武器ではなく真っ向から言論で闘ってほしかった、岸田首相襲撃犯

田原総一朗です。

4月15日、僕は89回目の誕生日を迎えた。家族や仕事仲間、毎月開いている「田原カフェ」のスタッフら……多くの人たちに祝ってもらった。この歳で健康で元気に仕事ができる、そしてそのことを祝ってくれる、親しい人たちがいる。こんなありがたい老後があると、夢にも思わなかった。

若い頃は誕生日など関係なく、感慨を覚えることもなかった。だが、歳を重ねるごとにと、元気に仕事ができること、食べられること、人と話せること、日常すべてがありがたい、そう感じるようになってきた。

それはロシアとウクライナの現状を見ても思う。戦争という愚かな行為によって、日常が突然なくなってしまう。当たり前に見えて、すべて当たり前ではない、まさに「有難い」のだ。あらためて、日本が戦争をしないために、これからもがんばらなくては、と誓ったのである。

その同じ日、大事件が起きてしまった。和歌山県で遊説中だった岸田首相に、24歳の青年が爆発物を投げつけた。かばんには刃物も入っていたという。動機はいったい何なのか。

容疑者は24歳、参議院選挙に立候補しようとしたが、「被選挙権30歳以上」という年齢制限に阻まれ、そのことを不満に思っていた。ただ、だからと言って、岸田首相を襲うだろうか。

最近「ローンオフェンダー」という言葉を耳にするようになった。組織には属さない個人が、何らかの不満を解消するため、テロ行為に走ることを言うらしい。この「ローンオフェンダー」が連鎖しないか、非常に心配である。

事件後、岸田首相襲撃の容疑者は、被選挙権の年齢制限、供託金制度などは違憲だとして、2022年6月、神戸地裁に提訴していたことがわかった。しかも弁護人を立てない、本人訴訟である。

政治や選挙制度に不満を持つ、それはあってよいことだと思う。そして彼は本人訴訟によって、真正面から国にぶつかろうとした。それだけの力があるのだ。

そんな青年が、なぜこんな凶行に走ってしまったのか。ほんとうに日本を変えようと思うなら、言論の力でとことん闘ってほしかった。発信の方法はいくらでもある時代なのに。若い学生たちを教えて来た身としては、とても、とても残念である。


編集部より:この記事は「田原総一朗 公式ブログ」2023年4月28日の記事を転載させていただきました。転載を快諾いただいた田原氏、田原事務所に心より感謝いたします。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、「田原総一朗 公式ブログ」をご覧ください。