ジャニーズ事務所はテレビ各局から出入り禁止にされるのか?(中嶋 よしふみ)

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言葉尻を捕らえた揚げ足取り?

(前回:ジャニーズ事務所はジャニー喜多川氏の性加害を認めた)より続く。

筆者の指摘は言葉尻を捕らえただけの揚げ足取りなのか。釣りタイトルによるPV稼ぎなのか。そんな批判も受けると思うが、決してそうではない。

ジャニーズ事務所はこれだけ批判と注目を浴び、慎重に対応をしなければ問題が拡大することは重々承知しているはずだ。だからこそ14日の公式コメントでも『事実であるとすれば~中略~事務所の存続さえ問われる、極めて深刻な問題』と自ら存続にかかわる問題であると表明している。

14日と26日の公式リリースは多数の関係者や社長、役員、そして弁護士が作成と公開に当たって厳しくチェックしていることは間違いない。加えて、ジャニーズ事務所に対してまともな取材がなされていない現段階では、最も貴重かつ重視すべき公式資料であることも間違いない。

それだけ慎重に作られていて、重視すべき公式資料にここまで多数の矛盾があり、なおかつどのように読んでも性加害の発生を前提とした書き方をしている以上は言い逃れできない。

企業の不祥事では「誤解を与えた」という表現が多用される。しかし告発で出ている話はいずれも深刻な性加害であり、捉え方によってセクハラのような、そうでもないような……といった曖昧なものではない。「誤解」の再発防止という意図だったんです、性加害の事実確認はまだこれからです、といった言い訳もまず不可能だ。

ジャニーズ事務所 Wikipediaより

公表された情報から読み取れること。

筆者は15日に公表した「ジャニー喜多川氏の性加害疑惑を、企業不祥事の視点から考える」でも、14日の公式コメントの内容から社長の景子氏について多数の問題を指摘した。

知らなかった発言については、性加害疑惑は個人のトラブルではなく企業の不祥事であり、知らなかったのであればそれ自体が取締役として法的な責任を問われる可能性があること。

喜多川氏の裁判に関する話がすべて伝聞調であることから、当時役員だった景子氏は自ら本人に確認しておらず、取締役としての責任を果たしていないこと。

事実確認の明言は避ける一方で、自身については名ばかり役員といった表現や取締役会を開いていなかったなど、後々責任を追及されかねない話を軽率に書いていること。

そしてこれらのあまりに軽率過ぎる内容から、取締役の責任を語る以前にそもそも取締役の責任を理解していないのでは? 経営者の一人であることを理解していないのでは?という深刻な問題を景子氏が抱えていること。

ジャニーズ事務所は公式コメントを出すまで時間が掛かり過ぎだと批判をされたように、BBCの放送から二か月、カウアン・オカモト氏の会見からは一か月経過している。これだけ時間をかけて作った公式コメントがこのありさまだ。

当然、公式コメントにはこれ以上批判されないように、沈静化されるようにという意図も含んでいるだろう。それでも隠しきれない矛盾点や問題が山のように含まれている。何を言っても批判される状況であることを差し引いても、最大限取り繕っても文面に出てくる問題点と矛盾に、ジャニーズ事務所の本質が表れている。

東山紀之さんのコメントは本当かウソか?

21日に公表した「ジャニーズ事務所・東山紀之さんのコメントは、テレビ朝日と日本テレビによる報道倫理違反の可能性がある」でも、東山さんがテレビで話して数百万人が耳にしたであろう「後輩に待ってもらった」という発言から、筆者は報道介入の疑惑を指摘した。

この記事には、ノーコメントで炎上した櫻井翔さんをかばうために東山さんがそういう言い方をしただけでは? 本人のコメントではなく事務所からそう言わされただけでは? という指摘もあった。要するに誤解を受ける言い方だったかもしれないが、言ったことをストレートに受け止めるのは間違いでは? という指摘だ。

この指摘については、そうかもしれないし、そうではないかもしれないとしか言いようがない。

ただ、根拠の不確かな憶測を加えるとかえって事実から遠ざかる。まずは当事者の発信した情報を、内容が事実かどうかは別に、発信したこと自体は事実であるとストレートに受け止めるべきだ。

景子氏の知らなかった発言も、知らないわけがないと否定・批判をして水かけ論にするより、知らないこと自体が問題である、つまり知っていても知らなくてもどちらにせよ取締役としての責任から逃れられないと指摘する方が意味がある。

東山さんのコメントも筆者は一旦事実として受けとめた。そこから報道介入の疑惑を指摘したところ、日本テレビ・テレビ朝日・ジャニーズ事務所と三社ともこの指摘をハッキリと否定した※。日本テレビに至っては定例会見で社長自ら否定している。

※東山紀之〝発言を待ってもらう〟は報道への介入か ジャニーズとテレ朝、日テレは否定 東スポWEB 2023/05/23

結果として、じゃあ東山さんの待ってもらった発言はなんだったのか? 誰が嘘をついているのか? そもそもなんで放送内容をジャニーズ事務所が事前に知っていたのか? と更に大きな矛盾が浮き彫りとなった。

喜多川氏の性加害疑惑について、真偽不明の情報や自称関係者の匿名コメントが多数流れているが、公表された資料・情報でも読み方次第でこれだけ多数の問題を浮き彫りに出来る。つまり公式リリースにはそれだけの価値がある。

企業を分析する際、最初に見るものは決算書や有価証券報告書と呼ばれる誰でも無料で見られる資料だ。投資家や銀行はこれを分析することで企業の内情を読み解く。重要なことは他の人が知らない情報を探す事ではなく、誰もが知っている情報から他の人が読み取れない情報を読み解く事だ。

ジャニーズ事務所は未上場企業で詳細な決算書や有価証券報告書は手に入らないが、たった二本の短いリリースからでも読み取れることは山のようにある。

あまりに矛盾が多く長い説明になってしまったものの、誰でも見られる情報に価値は無い、秘密の情報・ここだけの話にしか価値はないと思っている人は多いかもしれないが、それは間違いであると指摘しておきたい(これは筆者なりに一連の記事である程度示した)。

テレビ各局は性加害があった前提で対応を。

テレビ各局は前述の通り静観のスタンスを取っているが、26日のリリースはジャニーズ事務所が事実関係を認めたという読み方しか出来ない。各局は今後性加害はあったという前提で対応すべきだ。そうなればジャニーズ事務所との取引は継続が不可能だろう。

まだ事実関係は不明、当初判断を保留した公式コメントと矛盾している、揚げ足取りのような記事で事実認定なんて知ったこっちゃない、ということであれば、各局はジャニーズ事務所にこの記事で指摘した矛盾点を取材なり確認なりすればいい。「再発防止」とは一体どういう意味なのか? と。

矛盾を放置するのなら景子氏の知らなかった発言と同様、知らなかったのではなく知りたくないだけ、ということでテレビ各局はまだ忖度を継続していることになる。

17日公開の「テレビ局がジャニーズ事務所への『交渉力』を失った理由。」では、今後はスポンサーが下りて、広告の採用も無くなる、そうなればテレビ各局もジャニーズ事務所のタレントを使わなくなると書いた。株主からの突き上げを受けたら経営陣は対応せざるを得ないからだ。

幸か不幸か、株主総会が多数開かれる6月が目前に迫っている。上場企業は決算日から3か月以内に株主総会を開く必要があり、日本企業の多くが3月決算で株主総会は6月に集中している。そしてキー局もすべて3月決算で6月に株主総会が開かれる。これは多数のスポンサーも同様だ。

果たして性加害疑惑を静観したままで株主総会は乗り切れるのか。過去の経営責任を追及されかねない事から認めたくないのかもしれないが、静観や注視といった発言がすでにハイリスクであることをおそらく各局の経営陣はまともに理解していない。

公開された情報から読み取れる問題と矛盾はすべて指摘したつもりだ。あとは各メディアの取材に期待したい。

中嶋 よしふみ  FP シェアーズカフェ・オンライン編集長
保険を売らず有料相談を提供するFP。共働きの夫婦向けに住宅を中心として保険・投資・家計・年金までトータルでプライベートレッスンを提供中。「損得よりリスクと資金繰り」がモットー。東洋経済・プレジデント・ITmediaビジネスオンライン・日経DUAL等多数のメディアで連載、執筆。新聞/雑誌/テレビ/ラジオ等に出演、取材協力多数。士業・専門家が集うウェブメディア、シェアーズカフェ・オンラインの編集長、ビジネスライティング勉強会の講師を務める。著書に「住宅ローンのしあわせな借り方、返し方(日経BP)」
公式サイト https://sharescafe.com
Twitter https://twitter.com/valuefp

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編集部より:この記事は「シェアーズカフェ・オンライン」2023年5月28日のエントリーより転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はシェアーズカフェ・オンラインをご覧ください。