官僚に響く政策提案のコツ:官僚の思考回路を徹底解説

政策の窓は開いている

こども家庭庁の会議、こども家庭審議会の委員に3名の大学生委員が選出されました。政府の審議会は、こどもに関する政策について調査や審議をする場とされていて、こども政策の政府としての意思決定を行う上で重要な会議体です。

多くの審議会などの役所の会議体は、昔からある経済団体や労働者団体などの業界団体・中間組織の代表が伝統的に選ばれてきました。業界団体や中間組織は多くの加盟企業や構成員を抱えています。団体に加入している人からすれば、自分たちを代表して会議で意見を述べてくれる人がいるわけなので、一定の政治参加の感覚を持てることになります。一方で組織化されていない人たちの声は政治に届きにくいことが課題でした。

大学生という肩書で複数の委員が会議に出席するはかなり珍しいケースといえます。こども家庭庁の発足を機に、これまではあまり聞くことができていなかった人たちの意見も政策に取り入れていこう、という政府の意思表示の現れといえます。

一部の中間組織では組織率が低下(例えば労働組合の組織率は長期的に低下傾向にあります)し、政治家の後援会もなかなか集まりにくくなっているといわれています。これまで通りのやり方では十分に人々の声を政策に反映できなくなってきている危機感が政府にはあるため、こども家庭庁の事例に代表されるように、行政との距離があった人たちの声も政策に取り入れていこう、という機運が近年生まれているといえるでしょう。

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官民の価値観のすり合わせが政策を前に進める

このように政策の窓は大きく開かれています。民間企業や、NPOの側でよい政策の提案があれば受け入れられる素地がありますが、そのためには民間サイドの提案の理由や背景について官僚側が納得することが必要です。ところがこれは結構難しい。

民間の考え方と官僚の考え方は結構違う部分があるからです。飛び切りの政策案をもって官僚とコミュニケーションをとったもののうまくいかなかった民間企業の方からは

・社会が便利になるよいアイデアを官僚が採用しない
・民間のスピード感が官僚にない

なんて嘆きを聴くこともあります。

これらの印象をもたらす原因は、端的に言えば、民間団体と官僚に価値観の違いがあるからです。そしてその違いは民間企業等が取り扱う「商品」と政府が取り扱う「政策」の性格の違いから生まれています。

<政策の特徴:代替性がない>
政策と商品の根本的な違いを一言でいえば、

・商品は企業も顧客もお互いを選べる。
・政策は政府も国民もお互いを選べない。

ということです。

サラリーマンの楽しみの一つであるランチを例に考えてみましょう。ラーメン屋に入れば味噌、豚骨、しょうゆと自分の好みに合わせてスープやトッピングを選ぶことができますし、その店の味がいまいちであれば、他のラーメン屋に行くこともできます。なんならラーメン屋でなくてもいろんな料理屋が街にはあふれています。時には「節約のために食べない」という選択をとることもできます。

このような選択肢の中から欲しいものを納得して買うのが普通です。つまり、買い手は売り手を選ぶことができるのです。あまり好きでない商品は意図的に買わないこともできます。

売り手も顧客を選ぶことができます。売上が見込めない地域では、商品を販売しないこともできますし、個別の店単位では過去にクレームをつけてきた客だったり、あまりにも失礼な客は、迷惑な客として購入を拒否したり、入店を拒んだりすることもできます。利益を出すという最終目的のもと、企業は顧客を選ぶことができるのです。

これが商品でなく政策の話になると勝手が違ってきます。売り手である政府は買い手である国民を選ぶことができません。

ある政策に対して賛成と反対が半々だったとしても、「では、賛成している人だけにこの政策を適用しますね」ということはいえません。

逆に国民も政府を選ぶことができません。飲酒運転を禁止する道路交通法という法律がありますが、「僕は、酒に強く多少飲んでも全く運転に問題がないから、適用しないでくれ。」ということはいえません。法律は、ひとたび成立すると、その国で生活する人全員に強制的に適用されるからです。

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編集部より:この記事は元厚生労働省、千正康裕氏(株式会社千正組代表取締役)のnote 2023年5月23日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方はこちらをご覧ください。