日本の空き家を300万円で買い始めた外国人

黒坂岳央です。

New York Timesの記事に日本の空き家が取り上げられ、注目を集めている。

人口減少する日本で、1000万戸以上の空き家があり300万円(約2万3000ドル)で購入した外国人が紹介されている。その一方で、2023年3月の首都圏マンションの平均価格は初の1億円突破とされる。1億円と300万円、新築と中古とはいえどちらも住居という点では全く同じだ。

近年では「自分はリモートワーカーなので東京のロケーションを必要としない」という人も現れ、あえて地方へ移住する人も増えてきている。中には中古住宅を購入してDIYやリフォームで住みやすくする高コスパのツワモノもいる。

現時点では中古物件の問題点はそれほど顕在化していないと思っておりこの先10年、20年後は見方が変わるかもしれない。

VTT Studio/iStock

インフラはどうなる?

最初の問題はインフラの老朽化である。日本のインフラは高度成長期に建設されたものが多く、今後インフラの老朽化が大きな問題となる。地方に伸びる橋、道路、水道など巨額のコストがかかるインフラ整備をする財政的余裕があるとはいえない。

国土交通省によると、2023年で2メートル以上の橋梁の43%、トンネルの34%が建設50年以上を経過すると発表している。「直せない道路や橋」は今後増加していくリスクを理解する必要がある。

せっかく安い住居を買って生活していても、まったく家の外から出ず自給自足をするのは多くの人にとって不可能に近い。長期的に住む前提に立てば、インフラの限界を考慮する必要があるだろう。

消えていくお店、届かない通販

田舎で悠々自適な生活をする上で欠かせないのがお店の存在である。イオンモールなど巨大ショッピングモールに車で出かけて買い物をするのは、地方民にとっては大きな楽しみの一つであるし同時に生活基盤でもある。

だがそれは今後もずっと続くと思わない方がいいかもしれない。人口減少が続けば、モールをはじめ店舗の維持ができず消えていくことになるからだ。「モール近くに家を買ったので買い物便利」と思っていたら、モールがなくなってしまい、買い物難民になるリスクは考慮しておくべきだろう。

「それなら通販で買えばいい」という人もいるかもしれない。今後、配送業界にイノベーションが起きてロボットやAIが活躍するなら話は別だが、現時点では日本の配送はかなり厳しい状況に置かれている。トラックドライバー不足だ。

ヤマトは先日、翌日配送地域の内、一部を翌々日配送にすると発表した。「ポチれば翌日到着」という当たり前がプレミアムになる。いや、インフラ老朽化と合わされば、遠い将来に配送困難の地域になる可能性だって否定できない。また、ロボットが活躍すると言っても、配送には何らかのエネルギーが必要だ。エネルギー不足気味の昨今、この点でも不安は残される。

「ド田舎」に住むリスク

地方、田舎というワードにもグラデーションがあり、県庁所在地と秘境レベルではまったく違う。県庁所在地はしばらくは大丈夫でも、いわゆる「ド田舎」に家を買って長期的に住むなら今後はそれなりのリスクを考えなければいけないだろう。

筆者はド田舎の一軒家に住んでいるが、この家が終の棲家とはまったく考えておらず、いつか出ていく想定で住んでいる。最近、息子の同級生が新築で家を建て、餅投げイベントをしたばかりだ。「この素敵な家でずっと生活するつもりです」と挨拶していたが、大丈夫?などとは言い出すことができなかった。

東京で億ションが飛ぶように売れまくっているのは、もしかしたら潜在的に地方の古い家のリスクをマーケットがどこかで感じ取っている部分もあるのかもしれない。人口減少が続き、空き家が1000万もある国で不動産価格がとんでもなく高騰している光景は、直感に反すると感じるのである。

 

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ビジネスジャーナリスト
シカゴの大学へ留学し会計学を学ぶ。大学卒業後、ブルームバーグLP、セブン&アイ、コカ・コーラボトラーズジャパン勤務を経て独立。フルーツギフトのビジネスに乗り出し、「高級フルーツギフト水菓子 肥後庵」を運営。経営者や医師などエグゼクティブの顧客にも利用されている。本業の傍ら、ビジネスジャーナリストとしても情報発信中。