒否された。最終的には昨年8月22日、ベルリンのシャリティ大学病院に運ばれ、そこで治療を受けた。ベルリンのシャリティ病院はナワリヌイ氏の体内から旧ソ連の軍用神経剤「ノビチョク」を検出し、何者かが同氏を毒殺しようとしていたことを裏付けた。

一方、ロシア側は旧ソ連軍用の神経剤が検出されたにもかかわらず、毒殺未遂事件への関与を否定してきた。ナワリヌイ氏らの努力によってロシア連邦保安庁(FSB)工作員が犯行に関与していた事実を掴んだ。ナワリヌイ氏が2021年1月17日、健康を回復してモスクワに帰国すると、ロシア当局は同氏を即逮捕し、今日まで刑務所に収容している。

ちなみに、ナワリヌイ氏を描いた長編ドキュメンタリー映画がアカデミー賞を受賞したが、その授賞式に招待されたユリア夫人(46)に独週刊誌シュピーゲル(2023年3月18日号)はインタビューしている。

ユリア夫人は、「アレクセイはプーチン(大統領)個人の命令で刑務所に拘束され続けている」と断言する。夫人は、「アレクセイと知り合って結婚した年、プーチンは権力に就いた。翌年娘が誕生した。彼女は既に22歳になろうとしているが、プーチン下のロシアの民主主義、人権、言論の自由などは年々悪化している」と主張した。アレクセイについては、「彼は2011年に最初に逮捕され、2週間刑務所に送られた。2013年に再び逮捕され、5年の有罪判決を受けたが、彼を支持する国民の声もあって釈放された。現在は独房生活だ。9年の有罪判決を受け、間もなく35年の刑を受けるはずだ。プーチンが権力にいる限り、アレクセイは刑務所から釈放されることはないだろう」という。

アレクセイの健康状況につては、「彼は今年1月、風邪かコロナに感染して体調を崩したが、薬も治療も受けることができなかった。ある日、独房に感染症の病人の囚人が送られてきた。ロシア治安関係者がよくやるやり方だ。アレクセイの健康を更に悪化させるためだ。彼は弁護士にしか会えない。私がアレクセイと最後に会ったのは13カ月前だ。ロシアの法では囚人の家族は6カ月に1度は刑務所を訪問できることになっているが、実際はそうではない」と説明した。

シュピーゲル記者はユリア夫人に、「ベラルーシのチハノフカヤ女史のように刑務所にいる主人に代わって政治活動をする考えはないのか」と質問すると、ユリア夫人は、「彼女には敬意を表するが、私はアンチ腐敗基金の世話や家族のケアがある」と述べるだけに留めた。

ベラルーシやロシアの反体制派活動家は本人だけではなく、その家族も厳しい生活環境下にある。欧米社会は反体制派活動家たちに可能な限りの支援を行い、連帯を表明して、勇気づけるべきだ。


編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2023年4月6日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。