インドの時代は本当に来るのか?:人口はついに中国を抜き去ったが

人口だけを見るとついにインドが中国を抜き去りました。中国は人口減少のサイクルに突入し、22年末で14億1175万人、それに対してインドの23年1月時点の人口が14億2203万人でいよいよこの時が来たのか、という感じがします。人口世界一のインドは今後、国家が分断しない限り、抜かれることはないのかもしれません。

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そんなインドに世界は熱い視線を送り、様々な国が様々な形でアプローチする一方、なかなか難しい国でもあります。日本はクワッドを通してインドと共に民主主義の絆を守ろうとしています。ロシアとは悪い関係ではなく、今でも原油を大量に買い付けています。その一方で中国とは厳しい関係です。歴史的には友好な関係でしたが戦後悪化、特に中国とインドの間にあった緩衝地帯チベットを中国が取り込んだため、中国とインドが隣り合わせになったことで国境問題が起こっています。この小競り合いは今でも続いています。

更にパキスタンとは歴史的に微妙な間柄ですしし、もう一つの隣国、バングラディッシュともわだかまりがあります。中国がバングラディッシュに介入しているのでインドから見れば「敵の味方は敵」的な状態にあります。スリランカとインドは全く厳しい関係です。

つまり、インドは国土の周りを敵対ないし、非友好的な相手、あるいは難しい相手と接しているともいえる地政学的な不安定感は見て取れます。むしろ、隣接していないアメリカや日本の方がやり取りしやすいのかもしれません。ここバンクーバーにはインド系の住民は非常に多く、私のクライアントや仕事上のやり取り相手にもインド系カナダ人はかなりいます。正直、やりやすいかと言えば非常によくしゃべる人種でビジネスは面倒くさいという印象です。なので意識的に広い心を持たないと厳しいというのが実情です。

さて、インドの時代は本当に来るのか、と考えたのは経済成長という枠組みにおいて絵に描いたような途上国から新興国、そして先進国入りというシナリオはもうないのではないかと思うからです。

日本が先進国入りしたのは何故でしょうか?安物、壊れやすいもの、劣悪品と言われながらも繊維からスタートした輸出攻勢では改良を重ね、相手国の商品より品質的に優れてきたことで経済的利益を得ました。そもそも戦前、日本はアジアで唯一、欧米と肩を並べ、国際連盟では常任理事国を務めるなど、リーダーシップのポテンシャルはあったものの戦争で破壊的出直しとなり、再度、軌道に乗せることができた、というのが私の概括です。

経済成長は日本だけが享受したわけではなく、世界の様々な国が時間差こそあれど、それを追いかけます。メキシコ、ブラジル、韓国などが猛烈な勢いで追撃しました。しかし、中南米組はハイパーインフレに苦しみ、韓国は屈辱の97年IMF支援があったものの韓国だけは数字的には先進国に達しました。しかし、その競争は熾烈であり、中進国の上位まで成長するもそこを抜けられない国がずらりと並ぶのです。そして中国もそのジレンマにあると言えます。

なぜ、中進国からの脱却が出来ないのでしょうか?いろいろ理由はあると思いますが、私なりに俯瞰すると世界の生産水準と能力、品質が戦後80年弱で大きく伸びたことで競争が激しくなり、勝ち抜き競争で足の引っ張り合いになっているのが理由ではないかとみています。

ここで「ルイスの転換点」を考えてみます。これはノーベル賞を受賞したアーサー ルイス氏の概念で農業人口が工業化により工業人口に吸収され、農業人口の余剰がなくなった時点でルイスの転換点とされます。日本は1960年代に達成したとされます。ポイントはここにあるのですが、日本ではその後、第二次ベビーブームで人口はさらに増え続けたことで工業化を推し進めることが出来たのです。

ところが例えば中国を見るとルイスの転換点がいつ起きたか学者によってかなり意見が相違し、2010年頃に起きたとする研究者もいればまだだと主張する人もいます。問題は仮に中国が現在、ルイスの転換点の頃合いにあったとしても一人っ子政策が強烈に効き、既に人口が減少している点です。これが中進国の罠から抜け出せない理由の一つではないか、とみています。

ではインド。人口予想は2050年頃がピークです。インドが中進国から先進国に至るには中進国の罠に引っかからないよう、ざっくり2030年代半ばまでにルイスの転換点に到達しておく必要があります。が、現状、インドのGDPは中国の1/6しかないのです。また、インドの経済成長率は22年10-12月期で年換算4.4%しかないのです。中国より低いのです。今後インドの奇跡でも起きない限り、インドが世界経済をリードするというシナリオは描けないというのが私の見方です。

これはあくまでも世界経済の基盤の変化、需要と供給、ルイスの転換点、人口問題というごく一面でしか捉えていません。が、一国が圧倒的経済力を持つ、ひいてはそれを梃に世界を牛耳るという社会は20世紀のモデルであって21世紀には通じないのではないか、というのが私の一つの帰着点であります。

では今日はこのぐらいで。


編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2023年4月6日の記事より転載させていただきました。