新セブンイレブンがまいばすけっとになれない理由

関谷 信之

ある医療機関の待合室にて。先日閉店した店の跡地に何が建つのか、話題になっていた。

「『まいばすけっと』らしいわよ」

「おぉ!」「便利」「助かる」。主婦たちからは喜びの声が。ここは、徒歩15分圏内に、スーパーが3つ、コンビニが5つ以上ある便利な場所。にもかかわらず、彼女たちが、まいばすけっとを歓迎するのは、「より近くて」「安い」からだ。

「まいばすけっと」は、大手スーパーのイオン(AEON イオン株式会社)が運営するミニスーパーである。顧客層は、店舗から半径500メートル、徒歩3~5分程度で来店できる近隣の住人たちだ。コンビニとの違いは「食品」に注力していること。特に、生鮮食品は安くて評判が良い。スーパーで148円のリンゴが128円。138円のバナナが119円など、果物は近隣で最も安価なことが多い。

筆者が、先日購入したのは、「ミニトマト(大)、ぶなしめじ、輸入ぶどう、チョコブロック2つ」。会計は「899円」だった。近隣のスーパーと同等、いや、むしろ安い。これだけ買ったら1000円札でおさまらない事が多いのではないか。コンビニでは躊躇するような品数でも、まいばすけっとなら安心して買うことができる。主婦(主夫)にとって、頼れる存在だ。

安価に提供できるのは、親会社であるイオンの力が少なくない。全国に20カ所の直営農場、70か所のパートナー農場を持ち、提供品目は約100種類。この、親会社の豊富な資源の恩恵もあり、安価かつ安定的に青果類を提供できる。イオンと「まいばすけっと」のシナジー効果(相乗効果)と言えよう。

この「まいばすけっと」に追随しようとしているのがセブンイレブンだ。

新しいセブンイレブン

セブン&アイ(株式会社セブン&アイ・ホールディングス)が、3月に続き、4月6日の決算発表で訴えたのが、セブンイレブンの新業態「SIP(=セブン-イレブンジャパン・イトーヨーカドーパートナーシップ)」だった。セブンイレブンの店舗面積を広げ、イトーヨーカドーで取り扱う生鮮食品や冷凍食品などを販売する。いわば「セブンイレブンとイトーヨーカドーのいいとこどりした業態」だ。両業態のシナジー効果を「物言う株主」に訴求したい。そんな思惑が透けて見える。

発表資料やウェブサイトには、「顔が見える野菜。」という単語が散見される。「顔が見える野菜。」は、イトーヨーカドーの野菜ブランドだ。野菜の生産履歴を顧客が確認できるため、安全・安心・健康といったニーズに応えられるという。これを、セブンイレブン店舗で販売することが、SIPの目玉となる。

イトーヨーカドーが販売する「顔が見える野菜。」

問題は、品質(すなわち味)差がわからないこと。「顔が見える野菜。」の“高井博さん”が作った105円のしめじと、まいばすけっとの55円(30%引き)のしめじ。筆者主観では、どちらも美味しい。「顔が見える野菜。」の付加価値は、味ではなく「安心感」だ。生産者(地)を気にせず、筆者程度の味覚であれば、商品価値に差はない。そうなると、SIPはやや分が悪い。加えて、コンビニ特有の問題がある。

コンビニ特有の問題

経済産業省「新たなコンビニのあり方検討会」は、2019年から2020年にかけ、全国10都市のコンビニオーナーから詳細な聞き取りを行った。ヒアリング中に、主な問題を以下の4つにまとめている。

(1)ロイヤリティ・商品廃棄問題等により悪化した本部との関係性
(2)ドミナント(※自店舗の近隣に他オーナーの店舗が出店される)による、利益減少
(3)24時間営業による過大な負担
(4)アルバイト・パートなどの労働力確保難

コンビニ各社は、これらの根本解決に至っていない。

一方、まいばすけっとでは、これらの問題はほとんど起こらない。まいばすけっとは全店「直営」だからだ。

当然、ロイヤリティ問題はない。ドミナント出店による、オーナーと本部の揉め事もない。むしろ、会社全体としての利益を追求する「本来の」ドミナント戦略が実施できる。

「東京23区と神奈川では、密度の濃い『超ドミナント化』をねらっていきます」

コンビニより強い!首都圏で増殖続ける、まいばすけっとの全貌!

これは、3年半前のダイヤモンド・チェーンストアオンラインの取材に対する、まいばすけっとの回答だ。当時の店舗数は828店。2023年4月現在、1070店にまで増加している。冒頭の医療機関周辺にも、まいばすけっとが5店ある状態だ。

ドミナントにより近隣店舗が多いため、店舗をまたいでアルバイト・パートが配置できる。営業時間は、多くの店が7時から24時まで。コンビニより負担が少ない。公共料金収納などのサービスは行わない。ファストフードは販売しない。結果、業務が覚えやすいため、アルバイトに敬遠されず、人員が確保しやすくなる。

対して、新セブンイレブンは、ふたたび上記4つの問題に向き合うこととなる。特にドミナントは深刻だ。

出店増加できるか

既に、首都圏や市街地はコンビニ「飽和状態」と言われる。もし、ここにSIPを出店したら、従来型セブンイレブンと、新型セブンイレブン(SIP)の新旧対決だ。従来型セブンイレブンは、通常のドミナント以上に厳しい戦いを強いられる。オーナーたちは黙っていないだろう。より、本部との関係が悪化する可能性が高い。

直営で出店する場合、これに「低利益」という問題が加わる。

現状、セブン&アイは、SIPの収益目標など詳細を明らかにしていない。どのくらいの利益を想定しているのか。いや、そもそも儲かるのか? 参考事例がある。(やはり)「まいばすけっと」だ。

薄利のまいばすけっと

まいばすけっとの利益率はかなり低い。過去5年平均(2018~2022年)の営業利益率は「1.46%」。イトーヨーカドー(等スーパーストア事業)の営業利益率「1.04%」(2022年度)と、ほとんど変わらないのだ。

イトーヨーカドー分離を訴えるセブン&アイの「物言う株主」たちが、このSIPプランに納得しないのは、当然のことと言える。

経営理念の実践

では、なぜ、まいばすけっとは、薄利であるにもかかわらず、経営を続けているのか。理由のひとつは、手薄になっているイオンの都心部店舗の補完。もうひとつは、「経営理念」の実践だ。

先に、顧客層は「近隣の住人」と述べた。まいばすけっとには、もうひとつ顧客層の切り口がある。「買物弱者」だ。買物弱者とは、「高齢者等を中心に、店舗まで500m以上距離があり、食料品の購入や飲食に不便や苦労を感じる人」(農林水産省定義を要約)を指す。

まいばすけっとの理念は、買物弱者に「物理的にも、心理的にも近い店」を提供することだ。筆者が利用する店舗も、比較的高齢者の利用が多く、従業員の接客も丁寧なように感じる。

顧客視点の大切さについて、イトーヨーカドー創業者の伊藤雅俊氏も以下のように述べている。

株主が大切なのは理解していますが、株主の方を向いて経営したのでは、結果的に会社の業績を悪くしてしまうでしょう。小売業は、お客様が店に来てくださって、初めて成立する仕事ですから、お客様第一でやっていかないと衰退します。お客様第一で経営するからこそ、株主にも報いることができるのだと思います。

(ひらがなで考える商い 伊藤 雅俊/著 日経BP出版センター)

イトーヨーカドーの生き残り策として勘案した新業態「SIP」。これが、顧客ではなく株主向けのアピールだとしたら、最終的に、株主に報いることすらできなくなってしまうのではないだろうか。

【注釈】
※1 ドミナント 地域を絞り込み、集中的に出店することにより、顧客を囲い込み、利益を獲得する手法。フランチャイズが主であるコンビニでは、既存加盟店の近隣に他オーナーが出店すると、既存加盟店の利益が減少することが問題となっている。

まいばすけっと指標値は決算公告、イトーヨーカドー指標値はセブン&アイ有価証券報告書より算出

【参考】
コンビニより強い!首都圏で増殖続ける、まいばすけっとの全貌!