経営者をサポートする士業と呼ばれる専門家がいます。難関資格を保有する専門家として尊敬を集める一方、同じ資格保有者でも仕事内容や方針、そして能力も当然異なります。
「同じ資格保有者でも、言われたことをやるだけの受け身の士業と、積極的に提案、アドバイスをしてくれるプロ士業がいる。料金と品質、コスパで厳しく見極めて使い分けると良い」
このように語るのは士業向けの経営コンサルタントで、自身も士業(行政書士)である横須賀輝尚氏。
横須賀氏の著書「会社を救うプロ士業 会社を潰すダメ士業」から、プロ士業の見抜き方を再構成してお届けします。
「ダメ士業」と「プロ士業」
「士業」と聞いてどんなイメージを持ちますか?
士業(しぎょう)はさむらいぎょうとも呼ばれますが、有名なところでは弁護士、税理士、会計士、社会保険労務士、司法書士、行政書士、中小企業診断士など、資格名の最後に「士」がつくものです。
資格によって、そして同じ資格保有者でも人によって仕事の内容もやり方も大きく異なりますが、一般的な士業のイメージは以下のような感じでしょうか。
- 知識はそれなりに持っている
- でも、プライドも敷居も高そう
- 知識はあるのかもしれないけど、頭でっかちかなぁ…
- 法律的な手続きはそつなくやってくれる
- ただし、何か積極的な提案をしてくれるかというと、そうでもない
- 相談したら「できますよ」って言われること多いけど、率先して教えてはくれない
- アドバイスを求めても、教科書的で頼りにならない
- ITリテラシーが低い
と、まあこんなところではないでしょうか。おおよそ正解です。これに「デリカシーがない」「社会常識がない」「口ばっかり」「最後は逃げる」を加えていただいても良いでしょう。
ただし、これはすべての士業を指して言っているのではありません。悪口ばかり書いているように見えたかもしれませんが、プロ意識のない、代行業者的な士業にはこのような指摘が当てはまってしまいます。プロ意識の高い士業にこんなことはありえません。
ここでは士業または士業に隣接する法律的実務を扱うコンサルタントを総称して「プロ士業」と呼びます。プロ士業なら以下のような仕事をしてくれます。
- 資金調達のアドバイスを行い計画も立ててくれる。資金の悩みは皆無(税理士、資金調達コンサルタント)
- 訴訟まで見越した高度な労務管理をしてくれる(社会保険労務士)
- スタートアップに必要な高度な登記、M&A、ストックオプションの対応をしてくれる(司法書士)
- 助成金の提案と受給計画を立てて、常に助成金が入る(社会保険労務士)
- もらえる補助金をすべて調査し、教えてくれる。もちろん採択される(補助金コンサルタント)
- 極めて専門性が高く、また広範囲から法律リスクを教えてくれる(行政書士)
- 常に法律改正・新法施行を含んだビジネスチャンスを教えてくれる(全般)
- 人脈ハブとなって、取引先や顧客を紹介してくれる(全般)
- ITに強く、連絡手段はLINE、ChatWork、Slack、Zoom、Skype、あらゆるツールで対応可能(全般)
要は資金調達から労務管理、補助金にその他様々なアドバイスで売上を伸ばすサポートをしてくれる、それがプロ士業です。
代行業者的な士業への依頼は単なるアウトソーシング、プロ士業への依頼は高度なコンサルティング、そんな違いとも言えます。
そのほか、ChatGPTなど、AIやRPAなどへの理解があると将来的に有望な士業といえるでしょう。
税理士の「相場」はいくら?
企業の規模によって大きく異なりますが、例えば、税理士に年間200万円の税務顧問料を支払っていたとしましょう。個人の税理士事務所であれば、だいぶ高額な部類に入ります。しかし、この税理士に依頼することによって年間数百万円以上の節税ができ、同じく年間数千万円の資金調達ができるなら安いものです。つまり金額の高い低いではなく金額に見合った仕事をしてもらっているか。これがポイントになります。
検索すれば山のように税理士事務所のウェブサイトがヒットします。その中には顧問料月額10,000円を切るような格安の事務所も多々あります。では、この格安事務所がベストなのかといえば、そうではありません。
格安事務所は基本的に記帳代行(会計ソフトへの入力等)はしてくれませんし、試算表(月ごとの決算書)作る程度です。要は経理をチェックしてまとめてくれるだけ。当然、節税なり資金調達なりの提案は皆無です。そりゃそうで、10,000円を切る金額で高度なコンサルティング求めるのは無茶な話ということ。
無駄な報酬額を支払っている可能性が最も高いのは、70万円~100万円程度の年間顧問報酬を支払っている場合です。なぜなら高度なコンサルティングを受けられるほど高くはなく、かといって代行業としては割高だからです
もちろん、規模や内容によってサービス内容は様々です。あ、ちなみに知ってました? 税理士だからといって、すべての税理士が同じ仕事をしてくれるわけではありません。つまり同じ月額3万円でも内容は違いますから、価格で比較するのは実にナンセンス。内容を先に見る必要があるわけです。
詳しい内容の差と選択基準は別の機会に譲りますが、年間100万円程度の報酬を支払っていて、試算表と決算申告書の作成、確定申告代行だけなら、その税理士はサボり過ぎの可能性があります。資金調達の提案、節税の提案、こういった提案があってしかるべき。もっと働かせないともったいないということになります。
要は報酬額に見合ったサービス、報酬額を超える結果を求めた方が良い、という当たり前の話です。もっとも、税理士には何も求めていない。ただ経理のチェックだけしてくれればいい、そういう趣旨であれば、格安の月額10,000円以下の税理士事務所でも十分です。
税理士が読んだら怒りそうな書き方かもしれませんが、どんな商品でも価格と品質のバランス、コストパフォーマンスが顧客から厳しく見られるのは当然です。いうまでもなくこの話は士業にも当てはまります。
特定の資格の保有者しか出来ない仕事を「独占業務」と言いますが、ほとんどの士業には独占業務があります。資格試験によって品質が担保されているということにはなりますが、一方で一度資格を取ればよっぽどの事が無い限り業務停止や資格剥奪といった事はないため、低品質の士業でも潰れずに生き残っている場合もある、なので見極めには注意を、という説明になります。
年間120万円の顧問料で、3億円の資金調達に成功するコンサルタント。
例えば年商3,000万円の企業に対して3億円以上の資金を調達できるコンサルタントなどは、税理士と顧問報酬を比較するには良い例です。あくまで資金調達に特化したコンサルタントですからそれ以外の事はやりません。
ところが顧問契約を依頼すれば、企業規模にもよりますが年間数千万円の資金調達が可能になります。規模によっては数億円の資金調達を可能にすることも当然あるわけです。
この場合、月額10万円、年間にして120万円の顧問報酬って高いと思いますか?私にとっては激安です。だって、何億資金調達しても、120万円だけ支払えばいいのですから。
少し話を広げると、資金調達は融資の場合もあれば、雇用に関わる補助金(助成金)、企業向けの補助金など多種多様です(それぞれ必要な資格や得意とする士業も異なります)。
かなり話題になったので聞いたことがある人もいるかもしれませんが、コロナ禍では「事業再構築補助金」といって最大1億円の補助金が貰える制度も出来ました。様々な制約はつくものの、あくまで補助金なので返済の必要もありません。
当然、高額な補助金であるほど難易度は高まりますが、こういった補助金を貰えるかどうかで企業経営の有利不利は大きく変わるわけです。
雇用のプロ、社労士が求められる仕事とは?
例えば、社会保険労務士。言わずとしれた、労務のプロですが、世間的な認識としては、社会保険・労働保険の手続き、給与計算のアウトソーシング先、助成金申請代行。そんな認識が強いでしょう。
社員が新しく入社した、退社することになった。そういうときに来てもらう、遠慮なく言えば「手続き屋」さんというイメージで、、実際そうであることが多数です。
ところが、プロ士業の社会保険労務士は手続きがメインの仕事ではありません。プロの社会保険労務士は手続き以外に力を発揮します。
例えば問題社員がいたとします。仕事に対するモチベーションも低く、ほかの社員に悪影響。しかも気性が荒く頭の回転だけは良いので、勤務態度を指導すると理路整然と反論してくる。加えてほかの社員に会社の悪評を吹き込む、あるいは部下にはモラルハラスメントのような言動も見られる。ほかの社員からはその社員の言動を理由に辞めたいという苦情相談まで……。
こういった労務問題も社会保険労務士の業務範囲です。そこで社会保険労務士に相談してみると、多くの場合こんな回答がかえってきます。
- 当該社員との面談の時間をとってください
- そこでは勤務態度について指導を行ってくだい
- 期間をおいて改善されないようならもう一度指導を行ってください
- それでも改善されないようなら期限を切ってもう一度指導を行ってください
- 減給、勤務停止などは不利益変更に当たるのですぐにはできません
- 辛抱強く指導を続けてください
若干誇張も入っていますが、おおよそ普通の社会保険労務士ならこんな回答になります。 これを見てどう思いますか? 経営者でなくとも「まあ、そうなんだろうけど何の解決にもなっていないよな…」と感じるのが普通です。そう、この回答は法的に間違ってはいないくてもほぼ0点の回答と言ってもいい。
ではプロの社会保険労務士ならどう回答するでしょうか? 問題社員の程度によりますが「解雇しましょう」と判断してくれるのがプロ士業です。
もちろん解雇はよほどの条件が揃わないと不可能であることは言うまでもありません。安易な解雇は労基署に通告される可能性もあります。しかしながら、退職してもらうためには解雇だけが手段ではなく、退職勧奨もありますし、配置転換などもあります。
何が言いたいのかというと、前者の回答は「ただ労基法を守った上での助言」にしか過ぎず、後者は会社が健全に経営を続けていくためのアドバイスだということです。
「解雇、退職勧奨は言い過ぎなのではないか?」という意見もあるかと思いますが、問題社員がいることでほかの社員が辞めたら目も当てられませんし、経営に悪影響がでたり、倒産してから後悔しても意味がありません。
これは問題社員はさっさと解雇すべきとかそういった話ではなく、質問に答えるだけではなく積極的にアドバイスや提案をする、そして経営全体を見て労務的な判断をしてくれる。これがプロの社労士であり、プロ士業である、ということです。
多くの士業は、相談したら答えてくれる。そういうスタンスです。でもそれは、こちらが考えた上で相談しなければ、適切な回答が出ないということでもあります。先日『ChatGPTは、弁護士や税理士など士業・専門家の相談業務を奪うのか?』という記事でも書きましたが、そのようなスタンスなら今後はChatGPTかBingに聞けば十分ということになりかねません。
プロ士業とは「依頼者の状況を踏まえた上で、自分の意思と責任を持って、判断と提案をしてくれる専門家」ということになります。
聞いたら答えてくれる人と、聞かずとも積極的に考え、提案してくれる人。どちらが優秀か? 結論はもう、出ていますよね。
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横須賀 輝尚 パワーコンテンツジャパン(株)代表取締役 WORKtheMAGICON行政書士法人代表 特定行政書士
1979年、埼玉県行田市生まれ。専修大学法学部在学中に行政書士資格に合格。2003年、23歳で行政書士事務所を開設・独立。2007年、士業向けの経営スクール『経営天才塾』(現:LEGAL BACKS)をスタートさせ創設以来全国のべ1,700人以上が参加。著書に『資格起業家になる! 成功する「超高収益ビジネスモデル」のつくり方』(日本実業出版社)、『お母さん、明日からぼくの会社はなくなります』(角川フォレスタ)、『士業を極める技術』(日本能率協会マネジメントセンター)、他多数。
会社を救うプロ士業 会社を潰すダメ士業 | 横須賀輝尚 https://www.amazon.co.jp/dp/B08P53H1C9
公式サイト https://yokosukateruhisa.com/
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編集部より:この記事は「シェアーズカフェ・オンライン」2023年4月30日のエントリーより転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はシェアーズカフェ・オンラインをご覧ください。