沖縄の分断を狙う中国の思惑:巧みな影響力工作(藤谷 昌敏)

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政策提言委員・金沢工業大学客員教授 藤谷 昌敏

沖縄県は5月15日で、日本本土復帰51周年を迎えた。

沖縄県は、太平洋戦争末期の凄惨な地上戦で民間人も巻き込まれ、日米両軍で約20万人が犠牲となった。その後、米施政権下の時代になると、米軍機の墜落事件や米兵による暴力事件が相次いだ。復帰後は経済発展を遂げたものの、最近では中国の侵攻による台湾有事が問題となり、政府は昨年末の安全保障関連3文書改定に基づき、南西諸島防衛強化の方針を固め、那覇駐屯地に拠点を置く陸上自衛隊第15旅団を師団に格上げする。

今年3月には陸自石垣駐屯地を開設し、地対空、地対艦ミサイルの運用部隊を配備した。また台湾から約110キロの与那国島にも新たに地対空ミサイル部隊を置くなど、軍事的緊張が高まっている。

一方、国と沖縄県が激しく対立する米軍普天間飛行場(宜野湾市)の名護市辺野古への移設をめぐっては、2022年9月の知事選で再選を果たした玉城デニー知事が、地元紙に「辺野古反対で県民が1ミリもぶれていないことが知事選で証明された」とし、「国連や国際社会の場で県民が、なぜこのように移設反対を訴えているのか幅広く表明したい」などと、2023年中に国連演説を目指すことを表明した。

玉城氏は「政府にカウンターパートを求めるより、世界に問題提起するほうが、幅広いカウンターパートが現れる」とも語ったが、外交や安全保障は国の専管事項であり、玉城デニー知事が国連に問題提起することは、中国などの外国勢力の介入を招き、沖縄の日本からの分離を進める勢力にも利用されるおそれがあると危惧する声も出ている。

県内の保守系市町村議でつくる議員連盟の代表、崎浜秀昭・本部(もとぶ)町議は「県民や国民のコンセンサスが得られないまま、外圧を利用するようなやり方は危険だ。基地のことが国際問題化すれば、有事の際に同盟国が日本への軍事支援をためらう可能性もある」と指摘した。

こうした辺野古移設の問題は、単なる米軍施設の移転という問題だけではなく、台湾、尖閣諸島、沖縄への覇権を狙う中国の意図が複雑に絡み合っている重要な問題だ。それでは、中国は沖縄をどのように認識しているのだろうか。

中国の対沖縄観とは

2020年8月、中国メディア騰訊新聞は、「日本沖縄島の主権はどこに帰属するべきか」という記事を掲載した。

記事では、

歴史的に見ると、琉球は長期に渡り中国の属国であった。朝鮮やベトナムなどと同様、琉球は我が国に朝貢を行ってきた。当時、沖縄の人々にとって華夏(中国)は、天朝(朝廷)のような存在であったのだ。琉球は明朝時代の12世紀から中国と朝貢関係となり、中国は琉球文化に大きな影響を与えてきた。その後、清朝時代に中国はアヘン戦争や内紛の影響で国力が低下し、日本は琉球を自国の属国として強制的に日本に編入したのだ。第二次世界大戦後の1972年、アメリカは日本に沖縄の管轄権のみを返還したが、沖縄の主権については現在においても日本が所有しているとは規定されていない。

と沖縄の主権が今も日本にないことを強調している。重要なのは、こうした中国メディアの対応に対して、中国政府もまた同様な主張を繰り返していることだ。

中国国営メディアの人民日報(2013年5月)は、「釣魚島(尖閣諸島)は中国に帰属しており、琉球についても議論が必要だ」と主張する。さらに「不平等条約である下関条約や、1896年に日本政府が公布した『区制および郡編成の勅令』で釣魚島や沖縄は不当に日本へ編入されてしまった。沖縄は琉球王国であり、琉球王国は独立国家である」と強調している。

そうした中、中国は沖縄に対して、どのような影響力工作を仕掛けているのだろうか。

外国のシンクタンクが沖縄分断工作について指摘

① IRSEM(フランス軍事学校戦略研究所)の報告

2021年、フランス軍事省傘下の軍事学校戦略研究所IRSEMは、中国の影響力拡大戦略について、在外華人を使った中国共産党の宣伝工作、国際機関への浸透、インターネットの情報操作などを分析し、中国が潜在的敵国の弱体化を狙い、沖縄で独立派運動を煽っていると報告した。

沖縄への関与は、中国にとって「日本や在日米軍を妨害する」意味を持ち、沖縄住民には日本政府への複雑な気持ちが残り、米軍基地への反発も強いため、中国にとって利用しやすい環境にある。中国が独立派を招いて学術交流を促したり、中国人が米軍基地近辺で不動産投資を進めている動きがある。

また、中国は独立派と同様に、憲法9条改正への反対運動、米軍基地への抗議運動を支援しており、その背景には日本の防衛力拡大を阻止する狙いがあるとも指摘した。

② 「米中経済安保調査委員会」(米国議会)

2016年、米中経済安保調査委員会は、「中国は東アジア、西太平洋地域でもし軍事衝突が起きた場合の中国人民解放軍の米軍に対する脆弱性を減らすために、その種の衝突へのアメリカ側の軍事対応を抑える、あるいは遅らせるための『接近阻止』または『領域否定』の能力を構築することを継続している」とした。

具体的には、

  • 中国は沖縄に米軍の軍事情報を集めるための中国軍の諜報工作員と日本側の米軍基地反対運動をあおるための政治工作員を送りこみ、日米両国の離反を企図している。
  • 沖縄での中国の諜報工作員たちは米軍基地を常時ひそかに監視して、米軍の軍事活動の詳細をモニターするほか、米軍の自衛隊との連携の実態をも調べている。
  • 中国の政治工作員は沖縄住民の米軍基地に対する不満や怒りを扇動することに努める。そのために中国側関係者が沖縄の米軍基地反対の集会やデモに実際に参加することもよくある。その結果、沖縄住民の反米感情をあおり、日米同盟への懐疑を強め、日米間の安保協力をこじれさせることを企図している。

などと報告した。

こうした外国のシンクタンクから指摘されるまでもなく、沖縄においては、沖縄県外からの独立派や辺野古移設反対派が多数存在し、その中には新左翼系の過激派や韓国人、中国人も混ざっていることが確認されている。彼らは、沖縄独立派を扇動して集会やデモを行わせるだけではなく、市民団体を利用して米軍艦船や航空機の出動数を確認するなどの調査や、辺野古建設の作業用道路の封鎖を行うなどかなりの強硬手段を用いている。

今後、中国の影響力工作を断ち切るためには、一般の沖縄県民に独立派や過激な市民団体が不法で正当性がないことを改めて認識してもらい、政治活動への積極的参加を促して独立派などを孤立させ、その活動をいかに封じ込めていくかにかかっている。(参考、各報道)

藤谷 昌敏
1954(昭和29)年、北海道生まれ。学習院大学法学部法学科、北陸先端科学技術大学院大学先端科学技術研究科修士課程卒、知識科学修士、MOT。法務省公安調査庁入庁(北朝鮮、中国、ロシア、国際テロ、サイバーテロ部門歴任)。同庁金沢公安調査事務所長で退官。現在、JFSS政策提言委員、経済安全保障マネジメント支援機構上席研究員、合同会社OFFICE TOYA代表、TOYA未来情報研究所代表、金沢工業大学客員教授(危機管理論)。主要著書(共著)に『第3世代のサービスイノベーション』(社会評論社)、論文に「我が国に対するインテリジェンス活動にどう対応するのか」(本誌『季報』Vol.78-83に連載)がある。


編集部より:この記事は一般社団法人 日本戦略研究フォーラム 2023年5月19日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方は 日本戦略研究フォーラム公式サイトをご覧ください。