1. 政府の金融資産・負債差額
前回はG7各国の企業の金融資産・負債差額について、1人あたりのドル換算値と対GDP比の水準を比較してみました。
日本はかつて極端に多い借入金を抱えていたようですが、長期間停滞させていた事で金額的には他国並みに追いついているようです。
ただし、対GDP比としてはまだ高い水準となっている状況で、負債の多さのわりには付加価値を稼げていないという課題があるように見受けられます。
今回は、政府の金融資産・負債差額について比較してみたいと思います。
図1はG7各国の政府の金融資産・負債残高について、人口1人あたりのドル換算値(為替レート換算)のグラフです。
金融資産はプラス側、負債はマイナス側、正味の純金融資産は黒丸で表現しています。
G7各国とも、基本的には純金融資産マイナスの状態です。
日本は「1人あたり1000万円の国の借金」と言われますが、国債の水準としては9万ドル弱でアメリカと同程度のようです。
イギリスやフランス、カナダ、イタリアは5万ドル程度、ドイツは3万ドル程度です。
各国とも負債側では債務証券(国債)が大半を占めます。
金融資産側を見ると、日本は債務証券や株式等を多く持ち、カナダに次いで金融資産を多く持っているようです。
差し引きの純金融負債は5万ドル程度と、アメリカ、イタリアに次いでG7で3番目に多い水準ですね。
政府の負債は債務証券だけでないという事、政府は金融資産も多く持っている事はあまりニュースなどで聞かないですが、実際の構成としてはこのようになっているようです。
2. 1997年の比較
次に、日本経済のピークだった1997年の状況を見てみましょう。
図2が1997年の政府の金融資産・負債残高 1人あたりのグラフです。
とても特徴的なのは日本は負債も多かったようですが、金融資産が突出して多かったという事です。その他が大部分を占めますが、その中の多くは財政融資資金預託金となるようです(国民経済計算のデータより)。
一方負債側では、債務証券が2.5万ドルほどでG7で最も多かったようです。
ただし、当時はカナダやイタリアも債務証券は近い水準となっていますね。
正味の純金融負債では、日本は金融資産を多く持っていることからも1万ドル程度でG7でも少ない方になっています。
政府 純金融負債 1人あたり
1997年→2021年 単位:$
10,431 → 50,318 日本
21,366 → 84,527 アメリカ
7,359 → 15,677 ドイツ
7,356 → 48,629 イギリス
9,190 → 37,535 フランス
19,713 → 18,941 カナダ
22,283 → 51,085 イタリア
3. 対GDP比での比較
続いて、対GDP比でも比較してみましょう。
日本は1997年の時点で他国に先行してGDPが成長していたので、やや傾向が異なるかもしれません。
図3が政府の金融資産・負債残高 対GDP比のグラフです。2021年(上)と1997年(下)になります。
2021年のグラフを見ると、日本は対GDP比で最も負債(128%)の水準が大きい国です。
ただし、金融資産(8%)の水準も最も大きく、差し引きの純金融負債は128%でイタリアを下回りアメリカと同程度です。
負債のうち債務証券(国債)が220%で大半を占めている状況ですね。
緊縮と言われるドイツは負債が極端に少なく、純金融負債も31%程度に抑えられています。
1997年の状況を見ると、日本よりもカナダ、イタリアの方が負債の水準が大きかった事がわかります。
特にカナダの変化が興味深いですね。
政府が積極的に金融資産を増やし、純金融負債を目減りさせているように見受けられます。
金融資産は当時から日本の水準が大きかった事も興味深いですね。
政府 純金融負債 対GDP比
1997年→2021年 単位:%
29 → 128 日本
68 → 120 アメリカ
27 → 31 ドイツ
52 → 105 イギリス
38 → 87 フランス
90 → 36 カナダ
102 → 143 イタリア
4. 政府の金融資産・負債残高の特徴
今回はG7各国の政府の金融資産・負債残高を比較してみました。
日本は1997年の時点ですでに負債は多かったものの、金融資産も多く持っていて正味の純金融負債はG7の中でも少ない方だったようです。
近年では、負債が大きく増えていますが、金融資産も増えていて正味の純金融負債は金額で見ればイギリスやイタリアと同じくらいで、アメリカを下回ります。
ただし、対GDP比で見るとアメリカを上回り、イタリアに次いで2番目の水準となります。
負債(ストック)の水準に対してGDP(フロー)が少ないという課題があるように見受けられます。
皆さんはどのように考えますか?
編集部より:この記事は株式会社小川製作所 小川製作所ブログ 2023年4月14日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方は「小川製作所ブログ:日本の経済統計と転換点」をご覧ください。