人口減少、悲観する必要はない

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4月26日、国立社会保障・人口問題研究所が「日本の将来人口推計」を発表した。この中で、2070年の総人口は現在の約7割の8700万人程度になると予測され、国力衰退への懸念が広がった。たとえば、日経新聞は「人口規模を保てなければ国力は縮みかねない」と指摘する(有料記事「2056年に人口1億人割れ、70年に3割減の8700万人」2023年4月26日)。

人口動態は国家の経済成長、社会や政治のありようを左右し、国のかたちを規制するといっても過言ではない。事実、中国と近年成長著しいインドの経済力は、まさにその並外れた人口規模が大きく貢献している。したがって、人口減による経済規模の縮減は、経済の低迷に一層の拍車をかけ、日本の国力を著しく衰退させるという暗いシナリオを描き出す。

しかしながら、国内総生産(GDP)だけで国の真の豊かさを測ることはできない。わけても、その国を構成する人びとの暮らしの豊かさはみえてこない。たとえば、GDP第2位の中国は、途方もない大金持ちが目立つ一方で、国民を総じてみた場合、生活の余裕や豊かさを感じることはできない。

そこで、国連は、国家の経済規模ではなく、国民が健康で、その持てる能力を活かすことができ、推し並べて質の高い生活を享受できているかに注目する「人間開発指数(Human Development Index、以下 HDI)」を提唱している(UNDP)。

HDIは、国民の健康状態(平均寿命で測定)、知識力(期待就学年数+平均就学年数)、一人当たり国民総所得(GNI per capita、現在の国際的なドルで表示)の3つの指標に基づいて、最高点の1から最低の0までの値で評価する。

下表は1位から11位までの10カ国と日本を並べたものである。4位には香港がランクされているが、ここでは国家に限定するために除き、代わりに11位のフィンランドを加えた。

1のHDI順位出典:Eustat(Human development index by indicator according tou country.2022)
2の出典:アイスランド(2021年)のみWorld Bank、他はOECD Data
3の出典:外務省国地域
4~8の出典:OECD Data

表でまず目を引くのが、上位10カ国の人口規模である。1億を超える国はなく、最も多いドイツでも8300万人、アイスランドに至ってはわずか34万人である。

他方、一人当たり国民総所得は高く、最も高いノルウェーは日本の2倍近い。なお、GDPが1位のアメリカのHDIのランクは191ヵ国中21位、中国は79位である(UNDP, Human Development Insights)。

HDI上位国はどのような人口動態を示しているのであろう。表に出生率、人口に占める移民(本人もしくは親が外国生まれで、当該国に定住し、市民権/国籍を持つ人)の比率、高齢化率、さらに高齢化問題への対応策としての年金受給開始年齢及び高齢者就労率を示してみた。

日本に近い動向のフィンランド以外の9か国は、幅はあるものの、似通った傾向を示す。すなわち、人口の高齢化が進行しているものの、出生率はノルウェーを除き1.5以上を維持している。この出生率にはおそらく移民の受け入れが影響している。

移民は一般的に若く、結婚・出産年齢にあることに加え、母国の文化的背景や生存本能から子どもを多く産む傾向にあるため、出生率上昇に貢献する。だが、子ども、孫と世代を重ね、当該国の文化や社会習慣に一体化してくると、出生率は低下すると言われている。

したがって、これらの国の安定的な出生率は非移民女性によってももたらされており、彼女たちの積極的な出産・子育てを後押しするのが社会サービスの充実、生活のゆとり、そしてジェンダー平等である。

年金支給開始年齢(退職年齢)は、スイス以外は65歳から67歳、受給年齢の引き上げ(62歳から64歳)で大騒ぎをしているフランス人に教えたいデータである。もっとも、高齢者の就労率については幅が大きい。なかでも、アイスランドは、高齢者の3人に1人が就労する。これには67歳という年金開始年齢も影響しているが、同じ67歳のノルウェーの就労率はその半分以下なので、やはり労働意欲が関係していると思われる。

高福祉国家の彼の国の年金が他の先進国に見劣りするとも考えられないので、高齢者も積極的に経済活動に携わり、国の繁栄に貢献するという観念が浸透しているのかもしれない。

人口減少は必ずしも暗い未来ではない。鍵は、ジェンダー平等と多様性を受容し、高齢者活躍を促進して経済と社会の活力をより高め、いかに一人当たり国民総所得を引き上げるかだ。目指すべきは、某社会学者が発言したという「平等に貧しくなろう」ではなく、平等に豊かになろう、である。