アメリカの投資家たちがこのところ、続々と日本入りしています。ブラックストーンのスティーブ・シュワルツマンCEO、KKRのヘンリー・クラビス氏が来ていました。シュワルツマン氏は岸田首相と会談しています。世界屈指のヘッジファンドに育ったケン・グリフィン氏のシタデルも今年、東京に事務所を構えると発表しています。そして注目はウォーレン・バフェット氏が2度目の来日を果たし、5大商社のトップと会談を行った上で商社株の買い増しを公言しています。
何が起きているのでしょうか?
これらマネーの達人たちは「人の行く、裏に道あり、花の山」の嗅覚が異様に優れています。その匂いが日本からしてきたのでしょう。ではその発生源は何なのでしょうか?私が思う理由が5つあります。
最大の理由は地政学的理由で中国と対峙できるアジアの経済大国は日本しかない点です。とりもなおさず、日米関係という保険を盾にアメリカが日本に安心して投資ができる環境があることです。
2つ目に政治的安定感が見えていることです。議論百出を前提にドライな見方をすると岸田政権が落ち着いてきたことがあります。「検討使」だけれども何らかの実行も伴い始めていることは認めるべきでしょう。そして有力な対抗馬がおらず、追手の野党も姿が見えないほど引き離しているということで政治的安定感による経済回復の期待度は高いと思います。
3つ目に黒田氏が任期満了になったことがあります。黒田氏の評価が割れたという話題を振りましたが、黒田氏はアメリカ人にとって「サプライズは悪手の極み」ということが分かっていなかったと思います。(日米開戦のあの思い出を含めて、です。)今後、金融政策が学者主導の論理性を持った展開となるなら中期的な金融政策も分かりやすいということではないでしょうか?
4つ目が日本の相対的物価の安さです。併せて企業価値も低いのです。PBRが1倍以下が1800社もあるのは日本だけです。現在の企業価値が低いということは磨けばいくらでも伸びるということです。私が北米の投資先を考えながら「この企業はもう背伸び一杯かな」と思うほど伸びしろがほとんどない企業群が増えているのにくらべ宝の山に見えるのでしょう。「ジパング」の復活でしょうか?
最後に日本の景気が明らかに上向いている点です。物価高についてはほぼ1年間コストプッシュ型インフレで悲観に暮れ、テレビからは「今月は〇品目の値上げが予定されています」と主婦層を抱き込むような報道ばかりでした。その間、企業は調整金やボーナスでパッチワークをしていましたが、1年経ち、企業が本格的に賃上げに踏み切ったこと、それも2-3%ではなく、20-30%も上げるリーディングカンパニーが出ていることは大変革なのです。
実はこの変革に私は大いに期待をしているのです。なぜならゾンビ企業が排除される絶好の機会となっているからです。チカラがある企業しか賃上げは出来ません。賃金格差が出ると従業員の流動化が始まります。北米に比べ流動性が低かったのは横並び体質があり、能力評価が劣後し、組織作りが基本だったからです。が、今の30代以下の人たちは転職を全くいとわないのです。この大変革の予兆こそ、アメリカの投資家たちがかぎ取った臭いであると考えています。
個人的期待としてはアメリカの投資家主導で企業数をとにかく減らしてほしいと思います。上場企業ベースで5年で3割減です。例えばバフェット氏が今回5大商社を十把一絡げならぬ「五把一絡げ」にしたわけですが、5大商社が国内の専門商社などをもう少し買収して業界再編し、商社の購買力の増強に努めたらどうでしょうか?
日本は枯れ行く国家なのか、と言えば「枯らすも育てるもマインド次第」だと思っています。今の日本は高度成長期に頑張ってきた方々の中小企業の事業継承に行き詰まりがあること、ゼロゼロ融資の返済が始まり倒産が急増しており、否が応でも変わらざるを得ないところまで押し込まれたのです。相撲で言う土俵際です。
日本人は以前から外資に弱いのです。国内では強そうなことを言うけれど典型的な内弁慶。外国人には上手に反論できません。今回は開国を迫る黒船と言うより黒船に大金を積んで怒涛の投資の機会をうかがっている、そんな風に見えます。日本がそれに対してやることは「踊る」のではありません。沈着冷静にハードネゴをして良きパートナーとして協業できる体制を作ることではないでしょうか?
日本にビジネスの春の兆しが見えそうです。
では今日はこのぐらいで。
編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2023年4月12日の記事より転載させていただきました。