「料理」の投資効果の高さは異常

黒坂岳央です。

様々な機関から出される調査データを見ると、最近自炊をする人が増えていることがわかる。特に男性の急増ぶりが目立ち、「男子厨房に入らず」という言葉は完全に死語となった。

このような現代の状況において、あえて「自炊せよ」という必要性はないかもしれない。すでに多くの人が自炊している。しかし、料理を本気で取り組んでいる人はまだまだ少数派であり、技術を得ることの真の価値は未だ言語化されていない領域もあるのではないだろうか。

手前味噌でおこがましい限りではあるが、本稿執筆の資格を示すために言えば、筆者は料理はそれなりに得意と自認している。

主な和食料理のほとんどはレシピなしで出汁やソースから全部作り、洋食もキッシュからパエリア、ピザや中華料理も作る。薄味で栄養重視の家庭料理を家族全員分、毎日3食作る。最近では料理教室に入会して、見た目にもこだわるカフェ・レストラン料理の上級クラスで「お店を出せるレベル」を追求しているところだ。

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低コスト・時短・栄養

まずは誰もが理解しているであろう、3つの大きなメリットについて取り上げたい。

自炊は低コストである。ただし、これは料理を選ぶ。大きい圧力鍋を用いて野菜中心の和食料理はかなりの低コストになるが、反面ラーメンやキッシュは本格的に作るとかえってコストが高くなる。そのため、コスト面だけで考えると自炊した方が安い料理を選ぶことが肝要である。

次に時短だ。「いや外食の方が手っ取り早いではないか」と反論がありそうだが、自炊は多めに作って冷凍保存することで、1回あたりの提供時間を圧縮できる事実を見落としてはいけない。もちろん、冷凍に不向きで味を損なう肉じゃがのようなものもあるし、ケースバイケースの理解も必要だ。

そして栄養。基本的に外食では栄養よりも味が重視される。必然的に味は濃くなり、炭水化物も多くなる傾向があり、生野菜も提供する店でも鮮度や添加物も気になる。自炊なら保存料や添加物を極力排除した料理を作ることができ、また薄味で塩分や砂糖の使用量を抑えることもできる。

特に育児中の家庭においては子供の食事は極めて重要だ。味は舌の「味蕾(みらい)」と呼ばれる箇所で感じるのだが、子どもの味覚感度は大人の3倍もある上、幼少期の味付けがその後の食の好みに強く影響するため、極力健康食を提供することが望まれるだろう。

知られざる料理のメリット

前のパラグラフでは、多くの人に周知の事実を言語化することに挑戦した。このパラグラフでは筆者の観点であまり一般的に理解されていないと思われるメリットについて取り上げたい。

まずは「栄養の知識」が格段に向上するというメリットがある。自分で料理を作るとなると、栄養バランスを自分で考える必要があるため、「タンパク質は不足していないか?炭水化物が多すぎないか?水溶性ビタミンの栄養は摂れているか?」など、さまざまな点に意識が向く。結果として、栄養について本気で勉強したくなり、詳しくなって健康になる。これも大きなメリットの一つだろう。

昨今「○○だけ食べればOK」のような一点突破主義の極端な食事法がもてはやされがちだ。しかし、栄養について知識があれば、こういったブームに乗って失敗するリスクを減らすことができる。

こうした食のブームはメディアによってプロセスや栄養メリットの訴求が極めて単純化されており、センセーショナルに取り上げられる。後に科学的に間違っていたと否定されてきた歴史がある。この一連のトレンドを頭に入れておけば、結局は極力加工せずあれこれまんべんなく食べるのが一番リスクが小さい、と頭で理解することにつながるのだ。

その他、自分の年齢を考慮した料理も考えるようになる。人間の体は年齢とともに衰え、その年代ごとに不足、過剰になりがちな栄養は変化していく。たとえば高齢者になるとたんぱく質、カルシウム、ビタミンD、食物繊維が不足しがちになる。これは食べ物を噛む力、飲み込む力が弱まることで硬いものや繊維質が多い食材を敬遠してしまうためだとされる。

また、上記で取り上げた味を感じる「味蕾」が加齢とともに減少していくことにより、味を感じづらくなるため濃い味付けを好むようになりがちだ。実際、過去に塩辛い漬物にドバドバ醤油をかけて食べているお年寄りを目撃してびっくりしたことがある。

料理についてメリットを取り上げてきたが、最も大きいメリットは「楽しい」ということだ。料理は趣味として楽しい。調理するプロセスでは、包丁や火の通し方の技術もやればやるほど向上していく。作った料理は即おいしい味わいというフィードバックも得られる。自分が頑張って作った料理を家族がおいしい!おかわり!といって食べてくれるのを見るのは究極の喜びと言っていい。

さらに料理は最高の脳トレだと主張する専門家もいるし、料理の腕前を披露する機会があれば相手から驚くほど印象よく受け取ってもらえたりする。さらに一度身につけた技術は一生涯に渡って効果が持続する。

料理は取り上げ始めるとキリがないほど投資効果が高い技術なのである。一日も早く取得したい技術の一つだ。

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ビジネスジャーナリスト
シカゴの大学へ留学し会計学を学ぶ。大学卒業後、ブルームバーグLP、セブン&アイ、コカ・コーラボトラーズジャパン勤務を経て独立。フルーツギフトのビジネスに乗り出し、「高級フルーツギフト水菓子 肥後庵」を運営。経営者や医師などエグゼクティブの顧客にも利用されている。本業の傍ら、ビジネスジャーナリストとしても情報発信中。