G7前文と我が国の現状分析と今後のCO2対策

例年開催されるCOPのような印象を感じさせたG7が終わった。新聞には個別声明要旨が載っていた。気候変動対策については、対策の趣旨を述べた前文に以下のようなことが書かれていた。

【前文】
遅くとも2050年までにCO2の排出量実質ゼロを達成するため、世界のクリーン・エネルギーへの移行を加速。将来のクリーン・エネルギー経済を推進する上で透明性のある協力を行う。パリ協定の目標達成に向けて、各国の事情に応じた多様な道筋の存在を認識。世界気温を1.5℃に抑えるために、経済の脱炭素化に向けたグローバルな取り組みを支援する。

つまり、各国は現状を分析し、それに応じた必要な対策を講じる。各国はそれらのプロセスを明確にし、透明性を確保しながら取り組む。それが、各国の多様な道筋の存在を認識した取り組みであると前文では謳っているようだ。

果たして、我が国は、CO2排出の現状を正しく分析しているのだろうか? 我が国から排出されるCO2は大気圏を上昇していき、その過程で地球全体のCO2濃度の上昇にどの程度寄与し、大気の温度をどれほど上げているのだろうか?

政府や研究機関、専門家の報告書などを見てもグローバルな話ばかりで、我が国の火力発電所や工場、車両などから排出されたCO2の行方について分析したものを、私は寡聞にして知らない。

以前、「太陽光パネル義務化を考える」というセミナーを開催したが、参加者から、「日本の工場から排出されたCO2はどこに行っているのか、太平洋に吸収されるのか?」という質問が出された。同じような疑問を感じておられる方も多いのかもしれない。

先ず、今から60数年前の公害問題を振り返ってみる。火力発電所から硫黄酸化物や窒素酸化物が排出されていたという点においては、CO2のケースと似ている。

公害問題、亜硫酸ガス対策

1960年代以降、各地で大気汚染による公害が大きな社会問題となった。主要な原因は、火力発電から排出される煤塵や亜硫酸ガス(SO2)などであり、多くの人が喘息などの健康被害で苦しんでいた。石炭や石油は多くの化合物で構成されており、例えば、硫黄成分は燃焼によってSO2などを生成、それが煙突から排出され、大気を汚染するという現象を引き起こしていた。

北九州などの工業地帯では、発電所や工場などから七色の煙が昇っており、それを成長のシンボルのように思ってきた。我々は、そういった時代を過ごして来た。

左:1960年代の北九州 右:現在の北九州市都心部
出典:北九州市「煤煙の空、死の海から奇跡の復活」

公害対策の技術的対策の一つが、排ガス中に含まれるSO2を吸収液で捕獲し煙突から大気に放出するガス中のSO2濃度を国で定めた排出基準値以下にするという取り組みである。

また、より高い煙突を設置することも検討した。つまり、煙突から放出されたガスは大気を拡散していき、その過程で重いガス(SO2の分子量は64)は降下していく。それが居住地域に降り注がなければ健康被害は少ないということで、最適な煙突の高さを求める計算が行われていた。

煙突の高さを検討するのが、パフモデルによる大気のシミュレーションである。パフモデルとは、煙の拡散を定量的に予測するためのシュミレーションモデルで、無風又は微風の気象条件の計算式として利用されていた。瞬間的に排出された煙の形を英語の「puff」(ぷっとしたひと吹き)に見立てて名付けられたもので、非定常状態や無風、微風時の汚染物質の濃度の空間分布を求めるのに適している。

実際、こうした対策技術を国内で横展開することによって、各地の大気汚染は激減した。今では、それがニュースになる事すらない。中国に出張したとき、しばしば遭遇するどんよりした天空に出会う事もなくなった。

物性から見た二酸化炭素の挙動

前段で、SO2の分子量は64で重いガスと説明した。二酸化炭素(CO2)はどういう物質だろう?CO2は無臭のガスで、分子量は44である。一方、空気(窒素(N2)79%、酸素(O2)21%などの混合物)の分子量は約29、つまりSO2ほどではないが、CO2は50%ほど空気より重い。

公害対策で実践した経験に照らすと、日本の道路を走る自動車の排気ガスや石炭、石油、天然ガス焚き火力発電所などから排出されるCO2が大気圏のはるか上まで昇っていく可能性は比較的少なく、温暖化に寄与することはあっても、その程度はかなり小さいと思われる。

空気より重いCO2は、他の排ガス成分(水分や窒素、硫黄、酸素、炭素などの化合物)と一緒にスタック(煙突)から排出され、大気に放出されるが、ガス密度などの物性、周辺環境の影響を受け、排ガスは濃度分布をもった形で大気に拡散される。

その後、偏西風などに乗って東に移動しながら重い分子は徐々に沈んでいく。国土の東には、広大な太平洋が存在しているので、最終的にはそこで吸収されてしまう。また、雨の多い我が国で降雨があればCO2は雨滴に吸収され、地表や海洋に落下してしまう。従って、日本から排出されるCO2の温暖化貢献度は小さいと考えられる。

面白い図がツイッターで紹介されていた。

出典:Twitter by True Science PEng, DFP, ADFS, MA, MBA

化石燃料由来のCO2は空気より50% 重いので、陸地や海水面によって吸収され減少する。標高3300mのマウナロア観測所で観測されたCO2の増加は、海水の温暖化による脱気現象であって、化石燃料に起因するものではない。

との説明が付されていた。

我が国の取り組みの在り方

現在進行中の気候変動の議論をみていると、「地球環境」と何でもかんでも一緒くたにして、グローバル目標を掲げ議論していることが多いが、日本とヨーロッパとでは、陸地や山脈の広がり、海洋の存在、大気の流れ、温湿度や雨風といった気象条件などが大きく異なっている。地球は一律ではないのであり、各地の事情を十分に理解した上で、現実的な取り組みを個別に進めていかなければならない。これこそ、G7の前文に書かれていたことだ。

昔のSO2同様、気候変動のCOについても、パフモデルを使ったシミュレーションをやってみてはいかがだろうか? コンピュータも計算技術も当時とは違い桁違いに進歩しているのだから、難しくはない。その結果を公表して欲しい。我が国の事情を十分に反映した、より具体的かつ実効性のある政策が打ち出せるのではないだろうか。

そもそも、我が国のCO排出量は全世界の3%程度であり、最大排出国の中国はその約8倍。この数字の差から見ても、我が国の貢献度は限りなくゼロに近い。いくら脱炭素対策を行っても気温に対する影響は、0.00X程度だと言われている。

日本のCOが大気の温暖化に寄与しないのであれば、莫大な予算を費やして、温暖化対策などしなくても良いはずだ。それが前文の謳う「各国の事情に応じた多様な道筋の存在」ではないだろうか。

技術開発は必要だが、これまでの国家プロジェクトがあまり成果を出してこなかったという苦い経験もある。一時私も参画したが、その技術は実用化されていない。そうした原因の精査もなしに、繰り返し我々の税金を注ぎ込んではならない。メリハリのある技術開発をお願いしたい。我々の税金は、国内の貧困や教育、防災、国防など我が国の強靭化に資する分野に回して、投ずべきではないだろうか。

炭素循環の姿

要約すると、日本では化石燃料を燃やして発電しても、煙突から排出されるCO2は国土の東側に大きく広がる太平洋に吸収される可能性が大きい。CO2は太平洋で吸収され、海中のCO2はプランクトンや藻類、魚の餌となる炭素循環を形成している。

「CO2は汚染物だ」と誤解している人が多いが、CO2は海洋生物の栄養素であるばかりか、お米や小麦などの穀物や野菜などとして結実し、それを我々が食べている。牧畜業で必要な餌もCO2があってこそ収穫でき、家畜に与えることができる。CO2は、正に人間をはじめとする動物の生命の源泉である。

より多くのCO2は地球を緑化し自然にとって有益である。空気中のCO2濃度が高まれば、地球上に存在する植物バイオマスの成長が促進される。また、農業にも適しており、世界中の作物の収量を増やし、世界人口80億の生命を支えている。我が国が得意としている植物工場では、野菜の成長を促すために人工的にCO2を与えており、その濃度は1000ppm以上である場合が多いとのことだ。