朝日新聞オンラインが記事「「私は使い捨て」雇い止めの東大助教 50代で直面した研究界の現実」を5月8日に配信した。有期雇用の助教が任期満了となり、無期への転換は叶わず、雇い止めされた。幸いこの研究者はベンチャー企業に転職できたが、東京大学は科学的成果が生まれるチャンスを「みすみす捨てた」という記事である。
昨年来、研究者の雇い止めは何度もメディアに取り上げられてきた。3月末で一段落したと思っていたが、また、同様の記事が出たわけだ。
なぜ、研究者の雇い止めは起きたのだろうか。
きっかけは民主党政権が主導して2012年に改正した労働契約法である。通算5年を超えて有期雇用を続けると、労働者は無期雇用を求めることができると「労働契約法」第18条に定めたのである。
法律施行5年後に差し掛かった2017年に、5年が過ぎる直前の有期雇用の労働者を雇い止めする事例が多発した。繰り返しメディアも取り上げ社会問題になった。僕は民主党政権の失敗が原因であるとの解説記事をアゴラに載せた。
研究者に対しては、2015年成立の「科学技術・イノベーション創出の活性化に関する法律」第15条の2で、研究者については労働契約法の「五年」を「十年」に読み替えると規定した。研究の強化と活性化のバランスを取ったと厚生労働省は説明している。
このような経緯で、2012年の労働契約法改正から10年後の22年、23年に有期雇用の研究者の雇い止め問題が起きた。民主党政権が主導した労働契約法の改正の悪影響が今になって噴出したのである。
そもそも、なぜ民主党政権は5年たったら無期雇用に求めることができるという法律を作ったのだろうか。その理由はアゴラの記事「論理的に考えられない長妻昭議員」で説明した。
長妻議員は無期雇用原則を企業が守ると信じていたようだが、企業はリスク回避に動いた。5年を超えたら無期雇用と強制されれば、5年未満で契約を解除するのが企業の対応だった。長妻議員は「人件費は固定費」というビジネスの常識を知らなかったのである。
雇い止めされた研究者には同情する。わが国の研究能力を維持していくために、研究者を救う方向に政治が動くように期待する。