食材の命を輝かせる自然の滋味深い料理の数々:ミラジュール

加納 雪乃

マウロ・コラグレコという料理人をご存知だろうか? フランス南東部、イタリアと国境を接し地中海に面したマントンにある、レストラン「ミラジュール」のオーナーシェフだ。

フランス版「ミシュラン」で2019年に三つ星を獲得。同じ年、世界中のフーディーや料理ライターらの投票でランキング形式でレストランを評価する「ワールド50ベストレストラン」で一位に輝いた、今、世界的に最も高く評価されている料理人の一人だ。

世界で最も注目されている料理人の一人、マウロ・コラグレコ。自家菜園にて。
©︎Matteo Carassale

1976年生まれの、イタリア系アルゼンチン人。アルゼンチンで料理学校を卒業したのち、フランスへ。「ラルページュ」、「アラン・デュカス・オ・プラザ・アテネ」など、いくつかの三つ星レストランでの修業を経て、2006年にマントンで独立した。

南仏とのつながりはなかったが、店を探す中でこの地を訪れた時、雨ばかりでグレーな空色のパリと全く違い、イタリアやアルゼンチンのような大きな太陽が照らす気候に惚れ込んだ。無名の外国人が手掛ける「ミラジュール」だったが、半年後には、「ミシュラン」と並ぶ高名なレストランガイド「ゴー&ミヨ」が”今年の新星”にノミネート。コラグレコの評価はぐんぐん上がり、今や、世界中の美食家が熱い視線を向けるレストランとなった。

フォアグラに、さくらんぼとカカオを組み合わせた、”果実の日”の料理。
©︎Matteo Carassale

元々自然を愛し、自然や生産者、食材とのつながりを大切にしていた料理人だが、新型コロナウイルスで営業ができなかった数ヶ月間の間に、改めて自身の料理や自然環境と向き合って熟考。その結果、新たな料理哲学に辿り着いた。それは、バイオディナミックカレンダーにのっとった、より自然と響き合う料理コンセプトだ。

いちごとルーバーブにルッコラを香らせた、”果実の日”のデザート。
©︎Matteo Carassale

カレンダーにのっとり、毎日を”花”、”果実”、“葉”、”根”の四つに分類。それに沿って、”果実”の日は旬の果実をたっぷり使った料理、”葉”の日は植物の樹液を意識した料理などを主役にしたコース料理を提案するようになった。

©︎Matteo Carassale

また、今でこそ、地方で活躍する料理人が自家菜園を持つことは珍しくないが、コラグレコはオープン当初から、店の敷地に果樹園&ハーブ園を持ち、その後も店の周辺に次々と菜園を作り、今では五ヶ所に、果樹園や菜園、オリーヴ畑も所有し、料理同様、バイオディナミックカレンダーに基づいた、自然と宇宙の力を大切にした食材を育てている。

多くの三つ星レストランで修業したコラグレコは、もちろん高い料理技術を持つが、「ミラジュール」のテーブルに運ばれる料理には、技術よりも、自然の力がみなぎる食材の質の高さと、彼自身の自由闊達な表現、そして美的感覚が全面に出ている。フランス人でないからこその感性もあるのだろう。ちなみに彼は、フランス版「ミシュラン」で初めて三つ星を得た外国人料理人だ。

テーブルからの眺望も「ミラジュール」の魅力。
©︎Matteo Carassale

料理の新たな哲学誕生と同時に、厨房や客席も一新し、全ての要素で、自然との共存性をより強めた「ミラジュール」。青くきらめく地中海とマントン市街を一望する美しい客席で、コラグレコの料理を楽しむ時間は、自然の恵みと偉大さを感じるひとときでもある。

Restaurant Mirazur