違憲論の残る中途半端な国防規定はかえって将来に禍根を残す

自民党の9条改正案について意見を述べました。国民民主党も9条改正には賛成ですが、自民党案には(日本維新の会の案にも)気になる点があります。

両党の案は自衛隊を憲法に位置付け「国防規定」を創設しようとする内容ですが、今の案だと、自衛隊という「組織」に対する違憲論は消えても、自衛隊が行使する「自衛権」に対する違憲論が残り続ける内容となっています。憲法改正で国防規定を設けるなら、違憲論が出ない内容にしないと、前線で命を懸けて戦う自衛隊の皆さんに申し訳ない形になってしまいます。

違憲論を伴う国防規定ほど情けないものはありません。今の自民党案では違憲論が消えない内容であって「労多くして益なし」の憲法改正となる可能性があります。さらに問題を提起し議論を深めていきます。

憲法審査会発言要旨(2023年4月20日)

国民民主党代表 玉木雄一郎

まず、緊急事態の議員任期延長について述べたい。先週、立憲民主党の篠原委員に対し、任期満了を迎えた前議員に議員並の特別な身分を付与することが立法措置でできるのか、できるとして、どのような立法が可能なのか伺ったので、本日できれば回答をいただきたかったが、今日はお休みなので別の機会にしたい。

私は、憲法に書いてある議員任期の延長や前議員の身分復活は、やはり憲法改正が必要であり、立法措置で行う場合は違憲立法にならざるを得ないと考える。また、緊急集会の「一時的・臨時的・限界的」な射程が、70日を超えて伸びるとすれば、逆に具体的どこまで伸ばせるのか立憲民主党の考えを伺いたい。立法や解釈では対応が難しいのであれば、そろそろ憲法改正案について議論に入っていただきたい。

次に、9条改正案について述べたいが、まずは、議論を拡散することなく、議員任期の延長について成案を得ることに集中して議論を行うことを新藤幹事にお願いしたい。せっかく意見がまとまりつつあるのに、生煮えで次のテーマに行くことは避けてもらいたい。

このことを申し上げた上で、9条改正について言えば、国民民主党は、せっかく9条を改正するなら、国家・国民を守るため、国家にいかなる軍事的公権力の行使を認めるべきか、と言った本質的な議論が必要だと考える。よって、9条を改正する以上は、自衛権の範囲を明確にする改正とすべきである。

今日も自民党や維新の会の意見を聞いて思うのは、せっかく国会で憲法改正条文を議論しているのに、その本質は、「自衛のために必要な措置は、閣議決定と閣法で定める」ことを定めようとしているだけではないか。

自民党案は、改正後の9条2項の解釈を「維持」するとしているが、そもそも、その維持すべき「解釈」とは、具体的に何を指すのか。北川幹事からも平和安全法制制定の時に、9条2項の解釈をめいいっぱい広げたとおっしゃっていたので、その維持すべき解釈とは「新3要件」ということでいいか。そして、その解釈は、改正後も維持するとして、その解釈はいったい誰が確定させるのか。内閣法制局なのか、あわせて伺う。

維新の9条改正案も9条2項の解釈の範囲内とし、その内容は閣議決定や法律で定めることとしている。しかし、その解釈は必ずしも「新3要件」ではないとしているが、その理解でいいか。当時の維新の考えは「新3要件」よりも狭かったと認識している。

次に、共産党にも伺いたいのは、何を持って御党は自衛隊は「違憲」だと主張しているのか。92項が「陸海空その他の戦力はこれを保持しない」としていることが根拠か。ご教示いただきたい。

なぜ、こうした質問をするとか言えば、自民党の改正案では、改正後もなお、自衛権行使の範囲については、結局、「解釈」に委ねられているため、仮に、自衛隊の組織名を明記することで、自衛隊という組織についての違憲論は消えたとしても、その自衛隊の行使する自衛権の範囲については、それぞれの政治的立場で解釈が異なり違憲論が消えない可能性がある。やはり、国防規定を定めるにしても違憲論がつきまとう情けない国防規定になるのではないか。やはり、「労多くして益少なし」の改憲となる可能性を否定できない。

9条を改正し、自衛権行使の本質を議論するのであれば、やはり、情緒論ではなく、論理的帰着として戦力不保持を定めた92項を削除するか、あるいは、残す場合であっても、少なくとも92項の「範囲内」ではなく「例外」として戦力の保持を認める書き方にすべきではないのか。さらに、自衛隊を「軍」、自衛官を「軍人」として位置付けなくていいのか、国際法と整合性ある形の規定にしなくていいのかなども含めて、より本質的な議論を深めるべきだと考える。

自衛権の解釈が変わらないのであれば、その維持すべき「解釈を明記」することを提案したい。日本国憲法は、規律密度が低いから細かく書くべきではないと言うが、逆に言えば、それは「新3要件」を超える解釈が出てくる余地を残しているとも言える。もしそうなら、そのことを正直に国民に説明すべきではないか。自衛権の解釈が変わる可能性があるのに何も変わらないというのは正直ではない。

なお、2020年12月にまとめた国民民主党の憲法改正に向けた論点整理では、自衛権明記の方法として、

3要件を明記する案

3要件を明記する案、そして

③旧3要件のうち「我が国に『対する』急迫不正の侵害」を「我が国『とっての』急迫不正の侵害」として、一部集団的自衛権も読めるようにする案

を検討することにしている。こうした「自衛権明記案」について、各党会派のご意見をも伺いたい。

最後に、ネット広告規制について申し上げる。何らかの規制は必要だと考えるが、それは国民投票法だけでなく、また「広告」という範囲も超えて、もっと幅広く議論する必要があると考える。特に、チャットGPTなど生成AIについての規制のあり方については、現在、まったく手付かずである。

例えば、憲法9条は改正した方がいいですか?との問いかけにチャットGPTがどう答えるのか、その答えの正確性・公平性はどう担保されるのかも考えていかなくてはならない。また、AIに学習させる情報や主張によっても回答が変わってくるので、人間のみならず、AI自身もバランスの取れた情報について学習する環境整備が必要である。

その意味で、私たちが適切に「思想・良心の自由」を形成できるよう、チャットGPTも含めた幅広い規制のあり方を議論することを提案したい。

以上


編集部より:この記事は、国民民主党代表、衆議院議員・玉木雄一郎氏(香川2区)の公式ブログ 2023年4月21日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方はたまき雄一郎ブログをご覧ください。