外国人労働者政策の地殻変動!技能実習制度廃止の行方と今後のタイムライン

外国人技能実習制度の大改正の議論が佳境を迎えています。4月10日には政府の有識者会議が開催され、技能実習制度・特定技能制度に関する中間報告書が示され、19日には更新版が公表されました。

中間報告は4月中に取りまとめられ、最終報告が2023年の秋までに関係する大臣をメンバーとする政府会議に提出されます。通常のスケジュール感ならば、この報告書を踏まえた制度改正が2024年通常国会で行われるはずです。複数の報道において「技能実習の廃止」が提言されたことが示され、大きな制度の展開がなされることが予想されています。

参考:日経新聞https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUA080510Y3A400C2000000/

技能実習生は建設、漁業、農業、機械、金属、繊維など幅広い産業でうけいれられ、2022年6月時点で32万人の外国人が技能実習生として日本に滞在しています。人手不足の地域では技能実習生が貴重な戦力となっていることも少なくないので、制度の動向が気になる事業者の方も多いでしょう。

今回は、行政官の視点で中間報告書を読み込み、今後行われるであろう政策と、注意すべきタイミングについてお示しします。

技能実習生のようす NHKより(編集部)

そもそも技能実習制度、特定技能制度とは何か

技能実習制度は、1993年に制度化されました。外国人に対し、日本の技術や知識を習得させることを目的とした国際協力の一環とされています。主に発展途上国からの人材を受けいれ、受け入れられた技能実習生は最長5年、「技能実習」の在留資格で日本に滞在することができ、滞在期間の大部分は労働関係法規が適用されますが、転職や転籍は原則認められていない状況です。また、この後に示すように人権の観点から様々な課題があることが指摘されています。

参考:「技能実習制度及び特定技能制度の在り方に関する有識者会議(第1回)資料3」
https://www.moj.go.jp/isa/content/001385692.pdf

特定技能実習制度は、2019年4月に創設された仕組みで、深刻化する人手不足への対応として、人材不足の産業上の分野について一定の専門性・技能を有する外国人を受け入れる仕組みです。在留資格「特定技能1号」と家族を母国から連れてくることも可能な「特定技能2号」の2種類があります。

参考:「技能実習制度及び特定技能制度の在り方に関する有識者会議(第1回)資料3」
https://www.moj.go.jp/isa/content/001385692.pdf

技能実習制度の課題

特に技能実習制度はかねてから複数の課題が指摘されてきました。
特定技能制度を利用して来日する前に、母国の送出機関や仲介者に費用を支払う者もいるのですが、その額や支払い内容はまちまちです。送出機関にも仲介者にも支払わなかったという方もいれば、双方に支払ったという方もいます。また、支払費用もベトナムでは平均約68万円であった一方で、フィリピンでは約9万円と、国によって手数料の額が大きく違う状況もあります。

ジェトロによれば、ベトナムの平均年収は2020年時点で約30万円程度とされています。来日前の支払い費用が平均68万円ですから、ベトナムのケースでは母国の2年分の給与相当額を投じるというリスクをとって来日している人が平均的ということです。

参考:JETRO「2020年版ベトナム家計生活水準調査結果の速報を公表」https://www.jetro.go.jp/biznews/2021/06/a8fdd777d36d258a.html

高騰する手数料の背景には、違法なブローカーによる悪質な仲介があることが指摘されており、一部のブローカーは、実習生から高額な仲介料を取り立てたり、虚偽の情報を提供して実習生をだまし、不当な契約を結ばせることがあるとされています。

参考:「技能実習制度及び特定技能制度の在り方に関する有識者会議(第1回)資料3」
https://www.moj.go.jp/isa/content/001385692.pdf

参考:「技能実習制度及び特定技能制度の在り方に関する有識者会議(第1回)資料4」https://www.moj.go.jp/isa/content/001385807.pdf

また、技能実習生は、時に過酷な労働条件や低賃金で働かされるケースがあることも課題とされています。アメリカ国務省の2022年の報告によれば、技能実習生に対しては、パスポートの取り上げ、強制送還をする説いた脅迫、身体的暴力、賃金差し押さえなどの人権侵害が行われていること、劣悪な労働環境から逃れてきた技能実習性が、当局に逮捕されたり、強制送還されたりしていること、労働搾取による人身取引が見られるにもかかわらず、加害者に刑事責任を負わせる報告はなく、刑罰が不十分であることなどが指摘されています。

最近では2020年11月に、当時技能実習生だったベトナム人女性が双子を死産したのち、遺体を1日あまり放置したとして死体遺棄の罪に問われ、最高裁で逆転無罪判決がでたとするニュースがありました。

参考:https://www3.nhk.or.jp/news/html/20230324/k10014018601000.html
参考:https://www3.nhk.or.jp/news/html/20230324/k10014017761000.html

このケースも、妊娠が発覚することで帰国や退職を強要されることが背景にあったとされており、いびつな制度の改善が世論としても求められている状況でした。

このような課題を踏まえ、制度改正を見据えた検討会の議論が始まったのです。検討会の議論がどのように進んだのか、今後どのように制度改正が進んでいくのか、解説します。

(執筆:西川貴清 監修:千正康裕)

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編集部より:この記事は元厚生労働省、千正康裕氏(株式会社千正組代表取締役)のnote 2023年4月20日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方はこちらをご覧ください。