前回はG7各国の政府の金融資産・負債残高について比較してみました。
日本の政府は負債が多いですが、金融資産も多く保有していて、差し引きの純金融負債はアメリカ、イタリアに次いでG7中3番目のようです。
ただし、対GDP比ではイタリアに次いで2番目となり、負債の水準に対してGDPが増えていないという課題がありそうです。
今回は各国に対する海外の金融資産・負債残高を比較してみたいと思います。
図1が海外の金融資産・負債残高 1人あたりの比較です。
金融資産をプラス側、負債をマイナス側、正味の純金融資産を黒丸で表現しています。為替レートによるドル換算値です。
なんといってもイギリスの存在感が大きいですね。
イギリスに対する海外は金融資産も負債も非常に多く保有していることになります。
基準をそろえて相対化すると、各国の特徴がより可視化されて興味深いですね。
日本はドイツ、イギリス、フランスなどと比べると、規模がやや小さい事になりそうです。
欧州の主要国ではEU圏内での取引が活発という事も表しているのかもしれません。
日本、ドイツ、カナダは海外が純金融資産マイナス、アメリカ、イギリス、フランス、イタリアはプラスです。
特にアメリカのプラス額が大きい事が良くわかりますね。
日本は海外の金融資産(海外が日本に持っている資産)がG7中最も少ない事になります。
一方負債はイタリアやアメリカよりも多い水準です。
2. 1997年の比較
続いて、日本経済のピークだった1997年の状態も見てみましょう。
図2が1997年のデータです。
イギリスの圧倒感が際立っていますね。
金融資産側の現金・預金、負債側の現金・預金、貸出の規模が非常に大きかった事がわかります。
日本は金融資産がやや少なく、負債は他国並みといった状況ですが、純金融負債が最も多かったようです。
当時からすでに、日本の海外に対する資産が大きく超過していたことになります。
カナダとドイツはこの時点で純金融資産プラスだったのは興味深いですね。
25年ほどで大きく海外がカナダやドイツに対する負債を増やしたことになります。
逆にフランスは、海外が純金融資産マイナスからプラスへと変化しています。
海外 純金融資産 1人あたり
1997年→2021年 単位:$
-8,369 → -30,344 日本
2,328 → 52,504 アメリカ
473 → -33,841 ドイツ
836 → 8,936 イギリス
-3,432 → 2,229 フランス
7,082 → -31,334 カナダ
65 → 271 イタリア
3. 対GDP比での比較
続いて、対GDP比でも比較してみましょう。
図3が海外の金融資産・負債残高 対GDP比のグラフです。2021年(上)と1997年(下)です。
やはりイギリスの存在感が際立っていますが、他の主要国も規模を拡大させている事が良くわかりますね。
イギリスは海外に対して、GDP(フロー)の5倍以上の金融資産と負債を持っていることになります。
日本は海外の金融資産が少なく、差し引きの純金融負債の水準が最も大きいようです。
海外 純金融資産 対GDP比
1997年→2021年 単位:%
-23 → -77 日本
7 → 75 アメリカ
2 → -66 ドイツ
3 → 19 イギリス
-14 → 5 フランス
32 → -60 カナダ
1 → 0 イタリア
4. 海外の金融資産・負債残高の特徴
今回はG7各国に対する海外の金融資産・負債残高を比較してみました。
今まで正味の純金融資産に着目してきましたが、金融資産や負債の水準を比較してみると、また違った傾向が確認できて興味深いですね。
正味の純金融資産で見れば、日本はドイツと並んで海外が大きくマイナスの国です。
しかし、そもそも海外との金融資産や負債の水準で見ればイギリスが大きな規模に達していて、両者がほぼ均衡しているが故に純金融資産で見るとほぼゼロに近い状況になっているという事ですね。
他のドイツやフランス、カナダも同様に、日本よりも海外との関係が強い事がわかります。
日本は海外の負債はそれなりに大きな水準ですが、海外に対する日本の負債が少ないため、差し引きの海外の純金融負債の水準が大きいという事のようです。
アメリカはその逆で、海外がアメリカに対して保有する金融資産はそれなりの規模ですが、アメリカが海外に対して保有する金融資産が相対的に少なく、差し引きの海外の純金融資産が大きいという関係になっています。
EU圏内を含め外国との結びつきを強める欧州、海外からの投資を呼び込むアメリカ、海外に投資してばかりの日本という違いがありそうですね。
皆さんはどのように考えますか?
編集部より:この記事は株式会社小川製作所 小川製作所ブログ 2023年4月21日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方は「小川製作所ブログ:日本の経済統計と転換点」をご覧ください。