中国共産党政権は世界の最先端を行く知識人、科学者など海外ハイレベル人材を獲得するプログラム、通称「千人計画」を推進中だ。ターゲットとなった人材に対しては、賄賂からハニートラップまでを駆使して相手を引き込み、リクルートすることはよく知られている。
大学教授や研究者の場合、研究費支援、贅沢三昧の中国への旅などが「甘い誘惑」だ。その禁断の実を味わうと、もはや忘れることができなくなるから、最終的には中国共産党の言いなりになってしまう。そして立派なパンダハガーとなっていくわけだ。
ちなみに、「パンダハガー」(Panda Hugger)とは、中国が世界の動物園に送っている友好関係のシンボル、動物パンダをハグする「抱く」を意味する。その両者を結合して「中国に媚びる人」「中国の言いなりになる人」、日本語訳では「媚中派」を意味する。中国共産党は人間の弱さがどこにあるかを熟知しているから、物欲、性欲を刺激するものをちらつかせるのだ(「トランプ政権の『パンダハガー対策』」2020年8月1日参考)。
ところで、中国共産党政権は政治家、大学教授、研究者だけではなく、欧米諸国の元戦闘パイロットをもリクルートしている。独週刊誌シュピーゲルが2日、報じたところによると、中国共産党政権はドイツ連邦軍の元戦闘パイロットをリクルートし、中国でトレーナーとして雇用しているという。シュピーゲル誌によると、少なくとも数人の元ドイツ空軍士官が中国で訓練官として、中国空軍パイロットを訓練しているというのだ。
ドイツのボリス・ピストリウス国防相は3日、シンガポールで開催されたアジア安全保障会議で中国の李尚福国防相と会見し、元ドイツ戦闘機パイロットのリクルートを停止するよう異例の要請をしたという。それに対する中国側の返答は報じられていない。
独メディアの報道によると、ドイツ軍の対諜報機関は現在、調査を開始している。ドイツ治安当局は、ドイツの元軍パイロットがドイツ連邦軍と北大西洋条約機構(NATO)の軍事機密を中国人民軍に渡す可能性があると懸念している。特に、中国側が台湾武力再統一を模索している時だけにそれらの情報が役立つからだ。なお、独連邦国防省によれば、中国は採用活動に外部のヘッドハンターを活用しているため、ドイツ側は退職戦闘機パイロットの人材管理は容易ではない。
ドイツ連邦軍の対諜報機関(MAD)はパイロットらの活動の詳細を解明するため、集中的な調査を開始した。さらに現在、これ以上の元パイロットが中国のオファーに乗ることを防ぐための情報キャンペーンが始まっている。対象は、退職を間近に控えた空軍パイロットたちだ。
問題は、ドイツの元戦闘パイロットが中国側に雇用されるというケースは初めてではないことだ。英メディアは昨年、元英国軍パイロットらが多額の資金で中国に誘惑されていると報じたばかりだ。BBCによると、最大30人の英国人が中国側の呼びかけに従ったという。彼らには27万5000ユーロ相当の金額(約4130万円)が提供されているという。
BBCは西側当局者の発言として「元軍戦闘機パイロットにとって中国側が提供する金は魅力だ。一方、中国側は台湾紛争などの場合に関連する情報に関心がある。中国空軍は新たな戦術や能力の開発支援のため、西側の経験豊富なパイロットを必要としている」という。
BBCによると、イギリスの治安当局は2019年に中国側の元パイロットのリクルートに気が付いたという。コロナ禍後、中国側は一層、リクルートを加速している。西側当局者は「現役パイロットも標的になるだろう。中国政府は欧米諸国のパイロットに興味を持っている」というのだ。
1人の戦闘パイロットを育成するためには多くの資金と時間が投入される。中国共産党政権はそのパイロットたちに触手を伸ばし、彼らの経験と能力を獲得しようと腐心しているわけだ。
編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2023年6月5日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。