安倍政権の手掛けた働き方改革について「しっかりやることはやった」と評価する人と「逆に規制強化しただけだった」という声があります。
それは逆。もともと働き方改革は、ホワイトカラーの労働時間や解雇規制を緩和する方向だったが、厚労省が反対し、電通自殺事件でマスコミが騒いで、逆に規制強化の方向に行ってしまった。 https://t.co/YT2yUHJTwU
— 池田信夫 (@ikedanob) May 13, 2023
確かに多岐にわたる法改正をしていろいろ変わったのは事実ですが、実際の変化は実感できないという人も多いでしょう。
そもそも働き方改革とは何を目指していたのか。そして、それは今後どうなるのか。いい機会なのでまとめておきましょう。
途中でがらりと変わった働き方改革
一般論ですが、経済というのは規制が多ければ多いほど委縮して成長しなくなります。
たとえば現在、研究職の雇い止めが社会問題化していますが、根っこにあるのは(民主党政権が2012年に成立させた改正雇用契約法による)「無期転換ルール」ですね。
有期雇用が5年を超えた労働者は期間の定めの無い雇用への転換を申し入れできる、とする規制強化の一端です(研究職の場合は特例で10年)。
【参考リンク】理研、「10年ルール」で97人雇い止め チームリーダーの研究者も
一度無期雇用に転換してしまえば事実上正社員と同じで解雇は不可能な固定費となります。仕事が無くなっても雇い続けなければならないし、その分、新しい人材を採ることは不可能になります。
成長に必要な新陳代謝が出来なくなってしまうわけです。
だから、組織はたとえ現在は仕事があるとしても、10年で研究職(やその他有期雇用は5年で)を雇い止めにせざるをえないんですね。
要するに、理研は組織の新陳代謝を確保するために、全力で国の規制から逃れようと苦闘しているわけです。
同じことは普通の会社の正社員にも言えます。高度成長期以降に色々な判例が積みあがって企業が実質的に解雇できない終身雇用が成立。
さらには後付けで90年代以降、定年が55→60→65歳と上がり、現在は70歳が努力義務に。
さらにさらに、消費税と違い目立った反対者のいなかった社会保険料を思い切り引き上げ続けたもんだから、その“固定費”はさらに高騰……
理研と違い、逃れようの無かった日本企業は競争力を失い続け、気が付けば失われた30年と呼ばれる冬の時代へ突入していたわけです。
あとは労働時間に関する規制もそうですね。「働いた時間に応じて時給で払え」というのは一見合理的に見えますが、成果が時間に比例しないホワイトカラーの場合は一工夫が必要です。
「一日中机に座ってぼーっとしてるだけの人」や「月100時間の生活残業をノルマにしている人」にも、時給で支払わないといけないからです。
それで、そのひと工夫というのはボーナスや基本給からあらかじめ、およその残業代分を引いて低くしておくことなんですね。
これなら上記のような困った人間にも対処可能ですが、逆に言うと定時で仕事を終わらせる人間は損をすることになります。結果、「残業しないと生活できない」という理由で残業レースに参加する従業員は逆に増えることになります。
みんなが元を取ろうと頑張って「無駄な仕事」を増やしていっぱい残業する→会社は人件費の予算に納めるためにさらに基本給やボーナスを抑制する→従業員はもっと頑張って無駄な仕事増やして残業する
という現象を筆者は“残業スパイラル”と呼んでいますが、大きくて古い会社では程度の違いはあれ、たいてい目にする風物詩ですね。
ちなみに過労死もこのサイクルから発生するわけです。上記のメカニズムにメス入れない限り、いくら規制でがんじがらめにしたところで過労死はなくなりません。
ではどうすべきか。これもやはり、時間管理という規制を外す必要があります。外したうえで業務範囲を明確化し、労働時間ではなく成果で評価するしかありません。
「担当する仕事は〇〇で報酬は〇〇万円」と契約し、それができたかどうかで評価をするということです。
さて、そういう意味で言えば、第二次安倍政権のスタート直後は、重点政策として「解雇規制の緩和による労働市場の流動化」や「労働時間を規制緩和するWE(ホワイトカラーエグゼンプション)」にしっかりと言及していましたね。
その時点では間違いなく正しい目標を見据えていたと思います。
ただ、その後に電通過労自殺などの不幸な出来事が続いたこと、一部メディアがそれを追い風に大々的な規制緩和反対キャンペーンをやったことで風当たりが強まることとなりました。
結果的に解雇規制の緩和は霧消し、WEはどうやっても適用できないほど骨抜きにされる一方、細かな規制はいろいろ追加され、どちらかというと「働き方改革」というよりは「働き方規制強化」みたいな感じになった印象があります。
実際、現場で安倍政権の働き方改革で目に見える成果があったと評価している経営者や人事担当者に、筆者は一人も会ったことは無いですね。
一応フォローしておくと、だからと言って安倍政権をどうこう言うつもりはないです。だって改革に反対して足を引っ張ってたのは野党ですから。
安倍政権を働き方改革を100点満点で10点とするなら、民主党や共産党は0点といったところでしょうか。
日本の賃金がこの30年間ほぼ一貫して下がり続け、シンガポールはもちろん韓国や台湾にも抜かれたのは事実ですが、政権交代していたらもっとひどいことになっていたのは間違いないでしょう。
以降、
働き方改革はこの一点突破で実現可能
政権が投げ出した働き方改革が勝手に前進しはじめたわけ
Q:「異動までの半年間をどう活用すべき?」
→A:「何か一つ課題に取り組むのはどうでしょう」
Q:「ChatGPT て文系リムーバーじゃないですか?」
→A:「終身雇用という城壁で守られた非効率の楽園を終焉に導くでしょう」
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編集部より:この記事は城繁幸氏のブログ「Joe’sLabo」2023年5月25日の記事より転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はJoe’s Laboをご覧ください