セルビアで大規模な銃犯罪防止集会

バルカンの盟主セルビアの首都ベオグラードで27日、数万人の国民が銃犯罪、暴力犯罪の防止を要求して抗議集会を開いた。同集会は今回が4回目で、親欧州派の5野党が主催した。スロボダン・ミロシェヴィッチ大統領(当時)の辞任を要求した2000年の大規模デモ以来、最大規模の抗議活動に発展してきた。

雨降りの中、傘を差して抗議運動に参加するセルビア国民(ベオグラードの日刊タブロイド紙クリルから、2023年5月27日)

ベオグラードの日刊タブロイド紙クリルはデモ集会を詳細に報じている。集会は大規模だったが、平和的に行われた。

「反政府勢力の『暴力に対するセルビア』抗議活動は今回4度目だ。抗議活動は午後6時ごろ始まり、国会前で集会が開かれ、ベオグラード中心部の交通が遮断された。7時半少し前、集まった人々は公共放送ラジオ・テレビジヤ・スルビイェ(RTS)の建物に向かって歩き始め、そこからタシュマイダンスキ公園に移動し、そこで集会の主催者の代表が演説。抗議活動は午後8時頃に終了した」

デモ集会の直接のきっかけは、5月初めに2件の銃乱射事件が発生し、18人が死亡、多数が重軽傷を負ったことだ。事件にショックを受けた国民が政府に銃規制の強化などを要求する一方、治安担当のガシッチ内相とセルビア保安・情報局(BIA)のブーリン長官の辞任を要求してきた。

反政府支持者はベオグラードのダウンタウンにあるRTSの建物前で、ヴチッチ大統領がRTSに対する厳しい規制を緩め、非政府の声をもっと反映するように強調し、同局の経営陣と編集長の辞任を求めた。そして若い世代に暴力と憎悪を助長しているピンクとハッピーの2つのテレビ局の周波数ライセンスの取り消しを要求、同時に、権威主義的なヴチッチ大統領の退陣を要求するなど、政治運動に発展してきた。

セルビア国民をショックに陥れた2件の銃撃事件を少しふり返る。

①ベオグラードの初等学校(小学校=8年制)で3日、13歳の7年生生徒が校内で銃を乱射し、8人の生徒、1人の学校警備員を殺害するという事件が発生し、セルビア国民に衝撃を与えた。

②犯人の少年は自宅から父親の所有している銃を持って犯行に及んだ。少年は犯行後、自分から警察に電話をかけ、現場に駆け付けた警察に逮捕された。セルビア政府は5日から3日間、喪に服した。

③同事件の翌日(4日)、今度は21歳の男性がベオグラードの南約50~60キロにあるムラデノヴァツ市近郊で車から銃を乱射するなどをして8人を射殺し14人が重軽傷を負った。警察は5日、逃走中の男性を逮捕した。犯行の動機は不明だ。セルビアで2日間(3日と4日の両日)、銃による大量殺人事件が発生したことになる(「セルビア国民、3日間の喪に服す」2023年5月6日参考)。

セルビア政府は4日、今後2年間、新しい銃の免許の発行を停止すると共に、今後3カ月間、内務省が銃器と弾薬が適切に保管されていることを確認するために、銃所有者の検査を強化することを決定した。また、内務省は国民に違法な武器を提出するよう求めた。公式情報によると、これまでに5万丁以上の武器が引き渡されたという。野党は、政権が管理する個々のメディアも社会での暴力の助長に大きく影響を与えていると主張している。

一方、ヴチッチ大統領は26日、野党側の抗議活動に対抗するために与党支持者を動員し、20万人以上の大集会を開催した。「希望のセルビア」をモットーに開催された同集会には、ハンガリーのペーター・シジャルト外相とスルプスカ・ボスニア共和国のミロラド・ドディク大統領らが演説に招かれた。

ヴチッチ大統領は、「2件の大量殺人事件の後、人々が怒り、恐怖を感じているのは当然だ。そして抗議活動で何かを変えたいと思っている人は子供たちがより安全になることを願っている。しかし、旧政権または野党の政治家は、直接関係のない議題まで拡大し、今回の出来事を自身の活動に利用している」と指摘し、2件の暴力事件を政治利用していると批判した(クリル電子版)。

それに対し、野党側は、「国民は子供たちや愛する人のことが心配でデモ集会に参加しているが、政府関係者は攻撃的なレトリックで火に油を注ぎ、抗議活動をますます大規模化させている。政府は市民の抗議活動を嘲笑しているため、政府代表者に対する怒りを更に増大させる結果となっている」と述べている。

なお、ヴチッチ大統領は27日、野党側の要請を拒否する一方、与党「セルビア進歩党」(SNS)の党首を辞任した。後任には、ヴチッチ氏の腹心、ヴチェヴィッチ国防相を選出している。同大統領は、「今後は大統領職に専念し、全国民のために努力していく」と表明している。なお、テレビ局ピンクは、残忍な暴力シーンで知られるリアリティ番組を中止するという。


編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2023年5月29日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。