スーダン軍部の権力争いとその背景:アフリカ全体が不安定化する恐れも

アフリカ大陸北東のスーダンで15日、暫定軍事政権のアブデル・ファッタ・アル・ブルハン将軍の指揮下にある同国正規軍と、モハメド・ハムダン・ダガロ司令官が率いる準軍事組織の「緊急支援部隊」(RSF)が軍事衝突し、武装闘争を展開、各地で戦闘を繰り返し、多数の死傷者が出ている。スーダンは重大な試練に直面してきた。

スーダンで軍部内の権力争いが展開(2023年4月17日、オーストリア国営放送(ORF)ニュース番組のスクリーンショットから)

ペルテス国連事務総長特使(スーダン担当)が17日発表したところによると、紛争勃発以来、少なくとも185人が死亡し、1800人以上が負傷した。世界保健機関(WHO)によると、週末のハルツームでの戦闘で約600万人が暮らす首都の病院は完全に負傷者で溢れ、負傷した民間人を受け入れる9つの診療所では、輸血に必要な血液などの医療物資が不足。断水や停電、病院の発電機の燃料不足などで医療業務は困難を極めているという。国連世界食糧計画(WFP)は、北ダルフール州で職員3人が死亡したと発表。同国での活動全てを一時停止すると明らかにした。

外電からの情報によると、銃撃や爆発は首都ハルツームだけではなく、全土に拡大し、紅海に面したポートスーダンの港湾都市やメロウェでも戦闘が続いている。RSF軍は国際空港を掌握し、大統領官邸を攻撃している。陸軍は砲兵、戦闘機、戦車を動員して抵抗しているという。国連をはじめとして、欧米主要国は両軍指導者に即停戦を呼び掛けているが、戦闘は激しさを増してきている。

オマール・アル・バシール大統領の30年間の長期統治下で、スーダンは壊滅的な経済危機に巻き込まれた。食糧とガソリンの価格は劇的に上昇。住民による大規模な抗議の後、軍事クーデターが起き、アル・バシール大統領は2019年に辞任に追い込まれた。2年間の移行段階が続くはずだったが、アブダラ・ハムドク首相が率いる文民政府は国を安定させることができず、2021年に軍事クーデターが発生。軍部とRSFが国内の権力を事実上、掌握した。

軍部は約4600万人の住民を抱える国を支配してきたが、今年の4月、軍事政権は再び民間の政治家に権限を委譲すべきだった。しかしRSFが抵抗し、「アル・ブルハン将軍は権力に固執している」と非難するなど、軍部内で権力争いが激化していた。簡単にいえば、RSFのスーダン軍への統合計画をめぐって、2人の軍事指導者の間で「将来、誰が軍の最高指揮権を握るか」で対立してきたわけだ。

ちなみに、RSFは2013年に西部ダルフール州の元民兵の集合体から形成された準民兵組織だ。ダルフール地域では、アラブ人が支配する政府とアフリカ系少数民族との間で何十年にもわたって対立が続いてきた。RSF民兵は、ダルフールの民間人に対して残虐行為を行ったジャンジャウィード民兵から出てきたもので、残忍な部隊として知られている。何年もの間、RSFは軍隊と協力してきた。民兵には数万人の戦闘員がいると推定されている。ただし、スーダン正規軍にはアル・バシール大統領に忠実だった軍指導者が多く残っており、彼らはバシール打倒クーデターに参戦したRSF指導者を信用せず、裏切り者と見ている。

スーダンは豊富な石油と金の鉱床を擁する。それだけに、ロシアや中国はスーダンに強い関心を示してきた。中国はスーダンの原油開発を支援、現地に派遣された中国人労働者の数は100万人ともいわれる。

今回の軍部内の紛争では、エチオピアとエリトリアはダガロ派を支持し、エジプトはアル・ブルハン派を支持している。エチオピアのナイル川のダム計画をめぐる論争では、エジプトはスーダンと共にこれを防ごうとしてきた。一方、サウジアラビアは、自らを仲介者と見なしている。RSFはイエメン内戦ではサウジ主導の軍事同盟を支援してきた。

スーダンは2019年に暫定政府を発足させてから、欧米諸国との関係が改善、2020年10月にはトランプ米大統領(当時)がスーダンをテロ支援国家リスト(SSTL)から除外する意向を表明、イスラエルはスーダンとの国交正常化を発表するなど、スーダンと国際社会の関係は急速に拡大してきた。

スーダンの西側傾斜を警戒したロシアはウクライナ侵攻以来、スーダンとの関係を重視し、セルゲイ・ラブロフ外相は2月9日、スーダンを訪問したばかりだ。ロシアは紅海のスーダン沿岸に海軍基地を計画している。アフリカ有数の金の産地スーダンには、ロシアの企業が違法に金を買いあさっているとの情報がある。スーダンの軍事政権は、ロシアからの武器の供与を期待しているといわれる。

スーダンにはバシール元大統領を支持するイスラム主義者グループが依然、大きな影響力を有している。彼らは民主化プロセスが西側によって押し付けられていると見なして強く反発している。

ペルテス国連事務総長特使は17日、オンライン記者会見で、「両者が調停を求めている印象はない」と語った。スーダン政府軍とRSFの戦闘が長期化すれば、スーダンが分断され、アフリカの地域全体が不安定化する恐れが懸念される。

なお、スーダン出身のアブダラ・シャリフ氏(「ホルン・アフリカ通信社」のウィーン国連記者)は18日、当方とのインタビューに答え、「21日はラマダン明けだ。断食明けの祭(イード)が始まるから、軍部内でも戦闘を停戦すべきだという声が高まることが考えられる。最初は数時間、その後は24時間と停戦期間を延長していくなかで、紛争双方の話し合いが進むかもしれない」と述べている。


編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2023年4月19日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。