米3月消費者物価指数(CPI)は前月比0.1%上昇し、市場予想の0.2%を下回った。前月の0.4%上昇を含め8カ月連続で上昇となったが、最も小幅な伸びにとどまる。エネルギーが公益を軸に弱まったものの、ガソリンが2カ月連続で上昇しエネルギーの下落を抑えた。食品は肉類・魚・卵を中心に鈍化しつつ、引き続き住宅関連が押し上げたほか、航空運賃が上向きに転じた。
CPIコアは前月比0.4%上昇し、市場予想と一致した。前月の0.5%を下回りつつ、2020年6月以降続く上昇トレンドを保つ。エネルギーと食品以外でのインフレが高止まりしている様子を示した。なお、21年6月は同0.9%と1982年6月以来の伸びへ加速していた。
FF先物市場は、米3月生産者物価指数(PPI)が前月比で2020年4月以来の落ち込みをみせた結果も含め、5月FOMCで0.25%利上げの確率を67.8%織り込む。
チャート:5月FOMCの利上げ織り込み度、やはり0.25%利上げか
6月以降は、引き続き5月FOMCで利上げ打ち止め、7月FOMCの利下げ転換、9月と12月を含め年内3回(0.75%)の利下げの見方に傾く。
チャート:6月以降の利下げ見通しでは、年3回の利下げを織り込む
CPIの内訳を前月比でみると、原油価格が3月に2021年12月以来の65ドル割れを迎えた影響もあって、エネルギー(全体の6.9%を占める、従来は7.3%)が3.5%低下し、過去5カ月間で4回目の低下となった。ガソリンは4.6%低下し、3カ月ぶりにマイナス。エネルギー・サービス(公益)も前月の1.7%に続き2.3%低下し2カ月連続で弱い。天然ガス価格の下落もあってガスが7.1%低下と2カ月連続で大きくマイナスに傾いたほか、電力も0.7%と4カ月ぶりに低下した。
エネルギー以外では食品(全体の13.5%を占める、従来は13.4%)が前月比横ばいで、前月の0.4%を含め2020年8月以降の上昇トレンドに終止符を打った(詳細は後述)。なお、コロナ禍で経済活動が停止した20年4月は1.4%上昇していた。
CPIコアは市場予想通り前月比0.4%上昇、前月の0.5%を下回った。これまでに続き、主に住宅関連が指数を支えた。
チャート:CPIの費目別寄与、前月比は引き続きガソリンなどエネルギーが押し下げたものの食品とその他が上昇を主導
食品とエネルギー以外をみると、モノからサービスへの需要のシフトが指摘される通り、航空運賃と宿泊が高い伸びを記録した。また、自動車保険も高止まり。一方で、帰属家賃や家賃など住宅関連は漸く鈍化の兆しがみえてきた。
家賃は新規契約分でマイナスが続くなか、通常1~2年契約という事情もあってサンプルに足元の動向は反映されづらかったが、当初の予想通り今年の春以降に減速を確認しそうだ。弱含みが顕著な中古車は、9カ月連続で低下した。エネルギー関連と食品・飲料以外で主要な項目の前月比は、以下の通り。
エネルギー関連と食品・飲料以外で主要な項目の前月比は、以下の通り。
(上昇費目)
・航空運賃 4.0%上昇し2カ月連続でプラス、前月は6.4%上昇
・宿泊 2.7%上昇し4カ月連続でプラス、前月は2.3%の上昇
・自動車保険 1.2%上昇し15カ月連続で上昇、前月は0.9%上昇
・家賃 0.6%上昇、前月は0.8%上昇し1986年4月以来の高い伸びに並ぶ
・住宅 0.6%上昇、前月は0.8%上昇し1976年7月以来の高い伸びに並ぶ
・帰属家賃 0.5%上昇、前月は0.7%上昇
・教育サービス 0.2%上昇しプラスのトレンドを維持、前月は0.5%の上昇
・新車 0.4%上昇し23カ月連続で上昇、前月は0.2%上昇
・自動車メンテナンス/修繕 0.3%上昇、前月は0.2%と11カ月連続で上昇した中で最も小幅
・服飾 0.3%上昇し5カ月連続で上昇し2021年12月以来の高い伸びを維持、前月は0.8%上昇
・娯楽 0.1%上昇し15カ月連続で上昇、前月は0.9%の上昇
(横ばい、低下項目)
・中古車 0.9%低下し9ヵ月連続でマイナス、前月は2.8%の低下
・医療サービス 0.5%低下し3カ月連続でマイナス、前月は0.7%の低下
CPIは前年同月比5.0%と、市場予想の5.2%を下回った。前月の6.0%を下回り2021年5月以来の5%割れに迫った。CPIコアも同5.6%と市場予想通りで、前月の5.5%を上回りつつ2021年12月以来の低水準を維持した。
チャート:CPIの前年比、費目別の寄与は住宅を軸にその他が大きい
――経済正常化により著しい上昇を遂げた費目を振り返ると、今回は鈍化が優勢となった。航空運賃(前月:26.5%上昇→17.7%上昇)のほか、自動車保険(前月:14.7%→14.5%)が前月の伸びを下回り、中古車(前月:13.6%下落→11.2%下落)は下げ幅を縮小しつつも2桁のマイナス幅を保った。ただし、新車(前月:5.6%→6.1%)のほか、経済正常化の恩恵を受けた宿泊(前月:6.7%→7.3%)は加速した。
チャート:経済活動の再開で上振れが目立った費目、新車と中古車は鈍化も他は高止まり
CPIの13.5%を占める食品の前年同月比は、鳥インフルエンザによって急騰した卵が元の価格に戻るなかで、肉類・魚・卵(前月:6.7%→4.3%)を始め、シリアル・パン類(前月:14.6%→13.6%)や食費(前月:10.1%→8.3%)なども鈍化した。ただし、外食は賃金上昇圧力を示唆したのか、前月:8.4%→8.8%と2カ月連続で再加速した。
チャート:外食以外、鈍化が鮮明に
6.9%を占めるエネルギーは前年同月比で6.4%下落し、2021年1月以降のマイナスに反転した。ガソリンは17.4%低下し、過去4カ月間で3回目のマイナスとなっただけでなく、2020年11月以降で最も大きな落ち込みをとなった。公益(電力・ガス)は前月の13.3%から9.2%へ鈍化した。
チャート:ガソリンと光熱費、食費とそろって減速
アトランタ連銀が発表する粘着CPI(帰属家賃や外食、医療サービスなど、変動の鈍い品目に絞って算出したCPI)は、前月まで3カ月連続で前年同月比6.7%上昇を経て、今回は6.6%へ鈍化しました。しかし、住宅関連が押し上げており、住宅を除けば5.3%と2022年5月以来の低い伸びです。パウエルFRB議長を始めFedは住宅を除くコアサービスに注目するなか、住宅以外はゆるやかなペースながら落ち着きつつあります。
チャート:粘着CPI、住宅を除けば鈍化
物価が高止まりするなか、実質賃金の伸びを押し下げ続けた。3月の実質平均時給は前年同月比0.7%下落、C’PIにつれ2021年9月以来の小幅な下げにとどまった。生産労働者・非管理職は0.5%上昇し、こちらは2021年3月以来のプラスに転じています。
チャート:実質賃金の下落を続けたものの、下げ幅は小幅ながら再拡大
米3月CPIに加え、米3月生産者物価指数は前月比0.5%低下し2020年4月以降で最大の落ち込みを迎えました。エネルギーを中心にインフレの抑制を確認しており、OPECプラスによる追加減産を受けて、WTI原油価格が80ドル付近がフロアになったほか、ガソリン価格の上昇もあって、今後急数カ月は鈍化ペースが限定的となりそうです。ただ、家賃を中心に物価を押し下げる見通し。インフレは着実に緩和しつつあるといえ、FF先物市場が示唆するように年内利下げの余地が広がってきました。
編集部より:この記事は安田佐和子氏のブログ「MY BIG APPLE – NEW YORK –」2023年4月14日の記事より転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はMY BIG APPLE – NEW YORK –をご覧ください。