先の記事「読売新聞の世論調査「デジタルと社会」が示唆する広報戦略」で、DXを定着させるには政府がプレインランゲージ(平易な表現)の原則に基づいて丁寧に説明する必要があると書いた。
それでは、マイナンバーカードの健康保険証利用について厚生労働省はどう説明しているのだろう。公式サイトを見てびっくりした。プレインランゲージどころではない。アクセシビリティへの対応が決定的に欠けている。
ブラウザEdgeには音声読み上げ機能が付いている。パソコン画面を見ながら、読み上げを聞いてみよう。「他にも紹介ムービーを作成しています。アクセスはこちらから」から読み始めることに気づくだろう。
ページ最上部に二つの動画が掲載され、その下に、他にも紹介ムービーがあると書かれている。だから訴求したいのは二つの動画のはずである。しかし、二つの存在は音声読み上げでスキップされる。視覚で情報が取得できない人は動画の存在に気づかない作りになっている。
致命傷ではないが、「アクセスはこちらから!」の後にURLが直に記載されている。読み上げると「エイチティーティーピー……」と延々聞かされる。
それでは最初の動画を開いてみよう。動画は字幕がオンオフできるので一安心。聴覚で情報が取得できない人にも内容が伝わるようになっている。正しい対応である。
次に進もう。「お問合せはこちら」の下に0120の電話番号が書かれている。しかし、この電話番号は読み上げられない。これも不親切。
さらに進むと六つの箱が並んでる。一行目は医療機関の探し方と保険証利用のメリット。二行目はカードを作り方と保険証利用の申し込み方法。三行目は「持ち歩いても大丈夫?」と「みんなにいいことたくさん」である。
ちゃんと意識して並べる順番を決めたのだろうか。重要なことから順番に、重要なことは同じページで説明し、より詳しくは別ページで説明する、といった閲覧者の理解を促進する原則に沿っていない。様々な能力が低下し始めた高齢者を含め、理解力に限りがある人への配慮に欠けている。
医療機関の探し方をクリックすると何の警告もなく別のページに飛ぶ。一方、別の箱「みんなにいいことたくさん」には「別のページに移動します」と注記がある。注記がある箱とない箱が並んでいるので閲覧者は混乱する。
「健康保険証として利用するメリットは?」をクリックすると二つの図が表示される。「いつもの通院等が便利に」という図と「こんなところも簡単・便利に」という図だが、相変わらず音声読み上げではスキップされる。
二つの図は「見れば理解できる」だろうか。送り手の意図の通りに読み手に伝わるだろうか。図には必ず説明を加えるというのは、プレゼンテーション技法の初歩の初歩である。
というわけで、指摘するのも疲れてきた。ページの下の方はもっとひどい。このページは全面的に作り直すしかない。
高齢者・障害者政策を担う厚生労働省には、情報アクセシビリティについて職員教育からやり直すように求める。
追記:視覚障害者が利用するスクリーンリーダの利用者がチェックしてくれました。動画の位置にiframe要素が使われており、スクリーンリーダNVDAでは動画の存在がわかるとのことでした。