仕事でもプライベートでも、ありとあらゆる種類の判断を求められる中で、もっとも役に立つツールが「確率・統計学」です。難しそうに見えて、実は使える場面はたくさんあり、簡単に計算することも可能です。
例えばスーパーのレジで行列に並んで無駄に時間を取られてイライラする……そんな生活の身近な場面でも統計学は役に立ちます。サトウマイ著「はじめての統計学 レジの行列が早く進むのは、どっち!?」から一部を抜粋・再構成して紹介します。今回はミルクティーの美味しい入れ方を統計学で考えます。
英国で起きたどっちが先か?の議論。
1920年代のイギリスで、何人かの英国紳士と婦人たちがアフタヌーンティーを楽しんでいたときのことでした。その場にいたある婦人は、ミルクティーについて「紅茶を先に入れたミルクティー」と「ミルクを先に入れたミルクティー」では、味が全然違うからすぐにわかるといいました。
ほとんどの人は、「混ざってしまえば一緒だよ」と婦人の主張を笑い飛ばしました。しかし、その場にいた眼鏡をかけ髭ひげを生やした紳士が、婦人の説明を「ふーん」と面白がって「その命題をテストしてみようじゃないか」と提案しました。この眼鏡の紳士こそが、現代統計学の父、ロナルド・A・フィッシャー(1890-1962)です(余談ですが、統計学や確率の歴史を遡ると、このようなユーモアのある話をまじめに考えることが始まりだったことが多いようです)。
実験は、次のように進められました。
① 「紅茶→ミルクの順で作ったミルクティー」と「ミルク→紅茶の順で作ったミルクティー」を、合わせて8杯用意する
② これら8杯のミルクティーをランダムに並べる(ミルクティーを作ったりテーブルに並べる作業は婦人には見せない)
③ 婦人に目隠しをした状態で、このランダムに並べた8杯のミルクティーを、どちらのミルクティーか(紅茶が先か、ミルクが先か)を当てさせる
〈結果〉
婦人は8杯のミルクティーを見事にすべて当てました。婦人のいったことは正しかったことが証明されたのです。2003年の英国王立化学会による研究では、高温の紅茶に常温のミルクを注ぐのと、常温のミルクに高温の紅茶を注ぐのとでは、ミルク分子の状態に違いが生じることが明らかになったそうです。ミルクを先に入れたほうが、ミルクのタンパク変性が少なく美味しいミルクティーになるということです。
ミルクティーの実験方法から考える、正しい統計学
ミルクティー好きには是非、試してもらいたいのですが、重要なのはここからです。フィッシャーは、このミルクティーの命題では「紅茶にミルクを注ぐ」のと「ミルクに紅茶を注ぐ」のとでは味が違い、その味わいを分けられることを証明するには、どのような条件設定をすればよいのかを、以下のように考えました。
- カップをひとつずつ順番に出すのがよいのか?
- 入れ方を変えた二つのカップを同時に出すのがよいのか?
- どちらも均一に混ぜるにはどうすればよいのか?
- 先に入れたほうが微妙に冷めてしまったら味に影響しないか?
このような様々なケースを大まじめに想定したところ、「反復」と「ランダム化」が必要だということを発見したのです。
まず、フィッシャーは、「そもそもこの婦人に、味わい分けの能力がないとしたら紅茶の入れ方をいい当てる確率はどうなるだろうか」と考えました。味わい分けの能力がないのなら、当たるか当たらないかは1/2分の確率です。
- 1杯目に当たる確率は1/2
- 2杯目も続けて当たる確率は、1/2×1/2=1/4
このくらいなら、まぐれでもありえそうな感じがします。
しかし、3杯目も当たると、(1/2)3 = 12.5%
4杯目も当たると、(1/2)4 = 6.25%
5杯目も当たると、(1/2)5 = 3.125%
このあたりまでくると、さすがにこれはまぐれとはいいがたくなってきます。
8杯全部を続けて当てるということは、(1/2)8 = 0.39% の確率です。
0.39%となると、まぐれで当たるとは考えにくいです。つまり、「婦人の舌はホンモノっぽいぞ」といえるわけです。
ホンモノである確率を先に求めるのではなく、まぐれ当たりする確率から先に求める、というのは統計学的な証明の特徴です。
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サトウマイ 合同会社デルタクリエイト代表社員 データ分析・活用コンサルタント
国立福島大学経済経営学類卒業。一般企業就職後、26歳で独立、データ分析・統計解析事業を始める。現在は企業のマーケティングリサーチや需要予測調査、商品開発支援などを行っている。数学アレルギーから学生時代より文系の道に進むが、統計学と出会いアレルギーを克服。株式会社野村総合研究所主催の「マーケティング分析コンテスト」入賞。学生や社会人向けに、データ分析をリアル謎解きとして楽しみながら、仕事に役立つ実践的なトレーニングを行っている。 URL http://delta-create.co.jp
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編集部より:この記事は「シェアーズカフェ・オンライン」2023年4月9日のエントリーより転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はシェアーズカフェ・オンラインをご覧ください。