金融資産・負債比較 企業編

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1. 企業の金融資産・負債残高

前回はG7各国の家計について、金融資産・負債残高の比較をしてみました。

日本の家計は1997年の段階では、アメリカに次いで金融資産、純金融資産が多く、特に現金・預金は突出していたようです。

その後停滞が続くことで相対的な水準は低下していますが、それでも過去に蓄積した金融資産の割合が多く、G7の中でも3番目の水準を維持しています。

今回は、企業の金融資産・負債残高の比較をしてみましょう。

まずは1人あたりの2021年のグラフからです。

図1 金融資産・負債残高 1人あたり 企業 2021年
OECD統計データ より

図1が2021年の企業の金融資産・負債残高の1人あたりドル換算値のグラフです。

企業は主に純金融負債を増やし、経済全体のお金を増やす役割でもありますね。

やはり圧倒的なのはアメリカです。

アメリカは負債のうち株式等の割合が大きい国です。純金融負債は1人あたり24万ドルにも達しています。

日本は純金融負債では、アメリカ、カナダ、イギリスに次いで4番目の水準です。

負債のうち貸出(借入金)が4万ドル程度、株式等が8万ドル弱で、純金融負債は5万ドル程度です。

金融資産はアメリカやカナダと同程度で比較的多いのも特徴的ですね。

ひときわ目立つのがフランスです。

負債も多いですが、それ以上の金融資産の水準は目を見張るものがありますね。特に株式等は圧倒的です。

国内企業同士の株式の持ち合いが極めて多い事を窺わせます。

自国通貨ベースでの推移では目立ちませんでしたが、このように基準をそろえて比較すると特徴がより可視化されて興味深いですね。

日本と同じ工業国のドイツの負債が少ないのも印象的です。貸出、株式等両方とも日本よりも少ないですね。

2. 1997年の比較

日本の経済がピークだった1997年の状況も比較してみましょう。

図2 金融資産・負債残高 1人あたり 企業 1997年
OECD統計データ より

図2が1997年の企業の金融資産・負債残高のグラフです。

日本は最も規模が大きく、特に負債ではアメリカを凌いでいます。

中身を見ると、貸出(借入金)が圧倒的に多く、アメリカの4倍近く、他国の2~3倍の水準に達していたようです。

フランスはこの頃から負債のわりに金融資産を多く保有していたようですね。フランスの企業運営の特徴が見えて興味深いです。

当時の日本企業は、負債を多く抱えている分、固定資産の水準も高かったようです。

バブル期に過剰な負債と設備を抱え、先行して給与水準や生産性が高まった反面、その後の長い停滞に繋がった大きな要因にもなったのではないでしょうか。(参考記事: 企業の「固定資産」と経済成長

企業 純金融負債 1人あたり
1997年→2021年
51,002 → 50,929 日本
59,597 → 238,409 アメリカ
15,822 → 31,679 ドイツ
43,721 → 76,709 イギリス
18,259 → 48,085 フランス
33,075 → 103,613 カナダ
16,633 → 42,722 イタリア

3. 対GDP比での比較

続いて、対GDP比でも比較してみましょう。

経済水準が各国で違いますので、1人あたりの数値ともやや傾向が異なるかもしれません。

図3-1 金融資産・負債残高 対GDP比 企業 2021年
OECD統計データ より

図3-2 金融資産・負債残高 対GDP比 企業 1997年
OECD統計データ より

図3が企業の金融資産・負債残高 対GDP比のグラフです。2021年(上)と1997年(下)になります。

1997年の時点では日本はGDPが他国に先行して高まっていたため、対GDP比の数値は1人あたりの数値よりも相対的に低めとなります。

それでも、負債のうち貸出(借入金)の水準は115%と、他国の倍以上(フランスを除く)の水準には達していたようです。

経済水準に対して、借入が極端に多い規模であった可能性が考えられますね。

2021年には日本の純金融資産、貸出は1997年の水準よりも縮小しています。

他国は拡大していますが、貸出はまだ日本の水準の方が高い状況ですね。

1人あたりで見れば他国並みになっているのに、対GDP比(100%)で見るとまだ高い水準のままです。

貸出の水準に対して、GDPが成長できていない事を表しているのかもしれませんね。

一方株式等は197%で、ドイツ、イギリス、イタリアを上回ります。

企業 純金融負債 対GDP比
1997年→2021年 単位:%
143 → 129 日本
190 → 340 アメリカ
58 → 62 ドイツ
163 → 165 イギリス
75 → 111 フランス
151 → 198 カナダ
76 → 120 イタリア

4. 企業の金融資産・負債残高の特徴

今回はG7各国の企業の金融資産・負債残高について比較してみました。

日本の企業は1990年代に、負債のうち貸出が極端に多かったのですが、2021年にはやや目減りしていて他国並みに落ち着いています。

バブル期に極端に投資が先行し、1997年以降事業活動の停滞と並行して調整が進んだように見えます。

2021年の対GDP比で見れば、GDPに対して貸出がまだ大きい水準ですので、設備水準で十分な付加価値を稼げていない事も示しているのかもしれませんね。

かつては設備投資先行で成長したけれども、設備依存の仕事ばかりでうまく付加価値を稼げる事業を確立できていないという状況を表しているようにも見えます。

日本企業は、当期純利益は増えていますが、売上高、付加価値、生産性、人件費が横ばいを続けている事と符合するように思います。(参考記事: 日本企業の「変質」

アメリカ、カナダは負債のうち株式等が大きく増えています。株式を軸とした企業の成長が窺えますね。

実際には株式は時価評価となりますので、株価の値上がりによる影響と、株式発行による増加が組み合わさっているものと考えられます。

ドイツは比較的負債が少ない国ですが、フランスは金融資産も負債も非常に規模が大きい特徴があります。

各国の企業の特徴が見られてとても興味深いですね。

皆さんはどのように考えますか?


編集部より:この記事は株式会社小川製作所 小川製作所ブログ 2023年4月7日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方は「小川製作所ブログ:日本の経済統計と転換点」をご覧ください。