米国の内憂外患「外患」編:「キャラバン」による不法移民問題

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タイトル42の廃止で米国は「キャラバン」入国し放題?

前稿の「ブラック・ライブズ・マター(Black Lives Matter; BLM)」運動は米国内における破壊工作であったが、今回は米国社会を外部から分裂させ、弱体化させる動きとして、通称「キャラバン」と呼ばれる不法移民入国の問題を取り上げたい。

(前回:米国の内憂外患「内憂」編:報道されないブラック・ライブズ・マター

この「キャラバン」とは、中南米から米国国境を目指す移民目的の集団であり、1グループあたり1,000人以上に膨れ上がるとも言われている。2022年には過去最多となる276万人がこの「キャラバン」に参加して米国に不法入国したと報じられており、公式データでも2022年12月にかけて国境警備隊が不法移民に遭遇する人数が急増していることが見てとれる。

中南米から米国への不法移民が急増したのは、米国政府が2023年5月に「タイトル42(Title 42)」と呼ばれる公衆衛生法の条項を廃止すると公表したことが原因だ。「タイトル42」とは「伝染病(現在は新型コロナ)を持つ可能性のある国の人の米国入国を阻止することができる」と規定した法律であり、不法移民の中に新型コロナ感染者がいて施設内で集団感染することがないよう、トランプ大統領時代から運用されていた。

この「タイトル42」導入以前は、不法移民が国境で捕まってもその場で直ちに難民申請すれば米国国内で釈放される事もあったのだが、この導入により難民申請すら許可されずに追放の措置が取られるようになっていた。

米国では以前からこの「タイトル42」を廃止しようという動きがあったが、しかし国内の強い反発を受けて廃止そのものは一時見送りになっていた。しかし今回、一転して2023年5月に「タイトル42」の廃止が決まったことで、米国に不法入国を試みる人が急増することが危惧されている。

実際、2023年4月のパナマにある「キャラバン」出発地では、ベネズエラ、ハイチ、ペルーなどからの「キャラバン」参加者が続々と集結して米国を目指す様子が報道された。これらの報道を受け、パナマ、コロンビア、米国は共同でパナマのダリエン地峡に通じるジャングルの道を閉鎖することを公表しているが、すでに米国を目指している人は数多くいると見られている。

米国への移民を目指す「キャラバン」の旅路は非常に過酷なものであり、死を含む多くの危険と隣り合わせだ。それでもそんな「キャラバン」への参加を決意するように人々を駆り立てるのは、どのような動機なのだろうか。以下に、筆者が実際に話を聞いた中米(ニカラグア)および紛争地の中部アフリカの事例を紹介したい。

「キャラバン」参加者:中南米

最近「キャラバン」の送り出し国の一つに挙げられることも多いニカラグアで教師をしているニカラグア人の知人に同国の状況を聞いた。

ニカラグアは経済的にも厳しい状況にあるだけでなく政治腐敗が深刻であり、市民は諦めの境地にあるとのことだった。例えば、ある時その知人の自宅が空き巣に入られたので警察に通報したところ、なんと警察からは「車に必要なガソリンがないのでお宅に行けません」と、にべもなく「お断り」されたそうである。

警察に助けを求めても応じてくれないとすれば、誰に助けを求めたら良いのだろうか。知人は「もし私が『あそこの○○さんは反体制派らしい』と密告したら、警察は即座に急行するのに」と憤慨していた。

このような腐敗体制下では自国に見切りをつけ、少しでも良い状況になるのであればと考えて「キャラバン」に参加する人がいてもおかしくはないだろう。

また中南米では、ニカラグアならずとも貧困から脱却したいという経済的な動機で米国行きを希望する人も多い。例えばホンジュラスの場合、海外在住のホンジュラス人からの祖国への送金額が非常に大きいことから、政府による「キャラバン」取り締まりが甘い傾向にあるとも指摘されている

アフリカからの「キャラバン」参加者

一方、この「キャラバン」への参加者は、中南米だけではなく、遠くアフリカから参加する者もいるという。

筆者は数年前、政府軍と反政府派との間で戦闘が続いていたあるアフリカ中部の紛争地に赴き、多くの現地人と話をしたのだが、そこでの生活は大変に悲惨なものであった。

現地では紛争が激しい時期には長ければ数ヶ月にわたって戒厳令が敷かれ、その間、ほとんど外出できない状況になるのはもちろんのこと、周囲で銃撃戦が発生すると流れ弾が家の中に飛んでくるため、家の中でも身を屈めて生活しなければならない状況だったという。また焼かれた店舗も少なくなく、それらに対する政府などからの補償も一切ないとのことであった。

筆者の場合、もちろん事前の情報収集分析を行い、戦闘が少し落ち着いたとされる時期を選んで入国していたわけだが、それでも「この日は外を動くものは何であれ、撃たれても文句は言えない」と言われる日もあり、移動のタイミングには注意する必要があった。また、街中は軍の装甲車が轟音を立てて走り、町と町の間は軍や警察官の検問(および賄賂の要求)が頻繁に行われていた。その紛争地においては、これでも「落ち着いた」状況だったのである。

そんな状況に嫌気がさした住民の一部は、主に二つのルートを使って豊かな国を目指し脱出をしていた。

第一のルートは砂漠を越え、地中海を渡り欧州にたどり着くパターンだ。そしてもう一つのルートは、パスポートを持って中南米に飛行機で渡航し、そこから「キャラバン」に参加する方法である。

アフリカ圏のパスポート保持者には渡航時にビザの取得を求める国も多いが、中南米の国の中には渡航にビザを必要としない国もあるので、そういった国を目指すのだそうだ。まさかアフリカから「キャラバン」に参加する者がいるとは考えもしなかったが、いずれにせよ命懸けである。

「キャラバン」を支える黒幕

そんな「キャラバン」自体はもちろん観光旅行などではないわけだが、しかし中南米諸国からそんな長距離を長い間かけて移動するには当然、食費や宿泊に多額の資金が必要となるはずだ。さらに、合計数百万人にものぼる貧しい人々が、互いに示し合わせることなく自然とどこかで落ち合い、また米国の国境に向けて共に大移動を行うということは考えられないわけで、その背後には組織的な支援があると考えるのが妥当だろう。

実際、「キャラバン」の移動のためにキャンプ場が各地に整備され、キャンプ場への地図まであることが現地からの報道により明らかになっている。これほどの人々が大挙して入国することは受け入れ側である米国に経済的、そして社会的に大きな負担を強いることは明白だが、これほど組織だった「キャラバン」を財政的に支援しているのは誰なのだろうか。

もし「キャラバン」を密かに支援している人物なり組織がいるのだとしたら、彼らは「キャラバン」への金銭的支援でさらなる得をし、その上で米国に経済的負担を与えることで利益を得る立場にある者たちだろう。

一説によれば、著名な投資家であるジョージ・ソロス氏が、自身のオープン・ソサエティ財団を通じて現地の「キャラバン」支援団体に金銭的な支援を行っているのではないか、とも言われている。なお、オープン・ソサエティ財団は前稿で取り上げたBLMにも約340億円を寄付している

ジョージ・ソロス氏は、2003年のジョージアにおけるバラ革命のように、民主化のスローガンを掲げて自分が気に入らない外国政府を次々と転覆する、いわゆる「カラー革命」に深く関与してきたと言われている。

それによって、ソロス氏やその取り巻きたちにとって都合の良い人物が政権を乗っ取り、新たな権力者になってきたわけだが、ソロス氏がこの「キャラバン」やBLMに資金援助をする目的もまた、ヒト(つまり安い労働力)・モノ・カネの自由な移動によって一部の富裕層をさらに豊かにするグローバリズムを推進するため、さまざまな規制を持つ米国の法体系そのものを弱体化することにより、ソロス氏らのビジネスにとって都合の良い「開かれた社会(オープン・ソサエティ)」を作ることにあるのではないか、とさえ見られているのだ。

事実、「キャラバン」は米国内の人口の多くを中南米からの不法移民に置き換えることで米国の文化や伝統を破壊しつつあるわけだが、識者の中には、これぞまさに世界経済フォーラムが謳う「壮大(グレート)なる仕切り直し(リセット)」の計画の一つなのではないか、と解釈する人もいる。

つまりこれは「作り出された人道危機」であり、「移民の武器化」による米国社会や保守派勢力の弱体化工作に他ならないわけだが、そんなソロス氏とも気脈を通じているバイデン政権自体がこの中南米からの「キャラバン」を密かに支援しているのではとする声もあるようで、この問題の闇はかなり深いと言わざるを得ない。

もちろん、こんなバイデン政権のやり方に怒りを感じている米国人は増加しているようだ。実際にある識者は、「現在はラテンアメリカの国々でコロンビアやブラジルなどが続々と左翼的で全体主義になりつつあるが、米国も同じ状況である。

今は他国から米国への移住希望が相次いでいるが、米国の国策に変化がなく、状況が悪くなれば米国から他国へ脱出しなければいけない、『逆キャラバン』の事態となることもあり得る」との懸念さえ示している。つまり、米国民自身、とりわけグレートリセットに反対する草の根保守層の人々が、自国を捨てて他国に逃げ始めるかもしれない、というわけだ。

一方で、第二次世界戦争における敗戦とその後のGHQによる統治を経て以来、我が国では経済政策や外交安全保障政策のみならず、文化面や社会面においても米国からの影響を強く受けてきたわけだが、私たち日本人は、こんな内憂外患の状態を多く抱える米国が急速に左翼全体主義的な傾向を強め、ある意味で弱体化しつつあるらしい現実を、危機感を持って認識すべきであろう。

実際、「ESGの兵器化」の記事で紹介したように日本も左翼全体主義的な傾向とは無縁ではなく、米国の状況は決して対岸の火事ではないのだ。