調査してから記事にしてね、毎日新聞

14日付で毎日新聞が「放送法と政治的公平 真相のカギ握る「昭和39年答弁」とは」という記事を配信した。記事は次のように結ばれていた。

立憲はこうした当時の会議録も引き合いに出し追及を続けてきたが、高市氏の答弁から8年、昭和39年答弁からは59年という年月の壁も立ちはだかり、真相ははっきりしないままだ。

ふーむ、毎日新聞の記者は誰でも検索できる国会議事録(国会会議録検索システム)も読まずに記事を書くんだ。

毎日新聞本社 Wikipediaより

昭和39年答弁は、1964年4月28日に参議院逓信委員会で行われた。質問者は横川正市氏であった。なぜ質問したのか、だれでも検索できる国会議事録を読めばすぐにわかる。

同年4月17日にゼネラル・ストライキが計画されていた。ゼネラル・ストライキという言葉はもはや死語だが、賃上げを求めて、企業や組織の壁を越えて全国で一斉にストライキをしようという計画だった。しかし、計画は失敗に終わった。

4月17日直前の15日に、池田勇人総理大臣がTBSを通じてストライキ中止を国民に訴えるという行動に出た。野球のナイター放送を中断して20時から15分間の放送だった。そこで、横川正市日本社会党参議院議員が、そんな割り込み放送は、政治的に公平という放送法の規定に反するのではないかと質問したわけだ。

これに対して、郵政省の宮川岸雄局長が、「ある一つの番組が、極端な場合を除きまして、これが直ちに公安及び善良な風俗を害する、あるいは、これが政治的に不公平なんである、こういうことを判断する——一つの事例につきましてこれを判断するということは、相当慎重にやらなければもちろんいけません」と答弁した。

現国会で問題となったのは、2015年の高市早苗総務大臣の答弁である。総理官邸からの働き掛けで放送の公平性について解釈を変更したのではないかというのが、立憲民主党の指摘である。

誰でも検索できる国会議事録で問題の部分を拾うことができる。5月12日の参議院総務委員会で藤川政人自由民主党参議院議員が質問し、高市大臣が次のように答弁している。

ここで言う政治的に公平であることとは、これまでの国会答弁を通じて、政治的な問題を取り扱う放送番組の編集に当たっては、不偏不党の立場から、特定の政治的見解に偏ることなく番組全体としてのバランスの取れたものであることと解釈をしてきたところであります。その適合性の判断に当たりましては、一つの番組ではなく放送事業者の番組全体を見て判断することとされてきたと聞いております。

総務省(かつては郵政省)は1964年にも2015年にも「一つの番組ではなく放送事業者の番組全体を見て判断する」と言い続けているだけだ。立憲民主党が「こうした当時の会議録も引き合いに出し」と記事にあるが、すでに公開された3月16日までの議事録には、なぜ横川議員が質問したかという背景にまで言及した質問は見当たらなかった。これらはすべて誰でも検索できる国会議事録ですぐにわかる。

はっきりわかるのは、「政治的に公平」という放送局への要求が政治からの介入を受けやすいということ。1964年には左派から指摘され、2015年には右派から指摘された。介入を避けるには放送法から「政治的に公平」を削除すればよい。放送局には言論の自由を与え視聴者に審判を委ねるという、世界標準に合わせればよいだけだ。

DXが進む中でオールドメディアはどうすれば生き残れるのか。僕は調査報道が重要と考えているが、毎日新聞の記事は調査のレベルに達していない。宣伝になるが、ICPFでは「DXとオールドメディア」について4月24日にセミナーを開催します。どうぞ、ご参加ください。