フランスの年金改革反対が問う長寿化の善し悪し

八幡 和郎

チャールズ英国王とカミラ王妃は、即位後初の外遊先としてフランスを訪れベルサイユ宮殿で華やかな晩餐会が予定されていた。ところが、年金改革法案への反対デモが荒れ狂い、パリはゴミの山になったので、両国政府はとりあえず取りやめにして、ドイツを先に訪問した。

なにしろ、チャールズ国王夫妻がフランス革命で倒されたルイ16世とマリー・アントワネットになぞらえられて、革命で民衆によって倒されるべき攻撃にされてはたまったものでないからだ。

フランスのデモ NHKより

おまけでいえば、チャールズはフランス王家の血を引いているし、フランス語を流暢に話し、フランスの古典的文化をこよなく愛する、フランスの上流階級以上に革命で倒された人々に近い存在である。

フランスの年金改革は、以下のような内容だ。

  1. 一般的な年金支給開始年齢を62歳から64歳へ段階的に引き上げる。また、満額受給の条件は、現行の41年間でなく43年間保険料を納付することとする。
  2. 年金制度には民間の一般制度のほかに、公務員、農業、電気・ガス企業、自由業者、交通関係などの特別制度があるが、船員、バレリーナなど高齢まで働けない特別の人たちを除き廃止され、一般制度に吸収される。
  3. 最低年金を最低賃金の85%まで引き上げる。
  4. 20歳以前から働いた人や、障害者、重い物を運んだり困難な姿勢や振動を伴ったりするうなかで、働くなど苦痛を伴う労働者には特例を認め、育児休業期間も納付期間に含める。
  5. これまでフランスでは少なかったシニア雇用を促進する措置を取る。

なかなかよくできた案だと思うが、ヨーロッパの人々、とくにフランス人は仕事を生きがいなどにせず、アフターファイブ、休暇、退職後にのんびり過ごすために働いているので、定年前倒しの方が喜ばれるのだ。

しかし、本当はもっと根本的な問題が背景にある。

フランスに限らず年金や医療保険の会計が苦境に陥っているのは、平均寿命の予期せぬ伸びが原因だ。フランスでは、1960年に70歳だったのが82歳になって、頭打ちになりそうもなく、140歳くらいまで生きる人が多くなってくるのではとも言う。また、この現実に日本のように奇抜な財政理論で赤字を正当化する人もいない。

もはや、個人も国家も老後生活の質を確保するには、長寿至上主義を見直して、平均寿命の伸びの抑制を図るとか、個人の選択を求めることも必要になってくるのではないか。

先週、マクロン大統領は安楽死の条件を大幅に緩和する方向での法案作成を命じたが、偶然とは思えないタイミングだった。