ロン・デサンティス フロリダ州知事は次期大統領選の最有力候補の一人とされます。そのデサンティス氏が日本に25日まで滞在し、岸田首相らと会談をこなしています。同氏を日本に招いたのは在アメリカ日本大使館の力量とされます。個人的にはトランプ氏が大統領に当選した際、日本の政界にトランプ氏とのパイプがほとんどなく、非常に苦労したという反省からきたものもあると思います。故に出馬表明をしていないデサンティス氏がまだ動きやすく、統一地方選が終わり、今週後半から閣僚が外遊に出てしまう前の今しかタイミングがなかったとも言えます。
カナダのCBC(国営放送)がつい最近、デサンティス氏について大々的に取り上げていました。記事のトーンとしては「大統領選は厳しいのではないか?」というネガティブなトーンの内容でした。CBCがリベラル寄りなのでガチガチの保守派であるデサンティス氏の言動に一定の防御線を敷いているのでしょう。また、トランプ政権時代はカナダにとって良い思い出より嫌なイメージが強かったと思います。特にトルドー首相はトランプ氏からバッシングを受けるなど、そりが合わないことをしばしばあり、カナダはトランプ氏政権時代を未だに「やりにくかった時代」と考えている節もあります。
カナダは国家全部が中道左派ではないですが、圧倒的に民主派が強いのは移民国家であり、移民の人権尊重を基盤としているからです。その点、トランプ氏が強い保守でいわゆるブルーカラー層と特定宗教グループを取り込んでいる点において差別的であるとみているわけです。この観点をアメリカにそのまま移行してみるとアジア系とヒスパニック系が多い西海岸では保守的思想は受けが悪く、移民層が多いニューヨークも票は割れやすくなります。ただ、アメリカ南部と中部は保守的で今ではあまり聞かないかもしれませんが、WASP(White Anglo-Saxon Protestants)という白人至上主義はメンタル的にまだ残っており、よそ者排除の思想は相変わらず強いと考えています。
日本でも自民党、ひいては保守層が強いというのはほぼ単一民族であり、民族を守る=日本を守るという姿勢に繋がりやすいからでしょう。仮に日本の選挙戦で候補者が「移民を増やす」と叫んでも当選する土壌は無いでしょう。アメリカの保守とはそんなイメージなのです。
さて、デサンティス氏が大統領選で本当に有力候補になれるかですが、現状、2つのハードルが状況を難しくしているのではないかとみています。1つは共和党内での攻防です。氏はもともとトランプ氏に引き上げられたのですが、その後、強い政治姿勢と州民からの支持でトランプ氏の後継者になりうるという世論の追い風を受けます。それを受けてトランプ氏が態度を180度転換、「非常に不誠実で平凡な知事だ」(NHK)としています。つまり、激しい党内でのバトルが予想される中、候補者が絞られた時点でトランプ氏と同類項のデサンティス氏がトランプ氏より秀でているのは年齢が若いだけ、ということになりかねないとみています。
共和党の大統領選候補者の絞り込みについては現時点では誰も予想できないでしょう。理由はトランプ氏を巡る司法とのバトルは始まったばかりで先日の起訴は1/4に過ぎないのです。この先あと3つあり、かなり厳しい防戦を強いられるであろう議会襲撃事件と機密書類持ち出し事件は、わざと大統領選に合わせたタイミングで持ってくるはずです。
その時、国民、及び共和党員がどう変化するか考えた時、より中道になる可能性はあるとみています。対中国については高度な戦略と心理戦が想定されますが、アメリカが中国と一旦対話路線に振り戻すことがないとは言えません。中国側の「意図的な軟化政策」です。中国としてはトランプ氏のような強硬な大統領よりも民主党出身、ないし中道派の共和党出身者の方が都合がいいのです。この辺りは専門家も指摘してないと思いますが、外交戦略からすれば当然視野に入るオプションです。
デサンティス氏のもう一つの弱点はあまりに極論過ぎるのです。彼は4月に妊娠中絶禁止の法律について厳格化し、6週目以降は禁じてしまいました。6週目では医学的にギリギリわかる範囲かどうかのところです。一部メディアはこれを囃していますが、宗教的背景の支持者層の取り込みに過ぎず、アメリカ全体としてはネガティブでしょう。
またLGBTQに関する規制も向かい風でしょう。フロリダ州では今まで小学校3年生までに規制されている性の自覚の認識について高校3年生までそれを拡大したのです。つまり自覚があっても「自分は〇〇だ」とカミングアウトしてはいけないのです。故にこの法律が「Don’t Say Gay法」と揶揄されているのです。挙句の果てにこれに反対したフロリダに大きな施設を持つディズニー社に対して「50年以上に渡ったお前のところの税優遇措置を取り上げる」と署名をしてしまったのです。これはあまりにも公平感に欠いているとみられるでしょう。
事実、氏の支持率は着実に下落しています。言えば言うほど、やればやるほど支持者が離反している状態です。若さゆえの極論と聞く耳を持たない姿勢はフロリダでは支持されても全国区になれるのか、相当の試練というのが現状のようです。
東京に来て首相や外相との会談は果たして将来、有効なものになるのか、もう少し時間を要するようです。
では今日はこのぐらいで。
編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2023年4月25日の記事より転載させていただきました。