底辺を経験した人が強い理由

黒坂岳央です。

成功者や社会的地位が高い人は、エリート街道をひた走ってそのままゴールインした人と、昔は底辺を経験してそこから下剋上した人の2パターンに分かれるという肌感覚がある。あくまで筆者の個人的感覚に過ぎないが、後者の底辺から下剋上したパターンの方が成功後のメンタルが安定していると感じられる事が多い。

自分自身は成功した資産数十億円規模の大富豪などではないが、兄弟4人のシングルマザー家庭出身でそこから色々と見てきた自己体験的からも、この理由がわかる気がしている。本稿で言語化に挑戦したい。

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底辺を知っている人は強い

かなり前の話だが、以前にある経営者と夕食をご一緒した時に「まあ最悪、今の仕事が立ち行かなくなったらまた携帯販売員やればいいから」というセリフを笑いながら言われたことがある。

この人物は今ではかなりビジネスで成功をおさめており、経済的にも社会的にも誰が見ても上位層にいるのだが、起業してビジネスを軌道に乗せるまではなかなか顧客を得るのに苦労した時期があった。

彼は家族がいる中で起業したため、ビジネスが軌道に乗って食いつなぐために携帯電話販売の営業の仕事(派遣、アルバイトどちらかは不明だが、非正規雇用だ)をしていた。今は事情が変わっているかも知れないが、当時は携帯電話を売れば売るほど販売員にもインセンティブが入ってくる仕組みだったらしく、元々営業の素質があったようで同僚の中でもかなり稼げて生活を維持できたといっていた。現時点で彼の仕事が立ち行かなくなる兆しは一切ないが、それでもどうしようもなければまた営業の仕事に戻ればいいと腹をくくっているという。

これは自分自身も同じ感覚がある。人生で最も困窮していたのが上京したばかりのタイミングで、足立区北綾瀬のオンボロマンションで、壁の中をねずみが走る音がうるさくて眠れないような物件に住んでいた。食事は玄米と大豆を発芽させ、圧力鍋で調理したものがメインで後は野菜とフルーツなどを食べていた。

その後、正社員職を得てなんとかなったが、決まるまでは毎日コンビニのタウンワークを見て仕事を探していた記憶がある。それでも「お金がなくて地獄のような苦しみ」というわけでもなく、貧しいなりに知恵を凝らして生活の効率化と創意工夫には楽しさが宿り、お金はほとんどかからず心までは貧しくなかったと記憶している。

この経験があるため、よしんば今からいざボトムに落ちることがあったとしても大きな恐怖はない。「まあ、あの生活に戻ればなんとかなるか」という感覚なのだ。

あらかじめボトムのライフスタイルを経験しておけば、別に怖くはないのだ。

恐怖は常に無知から生まれる

アメリカの哲学者、エマーソンの有名な言葉に「恐怖は無知から生まれる」というものがある。日本語でも似たような言葉があり、幽霊の正体見たり枯れ尾花あたりが比較的近い意味合いではないだろうか。要するに知らないこと、未経験のことは何でも怖いのだ。冒頭に取り上げた「エリート街道を走ってきた成功者」についていえば、彼らは生まれつき敗北を知らない世界の住人なので、「落ちる」ことの恐怖はかなりのものと推測している。

京大出身でキャリアを積み重ねてきたエリート社員と話をしたことがあったが、「今より落ちることを受け入れられる自信がないので、安全パイを取る性格だと自覚している」と認め、自分の実力よりかなり小さい世界で上を目指すという生き方を選んでいるという話を聞かせてくれたことがあった。もちろん、色々な感覚の持ち主がいるので彼の考え方がすべてとは思わないが、同じ属性で似たような価値観の人はいるのではないだろうか。

翻ってボトム出身者は、もう向かう方向が上以外はないので堂々とリスクを取って挑戦できる。自分も若い頃は今考えると無謀な挑戦をしたなと振り返るような経験がある。だが、そのリスクテイクが時に大きなリターンをもたらしてくれるのだから、リスクリワードはかなり良い。さらに失敗してもまた馴染みのある生活に戻るだけだと考えれば大きな恐怖もない。

総じて底辺を知る人の強さは生まれつきの気質、というよりリスクを取りやすい環境がそうさせていると感じるのである。

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ビジネスジャーナリスト
シカゴの大学へ留学し会計学を学ぶ。大学卒業後、ブルームバーグLP、セブン&アイ、コカ・コーラボトラーズジャパン勤務を経て独立。フルーツギフトのビジネスに乗り出し、「高級フルーツギフト水菓子 肥後庵」を運営。経営者や医師などエグゼクティブの顧客にも利用されている。本業の傍ら、ビジネスジャーナリストとしても情報発信中。