トランプ政権の「パンダハガー対策」

米ワシントンのシンクタンク「戦略国際問題研究所」(CSIS)が7月23日、日本の安倍晋三政権内の中国接近派、媚中派を名指しで批判する報告書を発表したが、同報告書は日本国内でも反響を呼んでいるという。

ジョンソン英首相と会談するポンぺオ米国務長官(2020年7月21日、米国務省公式サイトから)

トランプ米政権の最近の中国批判は中途半端ではない。真剣だ。米国内の中国のスパイ活動を暴露する一方、テキサス州ヒューストンにある中国総領事部の閉鎖を要求し、不法なスパイ活動、情報収集をしていた工作員、外交官追放に乗り出してきた。

その一方、ポンぺオ国務長官は欧州を訪問し、中国の脅威を説明、反中包囲網の構築に乗り出してきた。同時に、カリフォルニア州で行った対中政策に関する講演では、中国共産党政権を「破綻した全体主義イデオロギー国」と指摘し、世界の自由諸国に対して「中国共産党政権を打倒すべきだ」と檄を飛ばしたばかりだ。

例えば、米国の長年の友邦国・英国ではジョンソン政権がこれまでの親中政策を転換し、米国と同様、厳格な中国政策を取り入れ、中国通信機器大手「華為技術」(ファーウエイ)問題でも明確に距離を置いてきた。欧州ではドイツのメルケル政権がトランプ政権の反中包囲網には慎重な姿勢を崩していない。エスパー米国防相は29日、ドイツ駐留米軍を約1万2000人縮小し、2万4000人規模にすると発表した。トランプ政権が駐独米軍駐留兵士の数を削減したのも、ロシアや中国に傾斜するドイツに対する戦略的見直しが進んできている結果かもしれない(「駐独米軍の縮小に前米大使の『影』」2020年6月26日参考)。

ところで、英語で「パンダハガー」という言葉がある。その意味は「媚中派」だ。「パンダハガー」(Panda Hugger)のパンダは中国が世界の動物園に送っている友好関係のシンボルの動物だ。ハガーは「抱く」を意味する。その両者を結合して「中国に媚びる人」「中国の言いなりになる人」といった意味となる。日本語訳では「媚中派」だろうか。

遠藤誉・中国問題グローバル研究所所長によると、CSIS報告書の中で「媚中派」とみられている二階俊博自由民主党幹事長は実際、自分の故郷の動物園にパンダを買ったという話が紹介されているという。文字通り、二階幹事長はパンダを抱いた政治家、「パンダハガー」の1人ということになるわけだ。

今年11月の米大統領選の争点には新型コロナウイルス感染対策、経済政策、移民問題など多くの課題が挙げられているが、米国を含む自由諸国の未来を考える時、米国の対中政策こそが最大の争点となるべきだろう。換言すれば、米民主党政権が実施してきた中国との協調を重視した「関与政策」に戻るか、トランプ米政権の反中政策を継続するかの選択だろう(「それでもトランプ氏を推す理由」2020年7月19日参考)。

参考までに、誰を「パンダハガー」というべきだろうか、「パンダハガーの条件」だ。パンダのファンが前提条件ではないことは明らかだ。中国共産党政権がオファーする「甘い汁」に屈服した人々の総称と理解すればいい。その「甘い汁」には国家レベル(国益)から個人レベル(私益)までさまざま考えられる。個人レベルでその「甘い味」を一旦味わうと、次回は断れなくなる。そして気が付いた時はその「甘い汁」なしでは生きていけなくなる。不法なアヘン接取を繰返し、麻薬中毒の虜になっていくプロセスに酷似している。

具体的に表現すれば、大学教授や研究者の場合、中国共産党が提供する研究費支援、贅沢三昧の中国への旅、ハニートラップなどが「甘い汁」だ。その禁断の実の味を知ると、もはやそれを忘れることができなくなるから、最終的には中国共産党の言いなりになってしまう。そして立派なパンダハガーとなっていくわけだ。中国共産党政権は海外ハイレベル人材招致プログラム「千人計画」を推進中だ。

興味深い点は、中国共産党政権が「甘い汁」として提供するものは金銭、高級品、贅沢な接待などだ。ハニートラップは特に警戒されている。中国共産党は人間の弱さがどこにあるかを熟知しているから、物欲、性欲を刺激するものを「甘い汁」としてちらつかせるわけだ。

古代イスラエル王国時代のソロモン王は神に「世界の栄華」より「善悪を知る知恵」を求め、神を喜ばした。中国共産党政権が大学教授に「5000年の中国の悠久な歴史を知る大百科事典を提供する」と言って誘惑はしない。月1万ドルの研究支援金や家族連れの北京旅行の誘惑だ。中国共産党政権は唯物論的世界観に立脚している。だから、誘惑する時もその物質的な「甘い汁」を用意する。

サタンはイエスに3つの誘惑を試みるが、イエスはことごとくその誘惑の裏の計略を暴き、サタンに打ち勝つ。最終的にサタンはイエスの前から離れていかざるを得なくなる。しかし、通常の人間はイエスのようには物資的な誘惑に対して毅然とした態度を維持できないから、中国共産党政権が提供する物質的恩恵を断るのは難しい。その結果、中国の「甘い汁」に屈服し、パンダハガーとなっていく。その数は1人や2人ではない。高尚な人生哲学を講演する大学教授が中国側の高価なプレゼント攻勢にあっさり屈服し、中国共産党政権の人権問題を擁護する親中派学者に変身した、といった例は珍しくない。

中国共産党の物資的な「甘い汁」の誘惑に負け、「自由」や「人権」という人類が歴史を通じて獲得してきた精神的宝を放棄することはできない。中国共産党政権は今や世界を脅かす最大の脅威となっている。第2次冷戦の勝利者が自由と人権を擁護する民主主義陣営だという保証はない。ひょっとしたら、中国共産党政権が勝利者となるかもしれない。世界的大流行(パンデミック)となった新型コロナウイルスが中国湖北省武漢市から発生したのは決して偶然ではないだろう。21世紀に生きるわれわれは、中国共産党政権の脅威を知らなかった、とはもはや言い訳できないだろう。


編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2020年8月1日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。